(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成18年3月20日09時05分
鹿児島県万之瀬川河口
(北緯31度29.9分 東経130度17.4分)
2 船舶の要目
船種船名 |
モーターボート海峰 |
全長 |
6.50メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
44キロワット |
3 事実の経過
海峰は,船尾端に船外機を,船尾端から3メートル前方に操舵輪をそれぞれ備えたFRP製モーターボートで,平成16年2月交付の二級小型船舶操縦免許証(5トン限定)を受有するA受審人が1人で乗り組み,職場の先輩であるBを同乗させ,あじ釣りの目的で船首0.20メートル船尾0.25メートルの喫水をもって,同18年3月20日08時58分鹿児島県万之瀬川の左岸係留地を発し,河口沖合の釣り場に向かった。
ところで,A受審人は,平成12年ごろ海峰を中古で購入したのち,毎年十数回にわたって万之瀬川河口を航過し,1人で釣りにでかけることが多く,B同乗者とは波の静かなとき3回ほど釣りに同行し,今回が4回目の同人との釣りであった。また,同河口付近は遠浅になっていることから,沖合から打ち寄せるうねりと白波があるときには,波浪により船体が大きく動揺することを十分に承知していた。
A受審人は,B同乗者に航行中むやみに移動しないよう注意を与え,同人を船首端から1メートル後方のバウハッチに腰掛けさせ,左手で舵輪を,右手で操縦ハンドルをそれぞれ握って,立って操船に当たり,川の浅瀬を迂回しながら進行し,09時04分少し過ぎ烏山204メートル頂(以下「烏山頂」という。)から359度(真方位,以下同じ。)2.3海里の地点で,針路を沖に向かう309度に定め,機関を回転数毎分3,000にかけ,10.0ノットの対地速力で手動操舵により続航した。
定針したとき,A受審人は,前日の強い北西風の余波があり,沖合から打ち寄せるうねりと白波を認めたが,多少動揺しても大事に至ることはないと思い,バウハッチに腰掛けていたB同乗者に危険を及ぼさないよう,波浪による衝撃及び動揺を緩和する減速措置を十分にとることなく,原針路原速力のまま続航した。
こうして海峰は,09時05分烏山頂から357度2.4海里の地点において,一際高い波浪を船首に受けたとき,減速の暇もなく,船首部が高く持ち上げられて急速に下降し,バウハッチに腰掛けていたB同乗者が上方に投げ出され,そのまま同ハッチに身体を打ち付けて,同人が負傷した。
当時,天候は晴で風力1の西南西風が吹き,潮候は上げ潮の末期にあたり,波高約1.5メートルのうねりがあった。
A受審人は,直ちに行きあしを止めたのち,前示係留地に引き返し,救急車を手配してB同乗者を病院へ搬送するなどの事後の措置に当たった。
その結果,B同乗者が2箇月の入院加療を要する第1,2腰椎圧迫骨折を負った。
(海難の原因)
本件同乗者負傷は,鹿児島県万之瀬川河口において,沖合に向け航行中,波浪による衝撃及び動揺を緩和する減速措置が不十分で,一際高い波浪を船首に受けたとき,船首部が高く持ち上げられて急速に下降し,バウハッチに腰掛けていた同乗者が上方に投げ出され,同ハッチに身体を打ち付けたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,鹿児島県万之瀬川河口において,沖合に向け航行中,打ち寄せるうねりと白波を認めた場合,バウハッチに腰掛けていた同乗者に危険を及ぼさないよう,波浪による衝撃及び動揺を緩和する減速措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,多少動揺しても大事に至ることはないと思い,波浪による衝撃及び動揺を緩和する減速措置を十分にとらなかった職務上の過失により,一際高い波浪を船首に受けたとき,船首部が高く持ち上げられて急速に下降し,バウハッチに腰掛けていた同乗者が上方に投げ出され,同ハッチに身体を打ち付ける事態を招き,同人に腰椎圧迫骨折を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。