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              日向研究室  高田 俊彦

北吸配水池

 外観を見て保存状態の良さに驚いた。レンガと地面との間に木の根が張っていたが、決してレンガを割ることなく、優しく包み込んでいるのだ。  裏の封印されていたドアを開け内部に入っていくと、外観からは全く想像できない、途方もなく広くそして深い内部空間がそこにあった。目の慣れない間は深さが分からず、まるで奈落の底を見ているようで、棚のない上部から底を見ると、風に後ろから押され吸い込まれそうであった。次第に底が見え始めると、まるで地下格納庫のようだ。梯子で降りていくと、改めて底までの距離を感じた。底に降りきってしまうと意外にも大地に抱かれたような安心感がある。まわりを囲む高く重い隔壁は刑務所の塀のようで、その隔壁の下部を見てみると、金属製の蓋の腐食に時の流れを感じた。しかし、その金属部分とレンガとを比較すると、同時期に建造されたとは信じ難い程レンガは美しい。小さくなった空を見上げると、破れた屋根から入ってくる陽の有り難さを感じた。底部を歩き回ってみると、自分の体が小さくなり巨大な迷路にさまよっているかのような錯覚を覚える。なんと脇の水たまりにイモリがいた。この配水池という1つの世界の中で何を想い生きているのだろうか。古い第一配水池の壁面が石組みでされているのに対し、新しい第二配水池はコンクリートである。新しいものはトタン屋根が激しく破れており、古いものと異なり底に植物が茂っていた。コンクリートの乾いた感じも手伝い、明るく中庭のようである。新しいものは植物園にしてみてはどうだろうか。ガラスの屋根で覆い温室空間とし、植物とレンガを同時に見れるようにするのである。そうすることによって、レンガ独特の古び方を再発見できるのではなかろうか。

神崎ホフマン式輪窯

 外観は目の前に丘があるだけで、実物がどこにあるのかわからなかった。まるで映画『インディー・ジョーンズ』のように、遺跡の財宝を探すような期待があった。
 しかし内部に入るとその期待は絶望に変わる。内部に恐る恐る侵入し投光器で照らしてみると、覆いかぶさるレンガに恐ろしい圧迫感を感じた。奥深く入ってしまうと外の光が全く届かず、鍾乳洞のようである。長い間の重みでレンガが生き物のようにうねっており、まるで大きな動物の腸のなかで消化を待つ小動物の気持ちであった。内部を一周したが、しんと静まり返っていた。崩れてしまっている部分を見ると、アーチの重力に低抗している積み方の断面を見ることができた。この単純な工夫で空間ができるのか。
 再び外に出てまわりを歩く。窯の周囲はコンクリート製品の養生場所に使われており、殺風景であった。窯の上のツルに巻かれた煙突がねじ曲がりながら立ち並ぶ様子は、アンコールの遺跡のように、植物と共に生きているようである。これが旧世代の最新鋭の生産ラインだと思うと、やるせなくなった。ツルをかき分けて、小さい方の煙突に登ったが、意外に頑丈である。ツルでもっているのであろうか。窯の上に登り、植物を刈り、土を掘り返すとレンガが出てきた。この地面の下にレンガのアーチによって空けられた空間があろうとは想像し難い。春が来ると上部の草むらは菜の花などが咲き、のどかでいながら何かものさみしい、廃線となった鉄道の線路にも似た情景を演出するのではなかろうか。しかし、このままではあまりにも危険である。そこで窯の一部を補強して安全性を確保し、レンガが食物連鎖のなかに組み込まれていく様子が、外観だけでなく内部からもわかる完全な遺跡にしてはどうだろう。

 

 

 

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