(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年7月17日08時25分
石川県七尾北湾大口
(北緯37度10.5分 東経137度04.4分)
2 船舶の要目
船種船名 |
遊漁船海王丸 |
総トン数 |
2.7トン |
登録長 |
8.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
80キロワット |
3 事実の経過
海王丸は,昭和58年7月に進水したレーダーを装備しない最大とう載人員10人のFRP製遊漁船で,昭和50年3月に小型船舶操縦士の免許を取得し,平成15年7月に小型船舶操縦士(一級・特殊・特定)の免許に更新したA受審人が1人で乗り組み,釣り客5人を乗せ,遊漁の目的で,船首0.25メートル船尾1.10メートルの喫水をもって,同17年7月17日05時00分石川県祖母ケ浦漁港の係留地を発し,同漁港沖合の七尾北湾大口の海域を移動しながら釣りを行った。
08時09分A受審人は,祖母ケ浦港東防波堤灯台(以下「東防波堤灯台」という。)から026度(真方位,以下同じ。)1.27海里の地点を発進し,針路を118度に定め,機関を回転数毎分1,000にかけ,5.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で手動操舵により,同漁港から東方3.5海里付近の釣り場に向かった。
ところで,祖母ケ浦漁港北東部の,東防波堤灯台から075度1.95海里,077度1.90海里,082度2.10海里及び080度2.20海里の4地点を順に結んだ定第66号定置漁業漁場区域の西北西から東南東方にかけて垣根網が張られ,その東南東端には魚取り網が方形に仕掛けられた定置網が存在し,網を立てるため直径30センチメートルのオレンジ色の球形の浮子が約20メートルの間隔で設置されるとともに,浮子や網を固定するため周囲には錘のついたロープが張られていた。
また,A受審人は,自宅で民宿を行うとともに,遊漁船業も行っていたことから,祖母ケ浦埼周辺に存在する定置網の設置区域について知っていた。
08時23分A受審人は,東防波堤灯台から072度1.8海里の地点に達したとき,前方約300メートルのところに,定第66号定置漁業漁場区域に設置されたオレンジ色の浮子を視認し,同区域に進入すると推進器翼に同区域のロープが絡むおそれがある状況であったが,釣り場に早く行きたいこともあり,定置網の構造もいくらか知っていたので,浮子から20メートル離した針路とすれば同区域に進入しても大丈夫と思い,同区域に進入しないよう同浮子を十分に離すなど,安全な針路とすることなく続航した。
08時25分少し前A受審人は,定第66号定置漁業漁場区域に進入し,原針路,原速力のまま進行中,08時25分海王丸は,東防波堤灯台から076度1.9海里の地点において,推進器翼に同区域に設置された定置網のロープを絡ませ,航行不能となった。
当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は下げ潮の末期であった。
その結果,海王丸は,巡視艇に引き出され,自力で祖母ケ浦漁港に帰港し,その後,上架して絡んだロープを解いた。
(海難の原因)
本件運航阻害は,七尾北湾大口において,定置網が存在する海域を航行する際,針路の選定が不適切で,定置漁業漁場区域に進入し,同区域に設置された定置網のロープを推進器翼に絡めたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,七尾北湾大口において,定置網が存在する海域を航行中,前路に定第66号定置漁業漁場区域に設置されたオレンジ色の浮子を認めた場合,同区域に進入すると推進器翼に定置網のロープが絡むおそれがあったから,浮子を目標として同区域に入らないよう,浮子から十分に離した針路の選定を行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,定置網の構造をいくらか知っていたので,浮子を20メートル離した針路とすれば定第66号定置漁業漁場区域に進入しても大丈夫と思い,針路の選定を適切に行わなかった職務上の過失により,同区域に進入し,推進器翼に定置網のロープを絡ませて航行不能に至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。