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従来の船の主要寸法は、運行採算を主とした経済性に影響のある要素を優先し、港湾事情等の制約がこれに次ぎ、動揺に関しては、復原性上の検討はなされるものの、むしろ2次的である場合が多い。本研究で設定した船型は表4-1に示した単胴型フェリー、高速艇、双胴船の3船型である。

表4-1 理論検討の対象船型と主要目

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この3船型とも、現在就航している船を代表する主要寸法を設定しており、夫々の船が各種の制約下で経済性を含めた総合的判断に立って選定された主要寸法と考えてよい。換言すればこの設定は、一般論ではなく、主要寸法の現実的な制約下で、他の性能を損なわずに船体形状だけで、船酔いの主因と見なされる上下加速度をどこまで減少できるかの限界を求めるためのものである。
その結果の詳細は前章に詳述したが、これ等の結果と一般論の主要寸法の選択を総合すれば、動揺の少ない船型設計の効率のよい展開が可能である。

 

乗り物酔いの発症メカニズムの解明を通じ、動揺刺激の強さと乗り物酔いとの関係が明らかになり、設計指針或いは規準の設定が待たれるが、4.1に述べたように、本調査研究で多くの知見は得られたが、複雑な生理、心理要因を総合的に体系づけるまでには至っていない。ここでは従来発表されているものを用いて本研究の動揺低減を評価してみることにする。
工学的なアプローチすなわち動揺量を入力として、乗り心地を出力とした研究(途中の生理、心理要因を無視)としては、O’Hanlon等の実験結果に基づく嘔吐率(図4−1)を利用した耐航性能評価法を提案している池田等の研究がある。この論文によれば、基本設計段階での評価法として、上下加速度の応答関数に評価関数としてO’Hanlon等の嘔吐率を掛けて、波周波数に対する嘔吐率を求め、船型の優劣を論ずることを提案している。本調査研究で実施した前記3船型の内、最も普通の単胴型フェリー船型について、この池田等の提案の評価法を適用してみる。
(1)規則波中の上下加速度応答と嘔吐率
原型と改良船型について、波高2mの規則波に向波状態で2時間暴露された時の上下加速度による嘔吐率を求めた。規則波中の上下加速度を図4-2に示し、O’hanrol等の実験結果に基づいて算出した嘔吐率を図4−3に示した。約15%の上下加速度の低減が、約6%程度の嘔吐率低減となる。
(2)不規則波中の上下加速度応答と嘔吐率
有義波高2mの不規則波中の上下加速度の標準偏差(図4−4)と平均周期を用いて嘔吐率を求めたものを図4−5に示す。スペクトルの影響も見るために、ITTCスペクトル、JONSWAPスペクトルの両者について求めてみた。
ITTCスペクトラムでは平均周期8.7秒で上下加速度の標準偏差が13%低減し、嘔吐率が1

 

 

 

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