(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年3月13日13時40分
三重県大王埼南西方沖合
(北緯34度14.4分 東経136度51.6分)
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船平神丸 |
総トン数 |
199トン |
全長 |
58.30メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
平神丸は,平成5年11月に進水した鋼製貨物船で,同16年4月に四級海技士(航海)の免許を取得したA受審人ほか1人が乗り組み,鋼材690トンを積載し,船首3.0メートル船尾3.5メートルの喫水をもって,同17年3月12日20時50分愛知県名古屋港を発し,荒天避難のため同港内で錨泊したのち,翌13日07時30分錨地を発し,布施田水道経由で,大阪港に向かった。
ところで,布施田水道東口付近には,10月中旬から翌年の7月末日までの間,定置網設置区域が設定され,同区域を示す標識として,水面上高さ約5メートルのところにレーダー反射板を取り付けた竹竿9本及び高さ2メートルの黄色小型灯浮標13個がその周囲約3,500メートルに間隔を置いて設置され,同区域内には,定置網が南北方向に約1,000メートルにわたって敷設され,その縁には多数の黄色又はオレンジ色の浮子が付いていた。また,同区域の設定については,海上保安庁刊行の漁具定置箇所一覧図6107(三重・和歌山・大阪)などで周知され,同庁刊行の本州南・東岸水路誌においても,レーダーに映る旨が記載されており,A受審人は,布施田水道を何度も通航していたので,同区域を示す標識などについてはよく知っていた。
A受審人は,12時00分船橋当直を交替して操舵室でいすに腰掛けてレーダーと目視で見張りにあたり,13時17分大王埼灯台から099度(真方位,以下同じ。)2,000メートルの地点において,針路を229度に定め,機関を全速力前進にかけ,10.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
13時33分半わずか前A受審人は,麦埼灯台から097度3,100メートルの地点において,布施田水道東口付近に反航する態勢の他船を認めたため,これを左舷対左舷で替わすつもりで針路を256度に転じた。
転針したとき,A受審人は,約1,600メートル前方にある前示定置網設置区域に向首する態勢となったが,一瞥して同区域を示す竹竿や灯浮標を認めなかったうえ,反航船が同区域付近を無難に航過しているように見えたので,同じように航行すれば大丈夫と思い,レーダー画面を見たり双眼鏡を使用するなど,船首方の見張りを十分に行わず,同区域を示す標識に気付かないまま続航した。
13時38分半A受審人は,依然として見張りを十分に行っていなかったので,定置網設置区域を示す標識に気付かないまま,同標識の間を通過して同区域に進入し,13時40分わずか前船首至近に定置網の浮子列を認めたが,どうすることもできず,13時40分麦埼灯台から129度1,400メートルの地点において,平神丸は,原針路,原速力のまま,定置網の道網部に乗り入れた。
当時,天候は晴で風力3の南南西風が吹き,潮候は低潮時で視界は良好であった。
その結果,平神丸は,球状船首部に擦過傷を,定置網は道網部に切損を生じた。
(海難の原因)
本件定置網損傷は,三重県布施田水道東口付近において,西行する際,見張り不十分で,定置網設置区域に進入したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,三重県布施田水道東口付近において,西行する場合,同水道東口付近の定置網設置区域に進入しないよう,船首方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,一瞥して定置網設置区域を示す竹竿や灯浮標を認めなかったうえ,反航船が同区域付近を無難に航過しているように見えたので,同じように航行すれば大丈夫と思い,船首方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,定置網設置区域を示す標識に気付かないまま,同区域に進入して定置網に乗り入れる事態を招き,球状船首部に擦過傷を生じさせ,定置網の道網部を切損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。