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理化学講堂(2階建)、生徒館(3階建)及び大講堂である。代表的な建物の規模は以下の通りである。

 庁舎   1 階 250.83坪
       2 階 240.83坪  計491.66坪
 生徒館  各 階 454.50坪  計1363.50坪

 庁舎や生徒館は図(4−3−4a)に示すように外観灰色で、生徒館の正面にはアールデコ風の鉄骨装飾が見られ、また内部床は斜め貼りの珍しい意匠である。図(4−3−4b、c)
 ところで、鉄骨工業界の草分けの一人、汲川圭司氏(1903年三重県生まれ)は名古屋高等工業学校を大正15年に卒業、昭和2年から同5年にかけて呉海軍建築部舞鶴出張所嘱託として機関学校の設計と建設に関わったが、当時の状況が最近の氏の随想録に記されており、機関学校建設の経緯を知る上で貴重である。この本の中で、外観意匠に関し次の思い出話を記している。
 ”・・・軍事学、普通学、講堂の外観は瓦屋根であるが、当初は陸屋根の予定であったが、「構内建物の一部に変化をつけてみては」との意見が関係者の間から持ち上がり、躯体鉄膏は他の建屋と同様とし、木造小屋組を鉄梁上に載せて色瓦葺きとし、壁面も色付タイルを貼り付け・・・。建設地が日本海側の豪雪地帯であったので屋根勾配を5寸として、茶褐色の袖掛け瓦をもって葺き上げ壁の窓間にも赤味かかった色タイルを貼って変化をつけた。”(72頁)とあり、庁舎や生徒館は、最近外装が修復された大講堂と同様に茶系のスクラッチタイル仕上げだったものが後年ペンキ塗装されて現在の状況になったらしい。いずれにしても、当初はF.LL.WRIGHTが帝国ホテルに用いて大流行したスクラッチタイル(textile tile)の最新スタイルだったと考えられる。
 外装タイルと関連して注意すべきことは、機関学校では鉄筋煉瓦(金森式鉄筋煉瓦の可能性がある。)を採用していたことである。これは平の面に径3分の鉄筋を通すために、図(4−3−5)のような穴をあけた特殊煉瓦である。このため、設計と施工に関し下記のような注目すべき配慮がなされた。
 ”・・・全ての鉄骨造の建物について壁用材料として鉄筋煉瓦が採用決定されたので、煉瓦割の寸法によって階高が決定された。この寸法に基づき鉄骨の柱梁寸法と梁取付けの詳紬が図示された。このようにして一枚煉瓦積鉄筋の補強用丸鋼3/8"(9mm)の位置と寸法が決まり、この補強鉄筋の両端を捻切りを施し、ナットで上下梁間(一階下端は布基礎内の鉄筋)に緊結した。柱と梁との取付け方法について剛節点部はブラケットとしピン接合部は部材受けアングル上に乗せ、梁ウェブを両側より通称ネコで挟み、柱材とボルトにて緊結した。
 ピン接合部のボルト孔は、ボルト径より1サイズ上の孔径として綬み止めとナットの脱落防止のためボルトの捻山潰しを施した。ブラケットは山形鋼L-3/8"x3"x3"と鋼板3/8"で合成した。ブラケットは寸法、鋲数、鋲位置を馬簑紙という黄泥色のボール紙に図示し山形鋼、鋼板切断用型板として活用した。(95頁)”
 図(4−3−6)は鉄筋煉瓦の取り付け詳細のスケッチである。魚形水雷庫と同様に煉瓦の壁厚は一枚であるが、大地震時の壁体の崩壊を避けるために、鉄筋端部のネジ加工は通常の建築では考えられないような入念な施工が行われたことが分かる。なお、床の斜め張りに関しては下記のような記述がある。”・・・海軍では艦船のデッキ掃除は水洗いをする習慣がある。同様のことを建物の床の縁甲板

 

 

 

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