日本財団 図書館


大連医科大学図書館 副館長 朱長利
訪日での収穫−所見と感想
 
 2006年12月4日から11日のちょうど一週間。中国24大学図書館の館長による訪日団が日本を訪れた。
 
1. 今回の訪問の主な目的
 日本科学協会、日本の図書館および日本の文化を理解する
 
2. 訪問活動の主な経過
(1)日本財団と五つの図書館:
武蔵工業大学図書館(私立)、芝浦工業大学図書館、成蹊大学図書館、国会図書館、琉球大学図書館
(2)五つの都市:
東京、沖縄、大阪、京都、奈良
(3)参観したところ:
茶道の体験、皇居、日本皇居、浅草寺、首里城、琉球舞踊、美ら海水族館、金閣寺、東大寺、清水寺、唐招提寺、大阪城天守閣等
 
3. 主な収穫
(1)簡単な日本紹介
 ガイドが日本はタマゴの上に建てられた国だと話していたので、帰国後に日本の資料を調べてみた。日本は太平洋プレート上に位置し、火山活動も頻繁で、人々の生活にかなりの不都合をもたらしている。しかし火山の分布する地区は景色が美しく、温泉資源も豊かなので、著名な観光地や療養地となる。この論法は中国人もよく言う短所を長所に変える弁証法だろう。日本の国土面積は377,887.25平方キロで、ロシアの約1/45、中国とアメリカの1/25で、四川省一つ分の大きさに相当するが、人口密度は四川省よりやはり大きい。狭い土地に人が多く、資源もない。しかも台風や津波、地震が頻繁に起きる。しかし、見る角度を変えると、こうした環境は日本人の深刻な危機意識、努力の精神を育んでもいる。東京や大阪の空中では、片やきらきらと輝く海、片や櫛の歯のように立ち並ぶ摩天楼が見え、海が計画的にブロック分けされているような感じだった。海を渡る橋!高速道路!高架橋が縦横に交錯している。ガイドによると、道沿いに見える壮観な建物の足元はもともと海だったところで、埋め立て造成したところだそうだ。また、都心部での建築は地下に向かって拡張しており、地下七階まで達するものもあるとか!今回見学した国会図書館は地下八階建てである。
(2)日本の空気、住居と交通
 知らない国に来てみて最初に感じたのは空気の質と都市建設についてだった。日本の空気の質はガイドの話によると「洗車は月に一度」だそうで、その一片が窺える。自分で見ても走っている車は全て清潔で、しかも7日間で1箇所しか洗車スタンドを見なかった。中国ではいたるところに洗車や修理の店があり、大違いだ。
 東京と大阪は現代化された都市で、高層ビルもあり、ビルの間には二層の高架橋があったりもした。大連や中国での大都市にあるような美しい大広場はなかった。緑化もあらゆる手を尽くしており、歩道には落葉樹が植えてあってとても自然に見えた。木々の間には落ち葉の袋が見かけられた。しかし7日間のうちで掃除の人を見かける機会がなかったので、いつ掃除されているのか分からなかった(もしかして毎月一度だけ?)。夜9時過ぎに帰っても、朝早く起きても、掃除している人を見かけなかった。
 京都と奈良は中国の西安に相当する街で、往時の都だったため、寺院が多く、建物も平屋が多い。ところどころ街中に農地が見える。
 三つ目に感じたことは道路の交通状況である。日本人は礼儀を重んじ、秩序を守ることは世界でも有名だが、道の往来もそのとおりである。日本では、道を行く人の全てが、特に自動車のドライバーが礼儀正しく、交通ルールをきちんと守り交通安全を守っているので、通行の効率もよく、社会の調和がよく現れている。大連と比較すると、日本の市街地には太い道などないと言える。立体交差もあまり見られず、都心部の幹線は対面四車線に過ぎず、多くは対面二車線である。東京は車が多く走っているが、基本的に渋滞はない。道路の通過率が極めて高く、事故率は低い。往来は盛んだが秩序だっている。これはドライバー全体の良好な運転習慣によりなされる交通効率のよさだ。
 まず、日本人の運転は落ち着いている。加速するために車線変更を繰り返す車が極めて少ない。(大連ではよく見られる現象である)。誰もが通常一車線走行を守っており、早いものと遅いものにそれぞれ決まった位置がある。実際のところ頻繁に車線変更しても違法ではないのだが、道路全体の流れるスピードを低下させてしまいやすい。正直に一車線を守るのは、主に日本のドライバーの自主規制によるものだ。日本の自動車学校では、教習生の卒業時に必ず署名する承諾書がある。その中の一文に流れを乱さず、個人の効率のために全体へ影響を及ぼさないという約束があるのだ。日本のドライバーはこれを承諾し、そうして実行している。
 次に、日本人は車の運転ルールを守る。明らかな交通法規を遵守するだけでなく、習俗の一般化したルールもドライバーの間で暗黙の了解となっており、争いを避け、無駄な譲り合いも避けて、全体の流れをスムーズにしている。たとえば、二台がまとまって走っていたり支線から幹線に入ろうと並んでいるとき、ドライバーは一台ずつ交互に合流する。また、右折車は順番待ちの列が長くなっても対向する直進車を先に通す。
 日本では、一車線の流れが遅くなっても道路全体の渋滞にはつながらない。東京の都区内では密閉された片側二車線の高速道路網があり、車の流量が大きい。道路の分岐はどこでも見られるが、ある方向に向かう車は1、2キロ手前で片側により列として緩やかに移動する。反対側の車線は滞りなく流れ、多くの車が道路の片側に偏って分岐点で渋滞し、二車線とも詰まるというようなことは絶対にない。効率のよい交通はまた、日本での運転が安心できるものだという理由にもよる。歩行者と自転車は勝手に道路を横切らず厳格に信号を守るので、道路の安全と交差点での通過率が極めて高いのだ。ドライバーは青信号を待つだけでよく、完全に安心して全速で通過できる。根本的に「転ばぬ先の杖」としての減速が要らないのだ。道路上に横断歩道が描かれているところには信号機がある。これは先進的な技術で車と歩行者の通行を保証しているのだろうか。車が狭い街道を飛ぶように走っている景色は、この国の効率をくまなく言い尽くしている。
 政府の統計によると、日本は全世界でも交通事故率が低い国の一つである。それでも、日本政府は国民に対し交通マナーに気をつけ、交通安全を重視するよう呼びかけている。日本の通りにある多くの派出所では札が掛けられており、前日の交通事故による全国の死亡者数と負傷者数が書かれているのを目にした。交通事故の多発地帯では一般に人目を引く看板が置いてあり、通る車や歩行者に警告している。
 日本の道路ではクラクションが少ない。ハイビームのフラッシュは相手に警告し道を空けさせるためのものではなく、「お先にどうぞ」の意味である。譲ってもらうと、ドライバーは「ハザードの点滅」で感謝を表したり、手を挙げたり頭を下げたりもしてお礼をする。秩序ある道路交通環境は、小さく言っても国民の礼儀正しさとルールを守るよい習慣が表れており、大きく言うと、平和で穏健な、ルールを遵守する一種の健全な社会心理や、社会全体の調和した雰囲気が表れている。また、日本の乗用車は基本的に小さくて排気量も少なく、価格も安い。特に京都、奈良、沖縄ではこうした車が多く、だいたい80%ぐらいではないだろうか。
(3)日本の清潔さ、静かさ、秩序のよさ、便利さ、周到さと細かさ
 どこでも路上は清潔で、訪れたレストラン、ホテル、図書館などの公共施設も清潔だった。山も水もきれいで、ホテル内の水道水は生水でも飲めるそうだったが、敢えて飲んではいない。道行く車も清潔で、みな新車のようだった。
 日本には失業者が少ない。東京の人口は1300万人で北京と同じぐらいだが、北京で見られるような混乱や無秩序ぶりは全くない。日本の商店は閉まるのが早く、訪日中の七日間にショッピングの時間が確保されていなかったので、誰もが夜の時間を利用していたが、夕食を終えると8時過ぎは過ぎており、店は閉まっていた。沖縄、京都、奈良では人が明らかに少なく、日中に道路を歩いても数人と目にすることがなく、夜まで死んだように静かだった。静かさのもう一つの原因は、車がクラクションを鳴らさないことである。また人々も大声で話したりはしない。聞いた所によると、日本での犯罪率は低く、拾ったお金をきちんと届けるようなことは普通にあるという。自身も目にしたのが、日本の路面店の一部はオープンになっていて監視している人もなく、店員も多くないのに、皆が品物を手にすると自分で店員を訪ねていることだ。これだけでも一つの説明になる。
 日本の自動販売機にはタバコ、飲み物にはコールドとホットが揃っており、品揃えが多いだけでなく、いたるところに備え付けてあり、便利である。飲料の価格は120円〜250円と開きがあり、缶入りのコーヒー、茶飲料、ビール、タバコなどの価格は270円〜330円である。
 日本在住の中国人ガイドの話では、日本と中国とを比べると、20年から30年の差が見られるが、見えないところでは50年かそれ以上の差があるのだそうだ。その見えない差というのは人々の観念と素養である。自室であるビデオを見たことがある。服のたたみ方で、ある日本人女性がTシャツなどのたたみ方を解説しているものだったが、シンプルですばやく、日本人の細かさと注意力を見て取ることができた。今回の訪問中、この一点がまず日本科学協会のしてくれた手配に表れていた。彼らの綿密さと気遣いは毎日毎時、表れていた。事実、それでこそこの訪問日程が完成したのだ。大学教員である我々も当然、時間はかなり遵守するほうである。
 キャンパス、図書館、空港、商店やホテルのいずれにも喫煙する人のための場所や部屋があるのに気づいた。また誰もがこうした規定を守っていたので、私たちの中の喫煙者もこの問題には特に注意した。大連理工大学図書館の劉館長はより身にしみただろう。喫煙も問題は個人の問題であるが、公共施設で専用の場所を設けて使用に供し、また喫煙室に喫煙は健康に有害だと貼り出しているのは、喫煙する人を尊重するだけでなく、注意も喚起しており、喫煙しない人もより尊重している。帰国後、当館では12人で瀋陽を訪問し、数大学の図書館を参観したが、どこにも喫煙室はなく、部屋の隅に吸殻が落ちていたりした。私たち自身も数人の学生が階段の踊場でこっそりとタバコを吸っているのを見かけた。これは危険だし、喫煙者を尊重していない。本学の新図書館では喫煙室のようなものを備えて細かく配慮できるだろうか?
 私たちの泊まったホテルではサニタリーの便座が全て保温機能つきだった。ホテル、空港、商店などのトイレはどこも清潔で紙やハンドソープなどが全てきちんと揃っていた。トイレはTOTOのユニット式で、基本設備が揃っており作りも精巧だった。便器には洗浄機能もあり、個室には例外なく2組の紙がセットしてあった。こうすることで紙を使い切ったときに管理人が気づかなくても利用者が困ることはない。ハンドドライヤーはU字型で、手を上から差し込むと水滴が下へ吹き飛ばされる。ホテルのトイレは小さく、場所によっては便器が斜めになっていたが、どこでも暖房便座と洗浄器がついており、操作ボタンが片側のパネルにまとめられていた。ホテル内の剃刀、ハンドソープ、シャンプー、入浴剤、シャワーキャップ、櫛、ドライヤー、冷蔵庫などは全てきちんと揃っており、ないものがなかったので、自分の持ってきたものは使う必要がなかった。どこのトイレも非常に清潔!これは中国ではそうはいかないことである。中国ではトイレから50メートル離れれば二箇所はトイレが設置されている。本学の図書館もそうなっているが、何故かはわからない。
 泊まった部屋は、入って中を一瞥すると、むしろ床にベッドが一つおいてあるだけの場所と言うほうが正しいが、基本的に空間は余っていなかった(2人では歩くこともできない)。まさに寸土寸金!テレビは17インチ液晶画面で、チャンネルには有料のものと無料のものがあった。有料のチャンネルは明らかにアダルトだったので実験はしていない。
 街に出るといたる所に無料宣伝資料が多くあり、精緻でもあったので、少なからずもらってきた。安いものは全てMADE IN CHINAだった。例えば百円ショップ、例えば安い服や靴の類である。こうした商品は中国で加工されているのだろうが中国では売られていない。中国人はここまで細かいものを作れるというのに、どうして中国の客に向かうと日本の客に向かうように真剣に丁寧にできないのだろうか?
 食べ物も精巧にできており、一食で食べる量は多くないが、十数枚の小皿や鉢が漆の盆に並ぶと盛りだくさんに見えて、またとてもきれいだ。この加工は比較的複雑なのだろう。
 日本の男性ホワイトカラーは普通スーツで、ワイシャツにネクタイを締めている。夏に屋外が40度にもなってもそうしている。炎天下でもこうした正装でいるため、労働者が街中で昏倒するようなことがあってもおかしくはない。私たちの団長やリーダーも、大学図書館の参観時にはスーツ、ワイシャツ、ネクタイを身につけるよう要求してきた。私はタクシーの運転手もスーツと革靴なのに気づいた。実際のところ誰も気にしているのではなく、これが日本人の職業習慣なのだろう。特に沖縄の琉球大学図書館を訪問したとき、当地の気温は25度前後あった。私たちは暑いのに正装の必要はないと言ったが、日本人はやはり正装だった。
 レストランでの食事で、食堂へ入るのに靴を乱雑に脱いでいたが、出るときには店員がきれいに並べてくれていたようで、そろってつま先が外を向いており、すぐ履けるようになっていた。東京のマンションには盗難防止ドアがなく、多くのドアはとても薄い木板やガラスであることに気づいた。たまに一階には防犯フェンスを見かけたが、二階以上で見かけることはなかった。私たちが泊まったホテルには「客室検査」がなく、帰るときはそのままでよく、室内にある札で費用を精算すればよいとのことだった。中国でホテルに泊まると、チェックアウト時の「客室検査」は省略できない。多くのホテルは物品損害賠償価格表すら持っており、非常に信用していないことが表れている。


前ページ 目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION