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平成18年門審第40号
件名

漁船若潮丸乗組員負傷事件(簡易)

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成18年7月20日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(小金沢重充)

副理事官
小俣幸伸

受審人
A 職名:若潮丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:若潮丸甲板員

損害
甲板員が右足関節外側側副靱帯損傷

原因
揚網作業支援時の安全措置不十分

裁決主文

 本件乗組員負傷は,揚網作業の支援時の安全措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年11月1日06時00分
 福岡県沖ノ島北方沖合
 (北緯34度18.5分 東経130度04.0分)

2 船舶の要目
船種船名 漁船若潮丸
総トン数 6.6トン
全長 14.86メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 433キロワット

3 事実の経過
 若潮丸は,中型まき網漁業に従事するFRP製灯船で,網船1隻,運搬船4隻及び探索船1隻の計7隻で船団を構成し,僚船とともに操業の目的で,平成17年2月交付の一級小型船舶操縦士の操縦免許証を受有するA受審人,及びB指定海難関係人が乗り組み,船首0.50メートル船尾1.55メートルの喫水をもって,同年10月31日16時45分福岡県大島漁港を発し,同県沖ノ島周辺の漁場に至って操業を開始した。
 ところで,若潮丸は,集魚作業のほか,網船の投網開始から揚網終了まで約1時間かかる作業の流れの中で,揚網の終了が近づくにしたがい潮流等の影響で網の形が崩れることから,揚網が順調に行えるよう網成りを調整する支援作業に当たっており,同作業時には,網船の揚網舷方に漂泊し,長さ50メートル直径9ミリメートルの合成繊維製ロープ(以下「ロープ」という。)を連結したJ字型フック(以下「フック」という。)を揚網中の浮子綱に掛け,後進しながら船首たつに係止したロープを緊張させて行っていた。また,船首構造は,船首端から船尾方77センチメートルまでがブルワーク上面と同じ高さの甲板で,同甲板をすいたと呼称しており,すいた後部中央に船首たつが設置され,すいた後面から船尾方118センチメートルまでが一段低い船首甲板となっていた。
 A受審人は,漁場を移動しながら操業を続け,翌11月1日05時55分沖ノ島灯台から真方位333度4.3海里の地点で,網船の揚網作業を支援するため,同船の右舷方約20メートル離れてほぼ直角に向首して漂泊し,B指定海難関係人が船首甲板にコイルされたロープに連結されたフックを持ってすいたに上がり,船首方約5メートルのところに広がっている浮子綱にフックを投げ掛ける作業を見守った。
 B指定海難関係人は,作業着の上にカッパを着てゴム長靴を履き,保護帽及び救命胴衣を着用しないで作業に当たり,06時00分わずか前投げること3回目にしてようやく浮子綱にフックが掛かったとき,手間取ったことに気を遣い,コイルされたロープの船尾方に移動する安全措置をとらないまま,すいた上で後進の合図を送った。
 06時00分わずか前A受審人は,B指定海難関係人から後進の合図を受けたが,同人は作業に慣れているのでロープを無難にかわすものと思い,コイルされたロープの船尾方に移動する安全措置を指示せず,後進行きあしでロープを引っ張ることとした。
 こうして,若潮丸は,B指定海難関係人がコイルされたロープの船尾方に移動する前に後進を開始し,06時00分沖ノ島灯台から真方位333度4.3海里の地点において,B指定海難関係人は,すいたから船首甲板に踏み下ろした右足に繰り出されるロープが絡まり,すいた後面に押しつけられ,次いで海中に転落した。
 当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は上げ潮の中央期であった。
 A受審人は,すいた後面に押しつけられているB指定海難関係人の様子を見て,直ちにエンジンを停止して船首に赴き,同人を引き上げ,事後の措置に当たった。
 その結果,B指定海難関係人は,16日間の入院加療等を要する右足関節外側側副靱帯損傷を負った。

(海難の原因)
 本件乗組員負傷は,福岡県沖ノ島北方沖合において,揚網作業の支援時の安全措置が不十分で,網成りの調整のために浮子綱に掛けたフックに連結されたロープが甲板員の足に絡まったことによって発生したものである。
 揚網作業の支援時の安全措置が十分でなかったのは,船長が,甲板員から後進の合図を受けた際,コイルされたロープの船尾方に移動するよう指示しなかったことと,同甲板員が,コイルされたロープの船尾方に移動しなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,福岡県沖ノ島北方沖合において,揚網作業の支援時,すいた上で作業に当たっていたB指定海難関係人から後進の合図を受けた場合,浮子綱に掛けたフックに連結されたロープを後進行きあしで引っ張るのであるから,同人に対し,コイルされたロープの船尾方に移動するよう指示すべき注意義務があった。しかるに,A受審人は,B指定海難関係人が作業に慣れているのでロープを無難にかわすものと思い,コイルされたロープの船尾方に移動するよう指示しなかった職務上の過失により,繰り出されるロープが同人の足に絡まる事態を招き,B指定海難関係人に右足関節外側側副靱帯損傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が,沖ノ島北方沖合において,揚網作業の支援時,後進の合図を送る際,コイルされたロープの船尾方に移動しなかったことは,本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては,勧告しないが,後進の合図を送る際,コイルされたロープの船尾方に移動するよう努めなければならない。





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