(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年6月27日04時10分
静岡県沼津港沖合
(北緯35度02.0分 東経138度48.1分)
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船栄丸 |
総トン数 |
6.6トン |
登録長 |
12.27メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
364キロワット |
回転数 |
毎分2,100 |
3 事実の経過
栄丸は,昭和44年3月に進水した,まき網漁業に網船として従事するFRP製漁船で,A受審人ほか1人が乗り組み,操業の目的で,船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,平成17年6月26日19時30分静岡県沼津市静浦漁港を発し,同市大瀬埼沖合の漁場に向かった。
機関室は,中央部にB社が平成7年1月に製造した,MD1250KUH型と呼称する清水2次冷却方式のクラッチ付主機を装備し,前部に主機動力取出軸駆動の交流発電機,充電用発電機,甲板機械用油圧ポンプ及び散水ポンプを備え,後部には右舷側にバッテリー,中央に手動発停式の電動ビルジポンプ,左舷側に空気圧縮機を設置していた。
主機の冷却海水系統は,吸入コック及びこし器を経た海水が,主機直結の冷却海水ポンプで吸引加圧され,クラッチ潤滑油冷却器,空気冷却器,及び清水冷却器を順に経て右舷側から船外へ放出されるようになっていた。そして,クラッチ潤滑油冷却器の入口側と出口側の各冷却海水管には,長さ387ミリメートル(以下「ミリ」という。)内径37ミリ厚さ5ミリのゴムホースが,同冷却器をバイパスして両端が金属バンドで取り付けられ,主機運転中,冷却海水が同冷却器とゴムホースを通るようになっていた。
ところで,クラッチ潤滑油冷却器は,海水側が経年による水垢(あか)やごみなどの異物が堆積して目詰まりし,冷却海水系統の船外放出量が減少するようになり,A受審人は,4月初めごろこの放出量の減少を認め,翌5月2日冷却海水ポンプのインペラを業者に交換させ,同放出量の減少が少し改善されたものの,依然として減少している状況であったが,主機が過熱することなく運転されているから大丈夫と思い,同冷却器の海水側を点検しなかった。
こうして,A受審人は,前示漁場に至って操業を始めたところ,クラッチ潤滑油冷却器海水側の目詰まりが更に進行するようになり,水圧の上昇によりゴムホースが亀裂破口して海水が機関室内に噴出し,主機を回転数毎分1,000にかけて5.0ノットの対地速力で2回目の投網中,翌27日04時10分伊豆大瀬埼灯台から真方位073度1,250メートルの地点において,焦げたにおいがしたので不審に思って機関室内を点検し,海水がクラッチ上面まで達しているのを認めた。
当時,天候は晴で風力2の北北西風が吹き,海上は穏やかであった。
栄丸は,揚網後主機を停止し,来援した僚船の雑用ポンプによって機関室内の海水が排出され,同船により静浦漁港に引き付けられた。
その結果,交流発電機,充電用発電機,バッテリー等が濡損し,のちにこれらの機器を新替えした。
(海難の原因)
本件浸水は,主機冷却海水系統の船外放出量が減少した際,クラッチ潤滑油冷却器海水側の点検が不十分で,同冷却器海水側の目詰まりの進行により水圧が上昇して同冷却器バイパスのゴムホースが亀裂破口し,海水が機関室内に噴出したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,主機冷却海水系統の船外放出量が減少し,冷却海水ポンプのインペラ交換後も同放出量の減少を認めた場合,同系統の冷却器がごみなどで目詰まりしているおそれがあったから,クラッチ潤滑油冷却器の海水側を点検すべき注意義務があった。ところが,同人は,主機が過熱することなく運転されているから大丈夫と思い,同冷却器の海水側を点検しなかった職務上の過失により,同冷却器海水側の目詰まりの進行により水圧が上昇して同冷却器バイパスのゴムホースが亀裂破口し,海水が噴出して機関室浸水を招き,交流発電機,充電用発電機,バッテリー等を濡損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。