(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年9月29日05時30分
静岡県沼津港内
(北緯35度05.9分 東経138度51.4分)
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第三栄丸 |
総トン数 |
6.4トン |
登録長 |
11.60メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
426キロワット |
3 事実の経過
第三栄丸は,昭和52年3月に進水した,まき網漁業に附属灯船として従事するFRP製の漁船で,船体中央部に船首尾方長さ約5メートルの機関室,その上方に操舵室が設けられ,機関室の船首方及び船尾方には魚倉を配置しており,同60年4月に一級小型船舶操縦士免許(平成16年9月一級及び特殊小型船舶操縦士免許に更新)を取得したA受審人が1人で乗り組み,静岡県沼津市大瀬埼沖合漁場における操業を終え,水揚げの目的で,船首0.8メートル船尾1.9メートルの喫水をもって,平成17年9月29日04時00分沼津港西防波堤灯台から真方位066度600メートル地点で,沼津港魚市場前の岸壁に係留した。
機関室は,中央部に主機を装備し,前部に主機動力取出軸駆動の交流発電機,充電用発電機,油圧機械用ポンプ及び1号雑用ポンプを備え,左舷前部に電動の2号雑用ポンプ,右舷前部に主配電盤及び空気圧縮機,右舷後部に船内用バッテリー,左舷後部に主機始動用バッテリー,並びに後部中央に手動発停式の電動ビルジポンプを設置していた。
ところで,魚倉の張排水は,1号雑用ポンプで張水,2号雑用ポンプで排水する別々の配管になっていて,2号雑用ポンプの雑用水系統は,同ポンプによって吸引加圧された魚倉内の海水が,機関室から操舵室左舷側の甲板通路を貫通するステンレス鋼管を通り,船外排出コック及びゴムホースを経て船外へ排出され,同ポンプ吐出側と同鋼管とは,長さ300ミリメートル内径38ミリメートルのゴム継手で接続され,同継手の両側を金属バンドで締め付けており,同系統には,海水圧力計が設けられていなかった。
A受審人は,岸壁係留後ウィンチを操作して1時間ばかり水揚げしたところで魚倉内の海水を排出することとしたが,雑用水系統の船外排出コックが開いているものと思い,同コックの開閉位置を確認しなかったので,同コックが閉まっていることに気付かず,05時10分2号雑用ポンプを運転し,直後に海水の船外排出状況を確認しないまま,引き続き水揚げ作業を行っていたところ,内圧の上昇によりゴム継手のステンレス鋼管側が外れて海水が噴出し,05時30分前示地点において,操舵室内のバッテリー充電不良警報が作動して異状に気付き,機関室内を点検して主機付逆転減速機の上部付近まで浸水しているのを認めた。
当時,天候は曇で風力3の北北東風が吹き,港内の海上は平穏であった。
その結果,交流発電機,主機セルモーター,空気圧縮機,2号雑用ポンプ等が濡損し,のちこれらの機器を洗浄乾燥するなどして修理した。
(海難の原因)
本件浸水は,沼津港において水揚げ中,魚倉内の海水を雑用ポンプで船外へ排出するに当たり,雑用水系統の船外排出コックの開閉位置を確認しなかったこと,及び同ポンプ運転直後,海水の船外排出状況を確認しなかったことにより,同コックが閉まったまま同ポンプが運転され,同系統の内圧の上昇によりゴム継手が外れて海水が機関室内に噴出したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,沼津港において水揚げ中,魚倉内の海水を雑用ポンプで船外へ排出する場合,雑用水系統の船外排出コックが閉まったまま同ポンプが運転されることのないよう,同コックの開閉位置を確認すべき注意義務があった。しかるに,同人は,同コックが開いているものと思い,同コックの開閉位置を確認しなかった職務上の過失により,同コックが閉まっていることに気付かないまま同ポンプを運転し,同系統の内圧の上昇によりゴム継手が外れ,海水が噴出して機関室浸水を招き,交流発電機,主機セルモーター,空気圧縮機,2号雑用ポンプ等を濡損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。