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平成18年横審第31号
件名

漁船第二十八 一丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成18年9月12日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(大山繁樹,米原健一,伊東由人)

理事官
相田尚武

指定海難関係人
A社 代表者:取締役B 業種名:漁業

損害
主機1番シリンダのシリンダヘッド,ピストン,シリンダライナに打ち傷,過給機排気入口ケーシングに亀裂,ノズルに曲損

原因
主機吸気弁に炭化物をかみ込んで生じた弁シートの亀裂が急激に進展したこと

主文

 本件機関損傷は,主機吸気弁に炭化物をかみ込んで生じた弁シートの亀裂が急激に進展したことによって発生したものである。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年9月14日20時30分
 岩手県宮古港東方沖合
 (北緯39度46分 東経145度01分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第二十八 一丸
総トン数 116トン
全長 37.70メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,471キロワット
回転数 毎分750
(2)設備及び性能等
 第二十八 一丸(以下「一丸」という。)は,平成6年12月に進水した,かつお一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で,主な操業海域を本州及び九州東方沖合とし,12月から翌年1月までの休漁期間を除く周年操業に従事し,操舵室に主機の遠隔操縦装置を備えていた。
 主機は,同6年10月C社製造の6MG26HLX型と呼称するディーゼル機関で,各シリンダには船尾側を1番として船首側へ順番号が付され,全速力前進時の回転数を毎分720として,月間400時間ないし450時間運転していた。
 また,主機のシリンダヘッドには,船首側左右に排気弁,船尾側左右に吸気弁を配置し,各弁にはバルブローテーターが装着されており,吸気弁は,全長402ミリメートル(以下「ミリ」という。),弁棒径18ミリ,弁径93ミリの耐熱鋼製きのこ弁で,弁シートにはステライト盛金が施され,シリンダヘッドに合金工具鋼製弁座が嵌(は)め込まれていた。
 なお,主機取扱説明書には,吸気弁弁シートの肉厚が標準値7.0ミリ,許容値6.0ミリ,限界値5.5ミリと記載され,限界値は新替えを,許容値は次回整備までに限界値に達することが予想される場合に新替えをそれぞれ要するものであった。

3 事実の経過
 C社は,船舶安全法で検査期間が延長されたことに加え,かつお一本釣り漁船においては主機が過酷な状況下で使用され,吸気弁弁棒部の潤滑油が高温のガスに曝(さら)されて硬質の炭化物となり,これが運転中に落下して弁シートにかみ込んで亀裂を生じ,さらには吸気弁割損の主要因のひとつとして考えられたことから,6MG26HLX型主機の吸気弁を,弁シートと弁座の材質及び各シート面の角度差などを改良したうえ,この改良型吸気弁を宮崎県南郷町のかつお一本釣り漁船1隻に搭載し,平成12年9月から1年間試験して良好な結果が得られたことから,南郷町の同型主機を搭載している14隻にこれまでの旧型吸気弁との交換を推奨した。
 ところで,指定海難関係人A社は,同13年12月C社から一丸主機の吸気弁を改良型のものに交換することを推奨され,弁座を全数交換したものの,吸気弁については毎年実施している吸気弁の整備時,弁シートの肉厚が薄くなっているなどの異状が認められたとき,改良型吸気弁に交換することとして交換しなかったが,南郷町では11隻で改良型吸気弁の交換に応じ,一丸を含む3隻は交換しなかった。
 その後,一丸の主機は,吸気弁が毎年整備されて弁シートの肉厚の薄いものなどが順次改良型吸気弁に交換され,平成15年12月から翌年1月までの合入渠工事においては,鹿児島県所在のD社によって吸気弁が整備され,このとき1番シリンダ左舷側吸気弁が,旧型のものであったところ,弁シートの肉厚計測,カラーチェック,摺り合わせなどの整備が行われて格別異状がなかったことから,改良型のものに交換されることなく復旧され,運転が続けられていた。
 こうして,一丸は,機関長Eほか21人が乗り組み,操業の目的で,同16年9月11日10時45分宮城県気仙沼港を発し,三陸沖合の漁場に至って操業を開始し,かつお約5.5トンを漁獲して同月14日17時00分水揚地である同港に向けて帰途に就き,主機を回転数毎分720にかけて全速力で航行中,1番シリンダ左舷側吸気弁の弁シートに炭化物をかみ込んで亀裂を生じ,この亀裂が急激に進展するようになって,ついに弁傘部の3分の1が割損脱落して割損片がピストンに叩かれ,20時30分北緯39度46分 東経145度01分の地点において,破片が過給機に侵入して主機が大音を発した。
 当時,天候は曇で風力4の西風が吹き,海上には白波があった。
 機関室上段で冷凍機を監視中のE機関長は,機関室下段に降り,操舵室側が異音に気付いて中立としていた主機を停止し,弁腕装置を点検して1番シリンダの吸排気弁の作動に異状を認め,整備業者と連絡を取り合ったうえ同シリンダの燃料をカットし,減筒運転で気仙沼港に入港した。
 その結果,主機1番シリンダのシリンダヘッド,ピストン及びシリンダライナに打ち傷,過給機の排気入口ケーシングに亀裂,ノズルに曲損を生じており,のちこれらを新替え修理した。

(本件発生に至る事由)
1 A社がC社から改良型吸気弁の推奨を受けたとき同弁に交換しなかったこと
2 本件前の整備で吸気弁を交換しなかったこと
3 運転諸元に異状を認めることができなかったこと
4 吸気弁が炭化物をかみ込んで弁シートに亀裂を生じて急激に割損したこと

(原因の考察)
 A社がC社から改良型吸気弁の推奨を受けたとき同弁に交換しなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があると認められない。しかしながら,A社は,C社から改良型吸気弁の交換を推奨されたとき,主機の使用年数とその間の経年変化を考慮し,できるだけ改良型吸気弁への交換に努めるべきである。
 本件前の整備で吸気弁を交換しなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,同整備で吸気弁に異状がなかったことから,本件と相当な因果関係があるとは認められない。
 運転諸元に異状を認めることができなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,吸気弁が炭化物をかみ込んで弁シートに亀裂を生じて急激に割損したことから,本件と相当な因果関係があるとは認められない。

(海難の原因)
 本件機関損傷は,主機運転中,吸気弁に炭化物をかみ込んで生じた弁シートの亀裂が急激に進展したことによって発生したものである。

(指定海難関係人の所為)
 A社の所為は,本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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