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平成18年広審第2号
件名

旅客船道後機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成18年9月28日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(内山欽郎,島 友二郎,藤岡善計)

理事官
河本和夫

指定海難関係人
A社 業種名:機関製造業

損害
主機4番主軸受,5番主軸受の各軸受メタルに焼損

原因
経年劣化によって主機シリンダブロックに予測できない変形が生じ,主軸受の中心が変位したこと

主文

 本件機関損傷は,経年劣化によって主機シリンダブロックに予測できない変形が生じ,主軸受の中心が変位して,クランク軸と主軸受メタル間の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年7月23日08時20分
 愛媛県中島北東方沖合
 (北緯34度01.1分 東経132度40.0分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 旅客船道後
総トン数 189トン
全長 31.50メートル
機関の種類 過給機付4サイクル16シリンダ・ディーゼル機関
出力 3,676キロワット
回転数 毎分1,900
(2)道後
 道後は,平成5年10月に進水した軽合金製の双胴型旅客船で,各胴の機関室に各1機装備した主機(以下,右舷側の主機を「右舷主機」,左舷側の主機を「左舷主機」という。)によって各ウォータージエット推進装置を駆動するようになっており,広島県広島港と愛媛県松山港間の定期航路に就航していた。

3 主機
(1)概要
 主機は,両舷機ともに,B社(平成15年2月3日付で原動機部門がA社として独立)が製造した,16V16FX型と呼称する定格出力1,838キロワット同回転数毎分1,900のV型ディーゼル機関で,左舷側のシリンダ列をA列,右舷側のシリンダ列をB列と称し,各シリンダには船尾側を1番として8番までの順番号が,各主軸受には同じく船尾側を1番として9番までの順番号がそれぞれ付されていた。
(2)納入経緯
 指定海難関係人A(以下「A社」という。)は,従来型機関の実績をベースとして,それまでに製造したことがなかった高速船用の小型高出力機関を開発・製造する計画を立て,2年間に亘る従来型機関の改良設計後に,工場においてテスト機による3年間延べ2,000時間に及ぶ耐久テストを実施したのち,平成5年に16V16FX型機関を4機製造して,そのうちの3号機と4号機を右舷主機及び左舷主機として道後に納入した。
(3)主軸受及び主軸受メタル
主軸受は,シリンダブロックがハンガータイプの一体鋳造型であることから,同ブロック下部に形成された上部軸受(以下「ハウジング」という。)と取外し可能な下部軸受(以下「キャップ」という。)とで構成され,キャップが,2本のスタッドボルトとナット及び水平方向の移動や変形防止を主な目的として設けられた2本の側面ボルトでシリンダブロックに固定される構造になっていた。
 また,主軸受メタルは,裏金に厚さ0.35ないし0.65ミリメートル(以下「ミリ」という。)のアルミ合金を鋳込んだもので,その上層には,厚さ20ないし30ミクロンの鉛合金のオーバーレイがニッケルダムを挟んで軸方向に溝状に施されていた。
(4)各部の製造時寸法
 製造時寸法は,主軸受の幅が49ミリ,内径が147.00ないし147.02ミリ,主軸受メタルの厚さが3.42ないし3.44ミリ,クランク軸のジャーナル外径が139.07ないし140.00ミリで,設計上のオイルクリアランスが0.12ないし0.21ミリであった。
(5)運転状況
 主機は,年間約4,300時間(月間約360時間)運転されており,全速力前進の翼走状態における回転数が毎分1,750(以下,回転数は毎分のものとする。)で,その時の負荷が約80パーセントであった。
 なお,主機は,通常約6キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)の主機入口潤滑油圧力が,3.2キロまで低下すれば圧力低下警報装置が作動し,1.2キロまで低下すれば緊急停止装置が作動して自動停止するほか,主機入口の潤滑油温度が摂氏80度まで上昇すれば温度上昇警報装置が作動するようになっていた。
(6)潤滑油の性状管理状況
 道後は,A社が推奨する潤滑油を使用して450運転時間毎に潤滑油を新替えするとともに,450運転時間又は潤滑油こし器の差圧が1.5キロ近くになれば10ミクロンのペーパーフィルタエレメントを新替えするほか,定期的に潤滑油のサンプルを潤滑油メーカーに送付して分析を依頼するなどして,潤滑油の性状管理を行っていた。
(7)点検及び整備状況
 道後は,就航以来,3箇月毎に吸・排気弁タペットクリアランスの調整を,6箇月毎に燃料噴射弁の噴射テストを行って噴射不良の弁を取り換えるなどの整備を行うほか,毎年9月に2週間ほど入渠し,両舷機を陸揚げして片舷機を開放しており,前年に開放した主機については,継続検査項目の整備及びセルモータや潤滑油冷却器等を取外さないと点検できないクランク室の点検を行い,前回の開放から2年が経過した主機については,全開放して主軸受メタル及びクランクピン軸受メタルを新替えするなどの整備を行っていた。
 なお,主機の整備は,就航以来,年間5機ほどの同型機関の整備実績がある整備業者2社が各々1機ずつ担当していた。

4 事実の経過
 A社は,自社が開発した新型機関の3号機と4号機を道後に納入したことから,同船の就航以来,入渠時には必ず広島駐在の整備担当者を造船所に派遣し,開放時に各部の状態を確認させるほか,各部の計測に立ち会って検査記録を作成させ,問題や異常な数値が出た場合には本社に報告させる一方,部品を工場に送らせて調査・検討を行うとか本社の開発担当者を現場に派遣するなどして,同船の主機の状態を継続的に確認していた。
 ところで,A社は,主軸受については,爆発力の影響やキャップ脱着の繰返しによって変形が生じる可能性があると考え,各主軸受の出力側及び反出力側の2箇所において,垂直方向の内径(以下「垂直内径」という。)と水平方向の2点の平均内径(以下「水平内径」という。)をそれぞれ定期的に計測し,その計測結果から垂直方向と水平方向及び軸方向の各変形量を算出するなどしてデータを収集していたが,設計時には主軸受が大きく変形することを予測していなかったうえ,今まで主軸受の変形に起因する事故もなかったことから,内径や各変形量の許容限度基準を定めていなかった。
 また,シリンダブロック自体については,圧縮に強い鋳鉄製の剛体であることから大きく変形するとは予測していなかったので,新造以来,主軸受の中心(以下「通り芯」という。)の変位は計測していなかった。
 更に,平成13年頃,設計時には爆発力の影響を受けて大きくなると考えていた垂直内径が,定期的に前示の計測を続けているうち,製造時寸法より小さくなる傾向があることを認め,その後の調査によってハウジングとキャップの合わせ面に生じるフレッチング摩耗がその原因であることを突き止めてはいたが,どの程度の割合で小さくなるかまでは十分に把握できていなかった。
 このような状況において,A社は,平成15年9月に道後が定期整備のため広島県内の造船所に入渠したので,例年通り広島駐在の整備担当者を造船所に派遣した。
 整備担当者は,右舷主機の各主軸受の内径計測時,垂直内径が最大で100分の6ミリ小さくなって,変形量(垂直内径と水平内径の差)も最大で100分の7ミリになっているのを認めたが,主軸受の開放時に2年間使用した全ての主軸受メタルに強い当たりや剥離及び摩耗などの異常が認められなかったうえ,それまでに主軸受の変形に起因する事故がなかったこと,平成13年までの8年間の変形量が最大でも100分の4ミリでほとんど変化がなく,許容限度基準も定められていなかったこと,及びシリンダブロックが大きく変形することを予測していなかったことなどから,その後の2年間でどの程度シリンダブロックが変形するか予測できなかったので,平成17年9月の入渠までは問題はないだろうと判断して,主軸受内径の修正加工を行わなかった。
 道後は,全ての主軸受メタルを新替えして出渠したのち,普段どおり主機の運転を続け,平成16年9月に入渠して右舷主機のクランク室点検を行い,異常が発見されなかったのでその後も同様に主機の運転を続け,平成17年2月に潤滑油のサンプルを潤滑油メーカーに送って性状に異常がないことを確認し,6月16日に潤滑油を,7月11日に潤滑油フィルターエレメントを新替えしたほか,同エレメントに問題がなく,レーシング等の急激な回転上昇もなかったが,その間に,シリンダブロックに変形が生じ,通り芯が変位してクランク軸と主軸受メタルの当たりが不均一になり,主軸受内径の変形も加わってオーバーレイの摩耗が進行し,主軸受メタルの潤滑が阻害されやすい状況となっていた。
 こうして,道後は,船長及び機関長ほか2人が乗り組み,旅客141人を乗せ,船首2.8メートル船尾3.0メートルの喫水をもって,平成17年7月23日08時00分松山港を発し,両舷主機を回転数1,750の全速力前進にかけて広島港に向け航行中,右舷主機の4番及び5番主軸受の各軸受メタルが,通り芯の変位の影響を最も強く受けていたことによるものか,潤滑阻害によって相次いで焼き付き,08時20分歌埼灯台から真方位092度1.1海里の地点において,主機の潤滑油温度上昇警報及び潤滑油圧力低下警報装置が作動し,その後,操舵室にいた機関長が異常を認めて操縦ハンドルをアイドリング回転数の750まで下げて間もなく,主機の回転数が1,200まで低下したころ,潤滑油圧力低下緊急停止装置が作動して,主機が自動停止した。
 当時,天候は晴で風力1の北風が吹き,海上は穏やかであった。
 機関長は,機関室に急行して右舷主機の潤滑油レベルゲージを引き抜いたところ,潤滑油ミストの白煙を認めたので,軸受が焼損したと判断し,右舷主機の運転が不能になった旨を船長に報告した。
 その後,道後は,左舷主機を単独で運転して松山港に引き返し,A社が右舷主機を開放して詳細に調査を行った。

5 損傷部品及び損傷状況
 A社が調査を行った結果は,以下のとおりであった。
(1)4番主軸受は,上下メタルとも焼損・圧延されて黒く変色し,特に上メタルの圧延量が多かった。
(2)5番主軸受は,4番主軸受と同様に,上下メタルとも焼損・圧延されて黒く変色していた。
(3)その他の主軸受は,下メタルの受圧部にオーバーレイの摩耗が見られ,また,1,2,3,9番主軸受の上メタルの端に強い当たりが見られた。
(4)2番連接棒は,A,B列とも大端部にメタルが回ったことによる摺動傷及び淡い変色が見られ,3番及び4番連接棒は,大端部が発熱によって黒く変色しており,損傷程度はいずれも同程度だったが,3番及び4番連接棒の方が発熱による変色が大きかった。
(5)A列2番のクランクピン軸受は,上下メタルとも焼損・圧延されて黒く変色していたが,損傷程度は3番及び4番より軽微であった。
(6)A列3番のクランクピン軸受は,上下メタルが焼損・圧延・溶着し,一体となって黒く変色していた。
(7)A列4番のクランクピン軸受は,上下メタルが焼損・圧延・溶着し,一体となって黒く変色していた。
(8)B列2番のクランクピン軸受は,A列側と同様に焼損・圧延されて黒く変色していた。
(9)B列3番のクランクピン軸受は,上下メタルが焼損・圧延されて黒く変色し,上メタルの圧延量が多く,変色の程度も大きかった。
(10)B列4番のクランクピン軸受は,上下メタルが焼損・圧延されて黒く変色し,上メタルの圧延量が多く,変色の程度も大きかった。
(11)その他のクランクピン軸受は,A列の1番及び6番の上下両メタルにかじりが見られ,その他のメタルにはかじりが見られないものの,オーバーレイの摩耗と油穴部後方にごみの噛み込み傷が見られた。
(12)スラストメタルは船首側が焼損・圧延されて黒く変色していた。
(13)クランク軸は,4番及び5番ジャーナル部に摺動傷が有るものの発熱の様子は見られず,2番,3番及び4番クランクピン部がA,B列とも発熱によって黒く変色していた。
(14)主軸受ケースは,4番及び5番にメタルが連れ回りしたと思われる摺動痕が見られ,4番は発熱によって黒く変色していた。

6 事後の計測結果
 A社が焼損した4番及び5番主軸受以外の各主軸受各部を計測したところ,内径については,7番主軸受の反出力側の垂直内径が製造時寸法より100分の8ミリ小さくなっていたものの,その他の軸受には大した変形は見られず,変形量(垂直内径と水平内径の差)が100分の0ないし7.5ミリで,通り芯が3番と6番の主軸受間で垂直方向に100分の8ミリ変位していることが判明した。

7 修理状況
 道後は,後日,シリンダブロック,クランク軸,主軸受及びクランクピン軸受各メタル,並びに全ての連接棒及び連接棒ボルトを新替えするなどの修理を行った。

8 本件後の対応
 A社は,今回の事故原因を検討した結果,主軸受の焼損に最も影響したのはシリンダブロック自体の変形による通り芯の変位であるとの判断から,今後は,今まで定期的に計測していた変形量に加えて,今まで計測していなかった通り芯の計測も同型機関全機で定期的に実施することにし,ある程度データが集まった段階で,主軸受より潤滑条件が厳しいクランクピン軸受の基準を参考にして,内径や各変形量の許容限度基準を定めるとともに,今回の事故が最も使用時間の長いシリンダブロックで発生したことを重視し,変形量の大小に関わらず,シリンダブロックの使用時間で一律に主軸受の修正加工を行うことも視野に入れて検討を開始した。

(本件発生に至る事由)
1 経年劣化によるシリンダブロックの変形を予測できなかったこと
2 経年劣化によってシリンダブロックに変形が生じ,通り芯が変位してクランク軸と主軸受メタル間の潤滑が阻害されたこと

(原因の考察)
 本件は,新開発機関を搭載した就航後12年目の旅客船において,年間約4,300時間運転されていた主機が,前回の整備時に全ての主軸受メタルを新替えしてから約2年後に,4番主軸受及び5番主軸受の各軸受メタルが焼損したものである。
 以上の状況を踏まえ,事実認定の根拠中で認定した事実を基に,本件の原因について考察する。

1 潤滑油の問題
 以下のことから,潤滑油に問題があったとは認められない。
(1)潤滑油の性状管理は適切に行われていたと認められること
(2)潤滑油試験成績報告書写中の分析結果により,平成17年2月までは潤滑油の性状に異常がなかったと認められること
(3)本件後の潤滑油こし器に異常がなかったこと

2 運転上の問題
 以下のことから,運転上の問題があったとは認められない。
(1)常用回転数が1,750で,常用負荷が約80パーセントであったこと
(2)本件前にはレーシング等による急激な回転上昇がなかったと認められること

3 部品及び整備上の問題
 以下のことから,部品及び整備に問題があったとは認められない。
(1)工事が実績のある整備業者によって行われたこと
(2)全主軸受メタルが平成15年9月の開放時に正規のメタルに新替えされていること
(3)以前に主軸受メタルの焼損事故が発生していないこと
(4)事故調査報告書添付資料写中の記載から,本件後の開放時にスタッドボルトのナット及び側面ボルトに緩みがなかったと認められること
(5)本件が整備してから約2年後に発生していること

4 シリンダブロックの経年劣化及び変形
 以下のことを総合的に勘案すると,本件は,経年劣化によってシリンダブロックに変形が生じ,通り芯が変位してクランク軸と主軸受メタルの当たりが不均一となり,主軸受内径の変形も加わってオーバーレイの摩耗が進行し,クランク軸と主軸受メタル間の潤滑が阻害されたことによって発生したものと推認される。
(1)前示の通り,潤滑油,主機の運転,部品及び整備に問題がなかったと認められること
(2)主軸受内径に変形が生じていること
(3)主軸受の通り芯に変位が生じていること
(4)1番,2番,3番及び9番主軸受の上メタルの端に強い当たりが見られること
(5)事故調査報告書損傷状況写真写中の主軸受メタルオーバーレイの摩耗量が主軸受内径の変形量に比例していないこと
(6)本件が就航後12年目に発生していること
(7)他の同型機関に同様の損傷が発生していないこと
(8)道後の右舷主機のシリンダブロックが最も使用時間が長いこと
(9)A社代理人の当廷における,「主軸受の焼損事故では,当該軸受が大きく変形しても隣接した主軸受は熱の影響をそんなに受けないと思う。」旨の供述

5 A社の所為
 前示のとおり,本件は,シリンダブロックの変形に起因して発生したと推認されることから,A社が平成15年9月の開放時に通り芯の変位を予測して主軸受内径を修正加工していれば,防止できた可能性が高いと考えられるが,以下の点から,A社が,平成15年9月の開放時点で,主軸受内径を修正加工すべきであったといえるほどの通り芯の変位を予測することが可能であったとは認められない。
 従って,A社の所為が本件発生の原因をなしたとは認められない。
(1)シリンダブロックは圧縮力に強い鋳鉄製の剛体なので,大きく変形することを予測することは困難であったと認められること
(2)以前に,シリンダブロックの大きな変形も同ブロックの変形に起因する事故も経験していなかったこと
(3)主軸受の内径及び変形量に関する許容限度基準が定められていなかったこと
(4)2年間使用した全ての主軸受メタルに強い当たりや剥離及び摩耗などの異常が認められなかったことから,通り芯に大きな変位はなかったと認められること

(海難の原因)
 本件機関損傷は,経年劣化によってシリンダブロックに予測できない変形が生じ,通り芯が変位してクランク軸と主軸受メタルとの当たりが不均一となり,主軸受内径の変形も加わってオーバーレイの摩耗が進行し,クランク軸と主軸受メタル間の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。

(指定海難関係人の所為)
 指定海難関係人Aの所為は,本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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