(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年1月9日17時22分
千葉県木更津港
(北緯35度22.9分 東経139度51.9分)
2 船舶の要目
船種船名 |
モーターボートアソイズII |
総トン数 |
3.40トン |
全長 |
9.55メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
182キロワット |
3 事実の経過
アソイズII(以下「ア号」という。)は,平成16年8月に進水したキャビンを有する船内機付きのFRP製モーターボートで,同15年7月に一級(5トン限定)及び特殊の小型船舶操縦士免許を取得したA受審人が船長として1人で乗り組み,釣り仲間4人を同乗させ,釣りを行う目的で,船首0.6メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,同17年1月9日09時00分千葉県木更津港のBマリーナを発し,神奈川県横須賀港内の釣り場に向かった。
A受審人は,前示の釣り場で釣りを行ったのち,12時00分ごろ千葉県安房郡鋸南町浮島北方沖合の釣り場に移動し,漂泊しながら釣りを行い,14時00分ごろ北寄りの強風が吹き始めるのを認めたことから釣りを終え,14時10分勝山浮島灯台から354度(真方位,以下同じ。)900メートルの地点を発進して前示のマリーナに向けて帰途に就いた。
ところで,A受審人は,平成16年8月から毎月1回ア号を釣りに使用していたものの,木更津港を夜間に出入りした経験がなかった。
また,木更津港の木更津港防波堤の北側海域では,毎年10月から翌年4月中旬までの間,木更津漁業協同組合によってのり養殖が行われ,同養殖施設区域の西側に灯浮標10基が約230メートル間隔で設置されており,A受審人は,これらのことを認識していた。
A受審人は,木更津航路外の北側海域に至り,日没後で風速が毎秒約8メートルの北風が吹いて白波が立つ状況の下,木更津港に夜間初めて入航することとなったが,いつも出入りしている同海域から入航できるものと思い,木更津航路を示す灯浮標の灯火を確認しながら前示のマリーナに容易に向かうことができる同航路をこれに沿って入航する針路を選定することなく,16時56分木更津港防波堤西灯台から309.5度2.2海里の地点で,針路を122度に定め,5.0ノットの対地速力で,手動操舵によって進行した。
A受審人は,木更津航路外の北側海域を左舷船尾方から強風と波浪を受けながら続航し,波浪を左舷正横から受けないよう操縦することに専念し,前示養殖施設の西側を示す灯浮標の灯火に気付かず,ア号は,原針路,原速力のまま,17時22分木更津港防波堤西灯台から038度550メートルの地点において,養殖施設に乗り入れた。
当時,天候は晴で風力4の北風が吹き,潮候は下げ潮の中央期に当たり,日没時刻は16時46分で,05時20分千葉県南部地方には強風,波浪注意報が発表されていた。
その結果,プロペラシャフトに養殖施設の浮子綱を巻き込んで航行不能に陥り,プロペラシャフト,グランドパッキン及びのり網に損傷がそれぞれ生じたが,のちいずれも修理された。また,21時00分までに全員が海上保安庁のヘリコプターによってア号から吊り上げ救助された。
(海難の原因)
本件養殖施設損傷は,夜間,木更津港において,入航する際,針路の選定が不適切で,木更津港防波堤北側の養殖施設に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,木更津港において,夜間初めて入航する場合,航路を示す灯浮標の灯火を確認しながらBマリーナに容易に向かうことができる木更津航路をこれに沿って入航する針路を選定すべき注意義務があった。しかし,同人は,いつも出入りしている同航路外の北側海域から入航できるものと思い,同航路をこれに沿って入航する針路を選定しなかった職務上の過失により,養殖施設に向首していることに気付かないまま進行して同施設に乗り入れ,航行不能に陥る事態を招き,プロペラシャフト,グランドパッキン及びのり網に損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。