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平成17年門審第91号
件名

海底ケーブル敷設船ケイディディ パシフィック リンク作業員負傷事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成18年8月22日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(向山裕則,阿部直之,岩渕三穂)

理事官
濱田真人

受審人
A 職名:ケイディディ パシフィック リンク船長 海技免許:一級海技士(航海)
B 職名:ケイディディ パシフィック リンク一等航海士 海技免許:二級海技士(航海)
指定海難関係人
C社 業種名:海底ケーブル建設及び保守請負業
D 職名:C社技術代表
E 職名:C社工事長
F 職名:C社ケーブル技術者
G 職名:C社ケーブル技術者
指定海難関係人
a,b(いずれも,指定海難関係人D,E,F及びG選任)

損害
ケーブル技術者が左肩甲骨等骨折,頭部打撲傷等

原因
C社・・・社員に対する高所作業の安全指導不十分
C社(D)・・・高所作業を行うケーブル技術者に安全措置を徹底していなかったこと
C社(E)・・・高所作業を行うケーブル技術者に安全措置を徹底していなかったこと
C社(F)・・・安全帯等の着用に関する指示不十分
C社(G)・・・安全帯等を着用しなかったこと

主文

 本件作業員負傷は,海底ケーブル建設及び保守請負業者が,運航部所属の社員に対する高所作業の安全指導が十分でなかったこと,技術代表及び工事長が,いずれも高所作業を行うケーブル技術者に安全措置を徹底していなかったこと並びに水中ロボットのトランスポンダーの交換作業を教育するケーブル技術者が,安全帯等の着用に関する指示が十分でなかったことから,教育を受けるケーブル技術者が,安全帯等を着用しないまま格納状態の水中ロボットの浮体に上り,高所作業中に墜落して落水したことによって発生したものである。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年6月2日14時00分
 黄海中部
 (北緯35度31.6分 東経124度14.5分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 海底ケーブル敷設船ケイディディ パシフィック リンク
総トン数 7,960トン
全長 109.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関及び推進用電動機
出力 10,105キロワット(ディーゼル機関)
  4,000キロワット(推進用電動機)
(2)設備及び性能等
ア ケイディディ パシフィック リンク(以下「ケ号」という。)は,海底ケーブル(以下「ケーブル」という。)敷設船として平成5年4月に竣工した長船首楼付二層全通甲板船で,二重船殻内がバラストタンク,清水タンク及び燃料油タンクに,上甲板下が船首から順にフォアピークタンク,発電機室,第1ケーブルタンク,第2ケーブルタンク,油圧機器室及び推進器室に,上甲板上の船体中央部やや前側が船橋及び居住区に,その後方がケーブル作業区画及びケーブルエンジン室にそれぞれ区切られ,前部にヘリポート及び船尾端にケーブル滑車用鳥居型揚荷装置が設けられていた。
 発電機室には,推進用電動機,電力装置及び各種ケーブル工事専用搭載機器等の船内電源用としてディーゼル機関駆動の発電機6台が設置されており,ケーブル工事の目的で,DGPS情報のコンピューター処理によって電動式全方向型可変ピッチスラスタ及びバウスラスタを自動制御し,定針路あるいは定点に保持することができるようになっていた。
イ 水中ロボット
 水中ロボット(Remotely Operated Vehicle,以下「ROV」という。)は,平成13年に開発され,ケーブルの探査,掘り出し,切断及び埋設を行うことができる浮遊式のもので,船体ほぼ中央部上甲板上の第1甲板左舷側に格納されていた。ROVの格納状態における形状は,長さ4.5メートル(m)幅3.7m高さ3.5mのほぼ立方体で,上部全般が厚さ1mの化学樹脂製の浮体をなし,平面状の上端の中心部に懸垂用金具が取り付けられ,同金具周囲に直径1.8m厚さ1mの円筒状構造物等によるドッキングヘッドと呼称する連結装置が備えられていた。
 ROVの浮体左右端付近の船首尾方向中央部は,長径約1mの楕円状に開口されて上下推進用スラスタが備えられ,海面からROV上端までの高さが11mで,船体左舷側外板より1.2m内側がROV左端となっていたが,囲いや手すりが設けられていなかった。
 なお,ROVは,水中を全方向に移動して水深2,500mまでの潜水が可能で,アンビリカルケーブルと呼称する索が接続され,同索を介して遠隔操作されるようになっており,海面からの昇降はAフレームと呼称する専用の門型腕架式揚荷装置によって行われていた。

3 事実の経過
(1)ケ号の運航管理
 ケ号は,同船を含め2隻のケーブル敷設船をH社から裸傭船契約したMOCSによって運航管理が行われていた。MOCSは,ケ号に日本人船員を幹部職員としてフィリピン共和国籍船員とともに配乗するほか,I社の作業者を便乗者として乗船させていた。
(2)ケーブル工事の実施方法
 ケーブル工事は,C社側が工事計画を立て,ケ号側が同計画に沿って工事実施要領を作成し,C社側の承認を得たのち,C社から派遣されて乗船する技術代表及び工事長の指揮監督の下,24時間体制の当直を組んで連続して行われ,ROVの操作やケーブルの電気試験など専門的技術を要するときには,C社側が直接担当していた。そして,組織規程によれば,技術代表は顧客対応業務を担当して工事長に指示し,工事長は社員等を指揮監督して当該工事を統括することとなっていた。
 また,各種ケーブル工事専用搭載機器の保守整備の分担が明確に決められており,ROVの保守整備については,C社側の専管で,ケ号側は関与していなかった。
(3)ケ号の安全管理体制
 A受審人は,船内における安全管理を統括し,安全担当者を介して乗組員に安全指導を行うとともに,ケーブル工事を行っていないときの社員等の安全に留意していた。
 B受審人は,安全担当者として,甲板部乗組員の安全指導を行い,高所作業の際には,必ず保護具の着用を指示していた。
 このほか,ケ号は,安全管理手順書に沿って各作業を実施し,定期的に船内安全衛生委員会を開催し,その議事録を乗組員に周知していた。そして,乗組員によるケーブル工事については,C社側から安全指導を受けるとともに,作業上の注意事項を記載した書面を各所に掲示して注意を促し,チェックリストによって高所作業における安全を確認していた。
(4)C社の安全管理体制
 C社は,労働災害の防止と健康の保持増進を図る目的で,安全衛生管理規程によって安全衛生体制の確立に必要な事項を定め,安全衛生活動を推進することとしていた。
 安全衛生管理規程は,管理責任者に総務部長を就かせて業務を統括させ,同責任者が安全管理者及び衛生管理者として選任した各部次長級の者を指揮し,各部社員に対して安全教育を行い,安全衛生意識の高揚に努め,安全衛生委員会の委員長として毎月1回同委員会を開催し,必要事項を社内外関係部門に周知することを定めていた。また,各部長及び次長は,所属長として所属社員が安全かつ良好な健康管理の下,業務の遂行ができるよう指導監督に努め,安全衛生上の問題を発見したとき,適切な措置をとったうえ,管理責任者に報告して指示を仰ぐこととなっていた。
 そして,安全衛生委員会の議題等とするため,工事長は,各工事終了後,社長等に提出する工事長報告にヒヤリハット体験を記載していた。同委員会議事録は,社長,役員及び各部長に配布されて各部社員に回覧されるとともに,社内コンピューターネットワークに保存されていた。なお,各工事長報告も全社員に回覧され,同ネットワークにも保存されていた。
 平成14年4月には全社員数が50人を割って,安全衛生委員会は,法令による開催の強制から外れたこともあり,その後同17年1月を除いて本件発生まで開催されていなかった。
 また,安全衛生管理規程では,本社,各ケーブル敷設船及びその他作業所を一括した一つの事業場としており,ケ号の職場は陸上から遠く離れ独立した作業場であったが,社員同士が安全に関する意見を具申するなど,同職場の特性を考慮する安全指導が行える組織単位としていなかった。
(5)C社による高所作業の安全指導
 C社は,ケ号に派遣する社員の安全な船内生活を図る目的で,安全のしおりと題する小冊子を作成し,その中に高所作業のことを簡単に記載していた。
 C社は,安全のしおりを船内のだれでも手にとって見られる場所に置いていただけで,安全衛生委員会を開催せず,同委員会で高所作業を行うときの墜落防止対策を議題としたことがなく,工事長が高所作業について工事長報告で報告したこともなく,また,ドッキングヘッドに安全帯のフックを掛ける専用設備がなかったうえ,社員が保護具を着用しないで高所作業を行うことがあるなど,社員に対する高所作業の安全指導が十分でなかった。
(6)発生に至る経緯
 ケ号は,A受審人,B受審人ほか日本人船員7人及びフィリピン共和国籍船員25人が乗り組み,D指定海難関係人,E指定海難関係人,F指定海難関係人,G指定海難関係人ほか社員等10人を便乗させ,ケーブル修理工事の目的で,船首5.36m船尾5.68mの喫水をもって,平成17年5月28日09時00分関門港田野浦区を発し,黄海の大韓民国群山港西方約120海里の工事海域に向かい,ケーブル管理者から受注したEAC1と呼称するケーブルのF区画ケーブル並びに同ケーブル付きのBU3及びBU4と呼称する各分岐装置を回収し,同年6月18日工事を完了して帰港する予定であった。
 5月29日09時ころA受審人は,済州島南方を航行中,乗組員及びC社側を召集し,C社側から事前に提出されていた工事実施計画に従って作成した工事実施要領の最終打合せを行い,承認を得たのち,同実施要領を乗船者全員に周知した。
 ところで,D指定海難関係人は技術代表として,またE指定海難関係人は工事長として,ケ号側との工事の最終打合せ前,社員だけによる事前打合せを行い,主にケーブル工事の定常作業に関する確認を行った。事前打合せ等において,D指定海難関係人及びE指定海難関係人は,いずれも高張力がかかるケーブルの切断や感電などの事故防止措置に関しては注意を喚起していたが,高所作業を行うケーブル技術者に安全帯を着用させるなどの安全措置を徹底していなかった。
 ケ号は,黒山島灯台の西方から北上し,翌30日07時00分北緯35度26分 東経124度14分の工事海域南端に至り,その後,順次工事実施要領に沿ってケーブル工事を実施した。
 D指定海難関係人及びE指定海難関係人は,6時間2直制で工事全体の指揮監督に当たり,D指定海難関係人が6時から0時の当直に,E指定海難関係人が0時から6時の当直にそれぞれ就き,D指定海難関係人は当直中に工事長も兼ねていた。
 両人以外の社員は,4時間3直制で3人が入直し,各当直中における作業の監督を行い,F指定海難関係人は8時から0時の当直に,G指定海難関係人は4時から8時の当直にそれぞれ就いていた。
 また,乗組員は,4時間3直制で,船橋に船長,次席二等航海士及び次席三等航海士が甲板手と,ケーブル作業区画に一等航海士,二等航海士及び三等航海士が甲板部員2人と,ケーブルエンジン室に機関職部員4人が,発電機室に機関部員1人がそれぞれ当直に就いていた。
 16時00分ころROVは海面に下ろされ,ケーブル探索及び切断の水中作業ののち,翌31日12時50分船内の所定位置に格納されたが,同作業中に水中での位置情報を発信する重要付属部品のトランスポンダーに不具合が発見されたため,F指定海難関係人は,天候を考慮して,G指定海難関係人とともに,両人が非直となる時間帯でトランスポンダーの交換作業を行うこととした。
 トランスポンダーは,直径約8センチメートル(cm)長さ約60cm重さ約5キログラムの棒状物体で,ROVの浮体海寄りの左側端まで55cm,前端まで65cmのところに垂直に差し込まれていた。
 越えて6月2日12時20分ケ号は,海上が平穏で船体の動揺がなく,A受審人が船橋当直に就いていたとき,北緯35度31.6分 東経124度14.5分の地点において,切断したケーブル端を船尾滑車を通じて固定し,210度(真方位,以下同じ。)に向首して同地点を保持していた。
 F指定海難関係人は,予定していたトランスポンダーの交換作業等を行う旨を当直中のE指定海難関係人に報告したのち,13時00分少し過ぎ同作業及び性能試験をG指定海難関係人に教育する目的で,同人と準備にかかり,交換作業が高所作業であったが,作業用円筒服と安全靴を着けただけで,安全帯及び安全帽を着用のうえ安全帯のフックを適宜掛けるなど安全措置を講じず,同人に対し,安全帯等の着用に関する指示が十分でなかった。
 一方,G指定海難関係人は,作業用円筒服及び安全靴を着けただけで,安全帯及び安全帽を着用しないままトランスポンダーの交換作業を始め,ROVの右側前部に既に掛けてあった梯子(はしご)を経て,浮体に上り,トランスポンダーを抜いて,いったん第1甲板に下り,交換品を持って再び元の差し込み穴に入れた。
 F指定海難関係人は,送波用測定器を持って浮体に上り,トランスポンダーの性能試験の準備をしていたところ,交換済みトランスポンダーが予定したものでないことに気付いて再度交換したのち,同試験の準備を再び始めた。
 F指定海難関係人がトランスポンダーの右側に,G指定海難関係人がその後方にてそれぞれ両膝(ひざ)をつき,5分間以上しゃがんだ体勢で性能試験の準備をしていたところ,送波用測定器の電源切れが判明し,G指定海難関係人は,給電するための接続コードを取りに,第1甲板の倉庫へ赴くことになった。
 そして,14時00分少し前G指定海難関係人は,ドッキングヘッドと上下スラスタ用の開口間を通って,同ヘッドの周囲を反時計回りで梯子に向かって移動しようとし,立ち上がったとき,長くしゃがんだのち立ち上がると生ずるふらつき症状が現れたが,いったん腰を低くするなどしてこれを解消せず,左手でドッキングヘッドの上端を掴(つか)みながら後方に数歩移動したところ,14時00分北緯35度31.6分 東経124度14.5分の地点において,ROVの浮体から墜落して左肩が甲板左舷端と擦過し,落水した。
 当時,天候は霧で風力2の西南西風が吹き,海上は穏やかであった。
 F指定海難関係人はケーブルエンジン室に急行して転落を知らせ,ケ号は,二等航海士が救命浮環を投下し,A受審人が船内アラームで救助部署を発令し,B受審人が海に飛び込み,救命浮環に頭を入れていたG指定海難関係人を舷梯から船上に引き上げ,応急処置ののち,海上保安庁第七管区海上保安本部に通報して指示を受け,大韓民国の出動した巡視船に同人を移乗させて病院に搬送する措置をとった。
 その結果,G指定海難関係人が,3箇月の加療を要する左肩甲骨などの骨折及び頭部の打撲傷等を負った。
(7)事故後の再発防止対策
 C社は,各作業について,安全面からの分析調査をしたところ,現場の安全に関する実態が会社に十分に報告されず,また会社が実態を十分に把握できておらず,従来安全と判断していた手順でも不安全になることなどが表面化し,これまで安全に関して意見を求めていなかったケ号側からの助言や,社内外からの意見を参考にして安全管理方法について検討し,高所作業を含め,安全指導を改善した。
 安全衛生管理体制については,現場の実態に即してきめ細かく社員を指導して安全意識の向上を図るため,安全衛生管理規程を改正した。改正した同規程は,まず組織単位を本社及びそれ以外の事業場に分け,それぞれ事業場責任者として総務部長に加えて,現場作業に精通している運航部長を指名した。その下部組織として,ケ号のような事業所に安全衛生管理に関する責任者として安全衛生推進者が選任され,さらに,現場における作業場所ごと,及び当直ごとに安全衛生を推進するリ−ダーとしての役割の班長が指名されることになった。安全衛生委員会は,開催を中断していたが,新たに安全衛生推進委員会として,工事後及び必要が生じたときに開催することになった。
 また,作業単位ごとのチェックリストとなる安全の手引きを作成し,同手引きを活用して安全管理を具体化し,事故防止を徹底することとした。
 設備面では,ドッキングヘッドに安全帯のフックの専用設備を設け,船体のROV格納箇所付近の起倒式手すりを1.5mと高くするとともに,Aフレームに落水防止用ネットを展張できる構造とした。

(本件発生に至る事由)
1 C社が,社員に対する高所作業の安全指導が十分でなかったこと
2 D指定海難関係人が,高所作業を行うケーブル技術者に安全措置を徹底していなかったこと
3 E指定海難関係人が,高所作業を行うケーブル技術者に安全措置を徹底していなかったこと
4 F指定海難関係人が,教育を兼ねてトランスポンダーの交換作業を行う際,G指定海難関係人に安全帯等の着用に関する指示が十分でなかったこと
5 G指定海難関係人が,高所作業を行う際,安全帯等を着用しなかったこと
6 G指定海難関係人が,トランスポンダーの交換作業に習熟していなかったこと
7 ドッキングヘッドに安全帯のフックを掛ける専用設備がなかったこと
8 G指定海難関係人が,浮体上でドッキングヘッドの周囲を反時計回りで移動しようとしたこと
9 G指定海難関係人が,高所作業中にしゃがんだ状態から立ち上がったときふらついたこと

(原因の考察)
 本件は,ケーブル建設業等を行う会社の社員であるケーブル技術者が,安全帯等を着用しないまま格納状態のROVの浮体に上り,高所でトランスポンダーの交換作業中に墜落して落水したことにより負傷したものである。ケーブル技術者がしゃがんで交換作業を行っていたところ,立ち上がり,移動を開始した直後に墜落しており,安全帯を着用していたとしても,移動に際しては安全帯のフックを外すであろうと考えられるが,再発防止の観点から高所作業の危険性の認識を含めて検討する。
 高所以外では危険性がないと思われることでも高所作業において,直ちに墜落の危険に繋がるから,C社は,労働安全衛生規則を遵守し,社員に対して安全措置を講じるよう安全指導を十分に行うべきであった。
 ところで,運航部幹部がケーブル工事の定常作業における事故防止措置に関して注意を喚起しており,社員は,同作業の危険性を認識していたことが窺(うかが)われるが,船体高所に格納状態の囲いや手すりが設備されていないROVの浮体におけるトランスポンダーの交換作業については,高所作業の危険性の認識が希薄で,安全措置を講じることの重要性を十分に理解していなかったと認められる。そこで,C社が,社員に対して高所作業の安全措置を講じることの重要性を含め安全指導を十分に行っていれば,社員は,安全措置を十分に講じ,本件発生を回避できたものと認められる。
 したがって,C社が,社員に対する高所作業の安全指導が十分でなかったことは,本件発生の原因となる。
 D指定海難関係人及びE指定海難関係人が,いずれも高所作業を行うケーブル技術者に安全措置を徹底していなかったことは,本件発生の原因となる。
 F指定海難関係人は,教育を兼ねてトランスポンダーの交換作業を行う際,G指定海難関係人に対し,安全帯等の着用に関する指示が十分でなかったことは,本件発生の原因となる。
 一方,G指定海難関係人は,トランスポンダーの交換作業の教育を受ける際,安全帯等を着用し,安全帯のフックをドッキングヘッドに掛けていれば,浮体上でドッキングヘッドの周囲を反時計回りで移動しようと,高所作業中にしゃがんだ状態から立ち上がったときふらついたとしても,ふらつきを解消することが可能であり,本件発生を防止できたものと認められる。
 したがって,G指定海難関係人が,安全帯等を着用しなかったことは,本件発生の原因となる。
 ドッキングヘッドに安全帯のフックを掛ける専用設備がなかったことは,本件発生に関与した事実であるが,フックを掛けることはできたから,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,容易かつ確実に掛けられる設備でなければ作業に支障が生じ,安全措置の実行性が低下するおそれがあるから,専用設備を設けるよう是正されるべきである。
 G指定海難関係人がトランスポンダーの交換作業に習熟していなかったことは,本件発生に関与した事実であるが,同人に対する教育の目的があったから,本件と相当な因果関係があるとは認められない。
 また,A受審人及びB受審人は,ROVの保守整備がC社側の専管でその指揮監督の下にあり,ケ号側が関与していないから,いずれも原因とならない。

(海難の原因)
 本件作業員負傷は,黄海中部において,ケーブル工事の目的で定点に保持中,ケーブル建設及び保守請負業者が,社員に対する高所作業の安全指導が十分でなかったこと,技術代表及び工事長が,いずれも高所作業を行うケーブル技術者に安全措置を徹底していなかったこと並びにトランスポンダーの交換作業を教育するケーブル技術者が,安全帯等の着用に関する指示が十分でなかったことから,教育を受けるケーブル技術者が,安全帯等を着用しないまま格納状態のROVの浮体に上り,高所作業中に墜落して落水したことによって発生したものである。

(受審人等の所為)
 C社が,社員に対する高所作業の安全指導が十分でなかったことは,本件発生の原因となる。
 C社に対しては,本件後,安全衛生管理規程を改正したうえ,作業単位ごとのチェックリストとなる安全の手引きを作成するとともに,ドッキングヘッドに安全帯のフックの専用設備を設けるなど,高所作業の安全指導を改善していることに徴し,勧告しない。
 D指定海難関係人が,高所作業をするケーブル技術者に対して安全措置を徹底していなかったことは,本件発生の原因となる。
 D指定海難関係人に対しては,改正した安全衛生管理規程で事業場責任者に指名され,ケーブル工事の作業ごとの安全性を見直し,安全措置の徹底を図っていることに徴し,勧告しない。
 E指定海難関係人が,高所作業をするケーブル技術者に対して安全措置を徹底していなかったことは,本件発生の原因となる。
 E指定海難関係人に対しては,本件後,改正した安全衛生管理規程で安全衛生推進委員に選任され,ケーブル工事の作業ごとの安全性を見直し,安全措置の徹底を図っていることに徴し,勧告しない。
 F指定海難関係人が,教育を受けるケーブル技術者に対し,安全帯等の着用に関する指示が十分でなかったことは,本件発生の原因となる。
 F指定海難関係人に対して勧告しないが,教育を受けるケーブル技術者に高所作業を行わせる際,安全帯等の着用に関する指示を十分になさなければならない。
 G指定海難関係人が,安全帯等を着用しないまま高所作業を行ったことは,本件発生の原因となる。
 G指定海難関係人に対して勧告しないが,高所作業を行う際,安全帯等を着用しなければならない。
 A受審人の所為は,本件発生の原因とならない。
 B受審人の所為は,本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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