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(2)なぜ保存が必要か(保存とまちづ<り)

 従来、建造物の保存が必要と考えられてきたのは、その建造物の歴史的な文化財としての価値があるものという認識があった。その下に、国、府、市によろ文化財指定あるいは登録により保存が図られてきた。そして年代的には、主として近世以前(江戸時代以前)の建造物が対象となってきた。その結果として、単体の寺社等が主要な対象として保存が図られてきたといえる。
 その後、「伝統的建造物群保存地区」の創設等面的に暮らしとともに保存を図る動きや、「文化財登録制度」の創設等近代化遺産に対する保存等保存に対する考え方は拡がりを見せてきており、今や保存とまちづくりは切り離せない関係として認識されるに至っている。 舞鶴市においても、暗いイメージとして放置されていた「赤煉瓦建造物群」が近年脚光を浴びてきており、保存運動が高まってきているが、この期にあたり、今一度「なぜ保存が必要か」ということを考えてみることとする。

?舞鶴市の個性発揮のために
 全国どこにいっても同じようなまちがみられる。まちの現代化の過程において、古いものは取り壊され、「ミニ東京」といった同質のまちが拡大再生産されている。一昔前はそのまちそのまちに特徴ある風景が展開されていたのに、今はそのまちに個性を見出すのは困難となっている。どのまちにも長い歴史の積み重ねがあり、声の歴史が感じられるまちでありたい。幸いなことに、舞鶴市においては、市街地の更新の中において今なお膨大な量の赤煉瓦建造物群が残存してきた。それは戦争の影を引きずる負の遺産としての側面をもってはいるが、一つ一つが舞鶴市の歴史を語る生き証人でもある。その歴史を真摯に受けとめ、守り育てていくことが、他のまちにない舞鶴の個性の発揮にとって重要である。
 また、近代化遺産の重要性が指摘されている中、これ程、赤煉瓦建造物を中心とする近代化遺産が多様性と総合性をもって集中しているところは全国でも稀といえ、その保存は全国的な価値を有している重要な資産に図られるべきものといえる。

?赤煉瓦建造物は美しい
 単純に考えて、「赤煉瓦建造物は美しい」。ノスタルジック(郷愁)や暖かみを感じるとともに、建造物そのものを冷静にみても「美しい」といえる。これは現代の建造物のデザインのまずさを差し引いても、相対的にいえることである。特に舞鶴の赤煉瓦建造物は、旧軍の施設が多く、それ故当時の第一級の技術が駆使されており、デザイン的にもすぐれたものとなっている。欧米の諸国が歴史的な都市景観を重視しているように、日本においても歴史的景観保存が重要視されるようになってきている。美しい赤煉瓦建造物群は舞鶴市の都市景観の桂となるべき存在である。

?交流の核としての役割
 舞観市のまちづくりは、交流を軸に展開しようとしている。既存産業の停滞状況を脱皮するため一に海を活かした交流および新産業展開が模索されている。近年国内外を問わず交流の核として地域の歴史的資産を活用し成功を納めている例が数多い。舞鶴市においても赤れんが博物館の開設依頼、それを訪ねる観光客も増え、イベントともあいまって一つの核としての位置づけができつつある。これを更に発展させていくために、数多く存在する赤煉瓦建造物の保存と活用は欠かせない課題といえる。この時、建造物群の保存状態の良さ、構造的強度が高いこと(旧海軍の最新技術等)及び赤煉瓦建造物(倉庫など)の転用性の高さ(商業、展示、飲食等種々に転用可能)は、保存活用の大きな力でもある。

 

 

 

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