(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年8月14日15時30分
滋賀県大津市北比良水泳場沖合(琵琶湖西岸)
(北緯35度12.9分 東経135度57.7分)
2 船舶の要目
船種船名 |
モーターボート ダイショー |
登録長 |
6.15メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
139キロワット |
3 事実の経過
ダイショーは,平成8年5月に新造された,A受審人の親戚が所有するキャビン付のFRP製モーターボートで,船体中央部右舷側に操縦席があり,左舷側に補助席,船体中央から後方にかけてコの字型の座席等が設けられており,春から夏にかけて月4回,滋賀県琵琶湖で,これまでに30回程度,A受審人が所有する浮体(以下「バナナボート」という。)に友人らを乗せて,これを曳航しての遊走を楽しんでいた。
バナナボートは,白色ゴム製の5人乗りで,両端が紡錘形となっている直径0.57メートル長さ5.28メートルの中央浮体と,その左右に直径約0.3メートル長さ約3メートルの円筒形浮体の足置きが取り付けられていて,搭乗者は各座席前の握り紐をつかんで中央浮体を跨ぎ,左右浮体に足をおろして着座するようになっていた。
ところで,A受審人は,平成11年四級小型船舶操縦士の免許を取得し,同14年春ごろからダイショーを借用し,同16年10月小型船舶操縦免許(一級・5トン・特殊)を取得したのち,バナナボートを曳航するときは,バナナボート搭乗者には水着に裸足で搭乗させ,手袋及びヘルメットの着用を指示していなかったものの,救命胴衣は全員に着用させており,搭乗未経験者には先頭や最後部の座席は避けるようにしたうえ,20センチメートル(以下「センチ」という。)を超える航走波があれば,乗り越えるときの衝撃で搭乗者が落水しないよう,バナナボートを同波に向首させ,速力を落とすなどしていた。
A受審人は,ダイショーに1人で乗り組み,友人5人を乗せ,バナナボート遊走の目的で,船首0.3メートル船尾0.5メートルの喫水をもって,直径2センチ長さ15メートルの合成繊維の曳航索でバナナボートを曳き,平成17年8月14日15時00分バナナボートに搭乗未経験者2人を前から2番目と3番目の座席とし,経験者をその前後に座らせて,滋賀県大津市の北比良水泳場を発し,同水泳場南東方約600メートルの沖合に達したのち,東西方向に遊走を開始した。
A受審人は,当日,経験者3人から高速で走ってくれと言われ,曳航速力10.0ノットとし,300メートル前後で反転遊走を繰り返し,3回目に北比良水泳場にダイショーの船首を向けた際,後方の搭乗者2人がバナナボートから落水したのを認めたものの,落水した2人は泳ぎが得意だったので,そのままにしておいても大丈夫だと判断してバナナボートに残っている3人と遊走を続けることとした。
15時29分A受審人は,大津市北比良に所在する標高90.3メートルの三角点(以下「北比良三角点」という。)から117度(真方位,以下同じ。)1,180メートルの地点において反転し終えて,針路300度速力10.0ノットで航行し始めた際,左舷船首30度700メートルのところを北東方に向け速力20.0ノットで航行する,ダイショーと同程度の大きさのモーターボートを認め,15時29分半北比良三角点から117度1,020メートルの地点を同針路同速力で進行中,同ボートがダイショーの前方450メートルを右方に航走しており,15時30分わずか前同ボートの航走波がダイショーの左舷前方100メートルに接近していたが,その波高を20センチ以下と過小評価したうえ,これまでバナナボートは横転しやすく,搭乗者が落水することも度々あったものの,そのことで怪我をした搭乗者がいなかったので,速力を落とさなくても大丈夫と思い,同速力のまま続航し,左舵5度をとったが,バナナボートが航走波に向首するまでには至らなかった。
こうして,バナナボートは,15時30分北比良三角点から116度850メートルの地点において,左舷前方から航走波を受けて右舷側に横転し,搭乗者3人が落水し,うち2人の頭と顔面が接触した。
当時,天候は晴で風はほとんどなく,視界は良好であった。
その結果,接触した2人が,後頭部及び顎に打撲傷及び切傷をそれぞれ負った。
(海難の原因)
本件被引浮体搭乗者負傷は,琵琶湖西岸の北比良水泳場沖合において,他船の航走波の影響を受ける状況下,搭乗者が乗ったバナナボートを曳航する際,同波にバナナボートを向首させ速力を落とすなど搭乗者の落水に対する安全措置が十分にとられなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,琵琶湖西岸の北比良水泳場沖合において,他船の航走波の影響を受ける状況下,搭乗者が乗ったバナナボートを曳航する場合,バナナボートは横転しやすいから,落水した搭乗者が接触して怪我をすることがないよう,航走波にバナナボートを向首させ速力を落とすなど搭乗者の落水に対する安全措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,遭遇した航走波の波高を過小評価したうえ,これまでバナナボートは頻繁に横転していたものの,そのことで怪我をした搭乗者がいなかったので大丈夫と思い,搭乗者の落水に対する安全措置を十分にとらなかった職務上の過失により,他船の航走波を左舷前方より受けて横転させ,搭乗者3人が落水し,うち2人が接触する事態を招き,同人らに後頭部及び顎に打撲傷及び切傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。