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平成18年函審第14号
件名

貨物船王和丸海苔養殖施設損傷事件

事件区分
施設等損傷事件
言渡年月日
平成18年8月22日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(堀川康基,井上 卓,西山烝一)

理事官
喜多 保

受審人
A 職名:王和丸船長 海技免許:三級海技士(航海)
補佐人
a

損害
王和丸・・・損傷ない
海苔養殖施設・・・損傷

原因
気象情報収集不十分

主文

 本件海苔養殖施設損傷は,気象情報の収集が不十分で,増勢した北風により走錨し,海苔養殖施設に向かって圧流されたことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年3月19日02時20分
 千葉県千葉港西方沖合
 (北緯35度27.6分 東経139度56.3分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船王和丸
総トン数 363トン
全長 53.33メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 736キロワット
(2)設備及び性能等
 王和丸は,平成13年4月に進水した専ら苛性ソーダや水酸化マグネシウムの輸送に従事する,船尾船橋型の液体化学薬品ばら積船で,船首両舷に重量1トンのストックレスアンカー及び錨鎖各舷7節を装備し,操舵室中央には操舵スタンドを備え,その左方にGPSプロッター及びレーダー2台,右方に機関操縦盤などがそれぞれ設置されていた。

3 事実の経過
 王和丸は,A受審人ほか3人が乗り組み,千葉県千葉港B社C製油所専用桟橋で揚荷を終え,港外での燃料油の補給と荷役待機の目的で,空倉のまま船首0.6メートル船尾2.8メートルの喫水をもって,平成17年3月18日12時00分同専用桟橋を発した。
 A受審人は,給油船からの要請があって,当初予定したDシーバースの北西方1.5海里ばかりの錨地へ向かわず,12時40分袖ケ浦東京ガス西シーバース灯(以下「西シーバース灯」という。)から279度(真方位,以下同じ。)1.56海里の,底質が砂で水深16メートルの地点で右舷錨を投じ,錨鎖5節を水際まで延出して錨泊した。
 ところで,千葉県木更津市沖合には,10メートル等深線の内側一帯に海苔養殖施設があり,その中でE組合養殖ベタ流し施設が,西シーバース灯から236度1.29海里,同227.5度1.45海里,同226度1.65海里,同231度1.92海里,同238度1.82海里及び同241度1.7海里の地点を順に結んだ区域に設置されており,A受審人は,前示専用桟橋には何度も出入りし,所有する海図W1087(千葉港南部)にも,「のりひびあり」と記載されていることから,同施設を知っていた。
 錨泊後,A受審人は,A重油15キロリットルの補給作業と京浜港川崎区での積荷に備えての船倉クリーニングを終えたあと,バラストを漲水しないまま,投錨時とほぼ同じ浅喫水で風圧の影響を受けやすい状態で,同地点において錨泊待機することとしたが,15時のテレビ放送の天気予報を漠然と見ただけで,投錨時から海上は穏やかであったことから,天候が急変することはないと思い,ファクシミリにより天気図を入手するなど,気象情報を十分に収集しないまま,翌19日に荷役時間の連絡を受けてから抜錨する予定で,乗組員全員を休息させた。
 A受審人は,当時,北海道付近にある低気圧から延びる寒冷前線が関東地方を通過して西高東低の冬型の気圧配置となって,18日11時25分銚子地方気象台が,前日千葉県南部に出されていた強風・波浪注意報を切り替え発表したことを知らなかった。
 22時00分A受審人は,いつものように周囲の状況を確認するため昇橋したとき,窓を開けたところ,風が強まった感じを受けたものの,時化ている様子もなかったので自室に戻り就寝していたところ,王和丸は,23時ごろから増勢した北風によりいつしか走錨を始めた。
 翌19日02時00分ごろA受審人は,船体動揺の異常により目が覚めて直ちに昇橋して走錨していることを知り,総員を起こし,機関長に主機始動を,一等航海士と甲板長に揚錨準備を指示し,02時07分主機が始動して揚錨を開始したが,王和丸は,02時20分西シーバース灯から238度1.48海里の地点において,船首を330度に向け,海苔養殖施設に乗り入れた。
 当時,天候は晴で風力8の北風が吹き,潮候は上げ潮の中央期で,千葉県南部には強風・波浪注意報が発表されていた。
 その結果,王和丸は,損傷がなかったが,海苔養殖施設に損傷を生じ,のち修理された。

(本件発生に至る事由)
1 錨鎖5節の単錨泊であったこと
2 海水バラストを漲水しない浅喫水で,風圧の影響を受けやすい状態であったこと
3 守錨当直を立てなかったこと
4 気象情報の収集を十分に行っていなかったこと
5 18日23時ごろから風が増勢したこと

(原因の考察)
 本件は,千葉県木更津市沖合の多数の海苔養殖施設が設置された水域において,増勢した北風によって走錨した事案であるが,錨泊待機する際,気象情報の収集を十分に行っていれば,千葉県南部に強風・波浪注意報が発表されていること,北風の増勢する気圧配置の状況であったことを知ることができ,転錨するなどして,風下の同施設に向かって圧流されることを避けられたものと認められる。
 したがって,A受審人が,投錨して諸作業を終え,守錨当直を立てずに錨泊するとき,テレビ放送の天気予報を一度見ただけで,長時間の錨泊に備えて天候の変化を予想できる気象ファクシミリの天気図を入手し,検討するなど,気象情報の収集を十分に行わなかったことは本件発生の原因となる。
 バラストを漲水しないまま錨鎖5節の単錨泊としていたこと,及び守錨当直を立てなかったことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,北風が増勢することを事前に察知することで,早期に転錨するなどの適切な措置を行うことができ,本件発生には至らなかったものと認められるので,原因とならない。

(海難の原因)
 本件海苔養殖施設損傷は,千葉県木更津市沖合の多数の海苔養殖施設が設置された水域において,錨泊待機する際,気象情報の収集が不十分で,夜間,増勢した北風により走錨し,海苔養殖施設に向かって圧流されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,千葉県木更津市沖合の多数の海苔養殖施設が設置された水域において,積荷のため翌日まで錨泊待機することとした場合,天候は急変することがあるので,転錨や守錨当直の必要性についての判断ができるよう,ファクシミリなどによる気象情報の収集を十分に行うべき注意義務があった。しかし,同人は,投錨時から海上は穏やかであったことから,天候が急変することはないと思い,気象情報の収集を十分に行わなかった職務上の過失により,寒冷前線の通過に気付かないまま錨泊を続け,夜間,増勢した北風により走錨して風下の海苔養殖施設へ向け圧流され,同施設へ進入する事態を招き,自船に損傷はなかったが,同施設に損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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