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平成18年函審第17号
件名

モーターボート銀山丸運航阻害事件(簡易)

事件区分
安全・運航阻害事件
言渡年月日
平成18年7月27日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(井上 卓)

理事官
平井 透

受審人
A 職名:銀山丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
冷却海水ポンプのゴム製インペラ損傷

原因
主機冷却海水ポンプの点検不十分

裁決主文

 本件運航阻害は,主機冷却海水ポンプの点検が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年12月18日08時05分
 北海道函館山南西方沖合
 (北緯41度43.5分 東経140度40.3分)

2 船舶の要目
船種船名 モーターボート銀山丸
登録長 7.85メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 44キロワット

3 事実の経過
 銀山丸は,昭和54年12月にB社が製造したDX30B-0A型と称するFRP製船体に,主機として,B社が同月に製造したMD20型と称する4サイクル4シリンダ・ディーゼル機関を備えていた。
 主機の冷却は,海水間接清水冷却方式で,主機の出力軸でベルト駆動する冷却海水ポンプにより,船底の海水取入口から吸引した海水が,海水こし器を経て,逆転減速機の潤滑油冷却器,清水冷却器でそれぞれ熱交換し,船体左舷中央部喫水線上5センチメートルに設けた船外排出口から排出されるようになっていた。
 冷却清水系統は,主機直結の冷却清水ポンプにより清水冷却器内蔵の清水膨張タンクから吸引加圧された清水が,シリンダジャケット,シリンダヘッド及び排気マニホルドを順に経る系統と潤滑油冷却器を経る系統に分岐し,両系統を冷却したのち,再び合流して清水膨張タンクに戻るようになっており,同タンク上部に設けた圧力キャップから同タンク横に設けた清水リザーブタンクとが,ビニールホースで連絡されていた。
 冷却海水ポンプは,C社が,主機製造時にB社に納入した,A25S-BC-SP3型モノフレックスポンプと称するゴム製インペラポンプで,8枚の羽根を有する円筒形のゴム製インペラ及びカムプレートと称する三日月状断面の金物が,ポンプケーシング内に組み込まれ,容量がポンプ回転数毎分2,160,全揚程10メートルにおいて,吐出量毎時5.5ないし6.6立方メートルであった。
 ゴム製インペラは,回転時に,羽根がカムプレートに当たって変形を繰り返し,また,羽根の先端がケーシング内面及びカムプレート表面を摺動するので,経年とともに摩耗や材料劣化が進行し,羽根の摩耗,亀裂及び脱落が生じることがあるから,B社が作成した主機取扱説明書には,同インペラの点検を600時間ごと及び海水の吐出量がいつもより少なくなったら行うよう,冷却海水ポンプの開放点検要領と併せて記載されていた。
 冷却海水ポンプは,平成12年6月に開放整備が行われてゴム製インペラが新替されたが,その後5年間使用されるうちに,同インペラの経年による摩耗や材料劣化が進行していた。
 A受審人は,昭和54年5月四級小型船舶操縦士の免許を取得し,翌55年5月,漁船型のモーターボートを購入して趣味の釣りに使用するようになり,その後機関等の老朽化が進行した折,代替え船を購入することを繰り返し,平成17年7月,中古の銀山丸を購入した。
 A受審人は,銀山丸の前の所有者が,約15年間使用し,1回の航海が約1時間30分となる釣りに年間約50日間使用されていることを知ったものの,過去の整備状況が判らなかったが,試運転を行って運転できたので異常はないと思い,冷却海水ポンプの点検を行わず,同ポンプのゴム製インペラが経年とともに摩耗及び材料劣化が進行していることに気付かないまま,日曜日ごとに趣味の釣りを行う目的で出航して主機を約1時間30分運転していた。
 こうして,銀山丸は,A受審人が単独で乗り組み,遊漁の目的で,船首0.5メートル船尾0.6メートルの喫水をもって,同17年12月18日05時15分ごろ,主機の潤滑油量及び冷却清水量の確認を行い,主機始動後に冷却海水の船外排出状況を見たとき,冷却海水ポンプのゴム製インペラ羽根の一部が材料劣化により亀裂を生じて脱落し,同海水の船外排出量がさらに減少した状態であったが,正常な状態での排出量を知らなかったので,冷却海水ポンプの異常に気付かないまま,05時30分北海道函館漁港を発した。
 07時00分銀山丸は,大鼻岬南方沖合約4海里の漁場に至って,主機を停止してイカ釣りを開始したが,天候悪化の兆しがあったので,同時30分釣りを終了し,機関を始動して函館漁港に向け約6.5ノットの低速にかけて進行中,冷却海水ポンプの脱落したゴム製インペラ羽根が同ポンプの吐出管に詰まり,清水冷却器の海水通水量が著しく減少して冷却清水が過熱され,清水リザーブタンクの空気抜き管から蒸気を噴き出したことに気付いたA受審人が主機を停止し,08時05分葛登支岬灯台から真方位108度3.4海里の地点において,航行不能となった。
 当時,天候は曇で風力4の西北西風が吹き,海上には白波があった。
 A受審人は,海上保安部に携帯電話で救援を要請し,来援した巡視艇により,函館漁港に引き付けられた。
 その後,精査の結果,主機に異常はなかったが,冷却海水ポンプのゴム製インペラに,経年劣化による6枚の羽根の脱落が見つかり,新替された。

(海難の原因)
 本件運航阻害は,機関の整備状況が不明な中古船を購入した際,主機冷却海水ポンプの点検が不十分で,同ポンプのゴム製インペラが脱落し,脱落した同インペラ羽根が同ポンプの吐出管に詰まり,清水冷却器の海水通水量が著しく減少して冷却清水が過熱されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,長期間使用され,整備状況が不明な中古船を購入した場合,主機冷却海水ポンプのゴム製インペラが,経年とともに摩耗や材料劣化が進行していることがあるから,同ポンプの点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,試運転を行って運転できたので異常はないと思い,冷却海水ポンプの点検を十分に行わなかった職務上の過失により,ゴム製インペラの摩耗や材料劣化が進行し,脱落した同インペラ羽根が同ポンプの吐出管に詰まり,清水冷却器の海水通水量が著しく減少して冷却清水が過熱する事態を招き,航行不能となるに至らしめた。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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