日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2006年度(平成18年度) >  機関損傷事件一覧 >  事件





平成18年長審第39号
件名

漁船第12大豊丸機関損傷事件(簡易)

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成18年9月14日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(吉川 進)

理事官
千葉 廣

受審人
A 職名:第12大豊丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
主軸受メタルが焼付き,ピストン,シリンダライナに損傷

原因
主機の潤滑油量管理不十分

裁決主文

 本件機関損傷は,主機の潤滑油量の管理が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年2月21日05時00分
 長崎県伊王島沖
 (北緯32度43.9分 東経129度41.1分)

2 船舶の要目
船種船名 漁船第12大豊丸
総トン数 14.56トン
登録長 13.17メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 264キロワット
回転数 毎分1,900

3 事実の経過
 第12大豊丸(以下「大豊丸」という。)は,昭和56年に建造された,中型まき網漁業に灯船として従事するFRP製漁船で,主機としてB社が製造した6KES-HT型と呼称するディーゼル機関を装備していた。
 主機は,清水を一次冷却水とする間接冷却方式で,ピストン冷却のためのオイルジェットノズルをシリンダブロックに取り付け,主軸受として三層メタルを吊メタル形式で装備し,同ブロック下面に潤滑油をためるオイルパンを取り付けていた。
 潤滑油は,オイルパンから潤滑油ポンプに吸引され,加圧ののち冷却器及びこし器を経て,潤滑油主管に入り,主軸受,伝動歯車,動弁装置,過給機などに給油され,各部を潤滑するほか,オイルジェットノズルからピストン下面に噴出してピストンを冷却し,それぞれオイルパンに戻る循環をしていた。また,オイルパンの油量が,検油棒に上限と下限の線で刻んで示され,両者の差が概ね20リットルで,下限を下回ると潤滑油ポンプが吸込み部で空気を巻き込むおそれがあった。
 主機の警報装置は,通常運転中,潤滑油圧力が設定値を下回ったときに潤滑油圧力低下の警報を発するようになっていた。
 A受審人(昭和59年4月一級小型船舶操縦士免許取得)は,平成5年から大豊丸に甲板員として乗船し,同11年から船長として機関の運転及び整備全般の管理を行い,整備に当たって同人が直接整備業者に依頼しており,潤滑油及び同こし器については,定期的に取り替えさせていた。
 主機は,漁場への往復と集魚灯点灯のための発電機駆動を回転数毎分1,500で,1日の操業で平均して約14時間運転されており,その間の回転数と運転時間数から1日当たりの潤滑油消費量が2.8リットルほどであった。
 A受審人は,潤滑油の補給について,オイルパンの検油棒で油量が減少しているのを見たら,上限位置まで注ぎ足すことにしており,平成17年2月初旬に潤滑油を同棒の上限まで補給した。
 大豊丸は,主機に潤滑油補給後の2週間で8日ばかり操業するうち潤滑油の消費量が20リットルを超え,オイルパンの油量が下限を下回るまで減少した。
 A受審人は,漁場までの距離によって運転時間が一定しておらず,潤滑油の消費量にも差があることを認識していたが,同月20日の出漁に当たって,1週間前の点検でまだ油量があったので,油量が不足することはないものと思い,始動前に油量を点検して適正な油面まで補給するなど潤滑油量の管理を十分に行わなかった。
 こうして,大豊丸は,主機の油量が下限を切ったまま始動され,A受審人が1人で乗り組み,船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水をもって,同日16時00分長崎港を発し,長崎県伊王島西方沖合の漁場に至り,翌21日にかけて操業中,03時30分ごろ網船の環巻き作業で事故が発生し,腕を負傷した乗組員を病院に搬送することとなり,04時30分ごろ漁場を発し,主機を回転数毎分1,850にかけて長崎港に向かっていたところ,折からの風浪による船体の動揺が加わって主機の潤滑油ポンプが空気を巻き込み,潤滑油圧力が警報設定値を下回らずに警報が鳴らないまま,潤滑油中に多量の気泡を含んで主軸受が潤滑を阻害されると同時に,ピストン冷却のオイルジェットが不足し,05時00分伊王島灯台から真方位285度4.0海里の地点において,主軸受メタルがクランクジャーナルと焼き付くとともに,過熱膨張した4番ピストンがシリンダライナと金属接触して回転数が低下し,まもなく主機が自停した。
 当時,天候は雪で風力3の北風が吹き,強風波浪注意報が発表されていた。
 大豊丸は,僚船に連絡して救援を依頼し,来援した僚船に負傷者を移乗させたのち長崎港に引き付けられ,主機が精査された結果,全ての主軸受でケルメットが露出するほど異常摩耗していた上,4番主軸受ではケルメット層も摩耗して鋼材ベースがクランク軸と焼き付き,4番ピストン及びシリンダライナにたて傷を生じており,のち主機が換装された。

(海難の原因)
 本件機関損傷は,主機の潤滑油量の管理が不十分で,オイルパンの潤滑油量が下限を下回るまで減少したまま運転が続けられたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,主機の運転管理に当たる場合,運転時間が一定でなかったのであるから,主機の潤滑と冷却が阻害されないよう,始動前に油量を点検して適正な油面まで補給するなど潤滑油量の管理を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,1週間前の点検でまだ油量があったので,油量が不足することはないものと思い,始動前に油量を点検して適正な油面まで補給するなど,潤滑油量の管理を十分に行わなかった職務上の過失により,オイルパンの油量が下限を切ったまま主機の運転を続け,主軸受の潤滑が阻害されたほか,過熱膨張したピストンがシリンダライナに金属接触する事態を招き,主軸受メタルの焼付きと,ピストン及びシリンダライナに損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION