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平成17年仙審第77号(第1)
平成17年仙審第78号(第2)
件名

(第1)漁船第八福重丸機関損傷事件
(第2)漁船第八福重丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成18年9月14日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(弓田邦雄,供田仁男,小寺俊秋)

理事官
寺戸和夫

(第1)(第2)
 
受審人
A 職名:第八福重丸機関長 海技免許:四級海技士(機関)(機関限定)

(第1)
 
損害
クランク軸,台板,1及び3番シリンダ連接棒等に損傷
原因
潤滑油こし器を開放した際の復旧作業不十分,主機始動後の主機回りの点検不十分

(第2)
 
損害
2番シリンダのピストンピン軸受,クランクピン軸受が焼損,連接棒等に損傷
原因
発航時の貯蔵油タンクの潤滑油量の確認不十分,補助タンクから油だめに潤滑油を移す際の措置不適切

主文

(第1)
 本件機関損傷は,潤滑油こし器を開放した際の復旧作業が不十分であったことと,主機始動後の主機回りの点検が不十分であったこととにより,油だめの潤滑油を喪失したことによって発生したものである。
(第2)
 本件機関損傷は,発航時の貯蔵油タンクの潤滑油量の確認が不十分であったことと,補助タンクから油だめに潤滑油を移す際の措置が不適切であったこととにより,油だめの同油が不足したまま,運転が続けられたことによって発生したものである。
(第1)
 受審人Aの四級海技士(機関)の業務を1箇月停止する。
(第2)
 受審人Aの四級海技士(機関)の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
(第1)
 平成17年2月6日03時00分
 青森県八戸港
 (北緯40度31.7分 東経141度31.0分)
(第2)
 平成17年4月17日07時30分
 青森県八戸港北東方沖合
 (北緯40度52.0分 東経142度03.0分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第八福重丸
総トン数 75トン
全長 32.03メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 (第1)485キロワット
  (第2)514キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第八福重丸
 第八福重丸(以下「福重丸」という。)は,昭和54年8月に進水した沖合底びき網漁業に従事する鋼製漁船で,可変ピッチプロペラを備え,船首楼甲板上の操舵室から主機とともに遠隔操作されるようになっており,平成4年1月に現船舶所有者に購入され,7及び8月の休漁期を除き,周年青森県八戸港を基地とし,同港沖合の漁場で主に日帰り操業を行っていた。
イ 機関室
 機関室は,上甲板の両舷側コンパニオンから同室後部に出入りするようになっており,中央部の主機の右舷側に補機駆動交流発電機が,左舷側に主機の計器盤と機関制御盤が,後部に主配電盤がそれぞれ取り付けられていた。
ウ 主機
 主機は,株式会社Bが昭和54年6月に製造した6MG22X型と呼称する,連続最大出力485キロワット同回転数毎分735(以下,回転数は毎分のものとする。)の過給機付海水冷却式4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関を備えていたが,第1の事故後,同社が同61年4月に製造した6MG22LX型と称する,同出力514キロワット同回転数780の過給機付海水冷却式4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関に換装された。
 なお,いずれも主機のシリンダ番号は船首方から順番号で呼ばれ,左舷後部が操縦位置となっており,主機前部の動力取出軸から甲板機械用油圧ポンプ及び交流発電機を駆動するようになっていた。
エ 主機の潤滑油系統
 主機の潤滑油系統は,クランク室底部の油だめの潤滑油が直結ポンプに吸引加圧され,冷却器,ノッチワイヤ式こし器(以下「潤滑油こし器」という。),入口主管を経て主軸受,クランクピン軸受等に,同主管を経て噴油ノズルから組立式ピストンの頭部冷却室にそれぞれ供給されるもので,同管部の同油圧力が約4.5キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。),同圧力低下警報の作動値が2.0キロで,同低下自動停止装置は設置されていなかった。
 また,冷却器の出口側から分岐し,圧力調整弁を経て補助タンクに至り,あふれ油がクランク室に戻る循環系統と電動式の予備ポンプを有し,潤滑油の総量が約1,200リットルであった。
 なお,油だめの潤滑油を検油するため,主機左舷側後部に上限線と下限線が刻印された検油棒があって,両線間は6センチメートル(以下「センチ」という。)で,その間の油量は約100リットルであり,下限線と同棒下端間は2.5センチであった。
オ 潤滑油こし器
 潤滑油こし器は,機関室右舷側前部に位置し,船横方向の2個のこし筒内に250メッシュのエレメントを収めた複式で,常時共通して使用するようになっており,切替えハンドルの操作により,主機運転中に一方のこし筒ずつ,逆流洗浄及び開放掃除ができるようになっていた。
 なお,こし筒を開放しエレメントを取り出して掃除したうえ,ケーシングに収めて復旧する際は,上ぶたの中央穴にケーシング中央の縦軸を通して同ふたをケーシングに乗せ,同軸上端ねじに袋ナットを取り付け,スパナで同ナットをねじ込んで同ふたをケーシングに締め付け,同ナット下部のパッキン及び同ふたの溝部に装着されたOリングにより,油密が保たれるようになっていた。
 なお,上ぶたには空気抜き弁が取り付けられ,こし筒を復旧後,予備ポンプを回して同筒内の空気を抜くことができるようになっていた。
カ 補助タンクの構造
 補助タンクは,機関室左舷側上部に位置し,入口管がタンク上部に,出口管がタンク内部のホッパーにそれぞれ接続しており,タンク側面にはガラス式油面計を,底部にはドレン弁をそれぞれ備え,同ホッパーの上端の位置で油面が保持され,その油量が約400リットルであった。
キ 補助タンクの主機からの分離方法
 補助タンクの主機からの分離方法は,圧力調整弁の出口側にクランク室に延びた非常配管が接続しており,同管の遮蔽板を取り外し,同タンク入口管の送油弁を閉弁することによって分離するものであった。
 また,入口管と出口管の立ち上がり部には,両管間にバイパス弁を有し,同弁は常時閉弁されていたが,それを開弁することによっても同タンクを分離することが可能であった。
ク 潤滑油の補給系統
 潤滑油の補給系統は,機関室前部床下の貯蔵油タンクから主機付ウイング式の手動ポンプにより油だめに補給するようになっており,同タンクの油量は測深管にスケールを差し込んで見るようになっていた。

3 事実の経過
(第1)
 福重丸は,平成16年8月定期検査工事を施工し,整備業者が主機のピストン抜き,過給機整備,潤滑油取替えほか全般的な整備を行い,翌9月から操業を始めた。
 A受審人は,全速力時の主機の回転数を820プロペラ翼角(以下「翼角」という。)を17ないし18度とし,月間に約350時間運転を行い,潤滑油の油量及び性状を管理するに当たり,検油棒の上下限線の中間を油量の目安として,下限線との中間くらいになったら補給するようにし,潤滑油こし器は逆流洗浄を行わず,入港中約1箇月ごとに両こし筒を開放掃除するようにしており,復旧後の空気抜きは特に行っていなかった。
 福重丸は,翌17年2月3日20時ごろ八戸港に帰港し,八戸港河原木南防波堤東灯台から真方位240度0.9海里の第2魚市場岸壁に左舷付け係留して水揚げを行い,その後荒天のため,同岸壁で補機駆動交流発電機を運転しながら出漁待機していた。
 同月5日08時30分ごろA受審人は,翌日の出漁に備えて潤滑油こし器を開放掃除することとし,両こし筒のエレメントを取り出して掃除したうえ同筒に収め,上ぶた及び袋ナットを取り付けて同ナットの締め付けを行っている作業中,09時ころ訪船した久しぶりの友人の声を上甲板に聞き,あとで残りの作業を行えばよいものと思い,復旧作業を十分に行うことなく,作業を中断して機関室を離れ,その後右舷側こし筒が袋ナットを手で縦軸に取り付けたのみで,同ナットを締め付けていないことを失念した。
 A受審人は,友人と自室で話し合ったのち他の作業を行い,夕方自宅に帰り,夜遅く帰船した。
 翌6日02時50分A受審人は,予備ポンプを運転して潤滑油のプライミングを行ったうえ,主機を始動して520の停止回転としたが,今まで主機始動時に点検せずに特に問題がなかったので大丈夫と思い,主機回りの点検を行うことなく,潤滑油こし器の右舷側こし筒の上ぶたとケーシング間から同油が噴出し,周囲の機器に降りかかっていることに気付かず,入港して主機を停止したとき切った機関制御盤の主機警報電源スイッチを入れないまま,すぐ機関室を離れ,出港準備作業に赴いた。
 こうして,福重丸は,操業の目的で,A受審人ほか9人が乗り組み,船首1.6メートル船尾3.8メートルの喫水をもって,出港準備のところ,潤滑油こし器から潤滑油の噴出が続き,やがて油だめの同油を喪失して直結ポンプが空気を吸引し,同油圧力が低下したものの,同圧力低下警報が作動せず,潤滑が阻害されて1番主軸受及び1番シリンダのクランクピン軸受ほか各軸受メタルが焼損し,機関室に戻った同受審人は,主機の回転数を820に上げ,主配電盤で主機駆動交流発電機の気中遮機器を投入しようとしたが入らず,03時00分同発電機に同油が降りかかっているのを認め,直ちに主機を停止した。
 当時,天候は晴で風力3の西南西風が吹いていた。
 この結果,クランク軸,台板,1及び3番シリンダの連接棒等が損傷し,修理期間の関係から中古機関に換装された。
(第2)
 A受審人は,第1事故の修理工事に立ち会い,平成17年3月18日臨時検査を受け,再開された操業に従事し,以前と同じ使用状況で主機の運転を行っていた。
 翌4月15日福重丸は,操業の目的で,A受審人ほか9人が乗り組み,船首1.6メートル船尾3.8メートルの喫水をもって,11時30分八戸港を発した。
 発航に先立ち,A受審人は,油だめの油量を点検し,検油棒の下限線近くとなっているのを認め,海上が穏やかなので漁場で補給することとしたが,まだ補給するくらいの潤滑油は残っているものと思い,貯蔵油タンクの同油量を確認することなく,ほとんど残っていないことに気付かなかった。
 13時30分福重丸は,八戸港北東方沖合の漁場に至り,その後操業を繰り返していたところ,主機の潤滑油が消費され,翌16日20時00分油だめの油量が検油棒の下端以下に減少し,船体が動揺する都度,直結ポンプが空気を吸引して同油圧力が2キロに低下し,同圧力低下警報が作動するようになった。
 A受審人は,主機を停止して油だめの油量が検油棒の下端以下となっているのを認め,潤滑油を貯蔵油タンクから油だめに補給しようと手動ポンプを操作したが,約5リットルしか補給できなかった。
 そこで,A受審人は,補助タンクの潤滑油を油だめに移すこととし,同タンクのドレン弁にビニールホースを取り付け,クランク室の1個のカバーを開け同ホースを導いて同室に入れ,同弁を開弁したままで運転したところ,油だめの油量不足が解消されず,依然として同油圧力が低下したままで同圧力低下警報が作動することを認めたが,同タンクから同油を油だめに移したうえ,同タンクを主機から分離する措置をとることなく,主機警報電源スイッチを切り,同圧力が低下したまま運転を続けた。
 こうして,福重丸は,ピストンの冷却及び潤滑が阻害され,翌々17日朝主機の回転数を820翼角12度とし,2ノットの速力で曳網中,07時30分鮫角灯台から真方位048度29.0海里の地点において,2番シリンダのピストンがシリンダライナに焼き付き,異音を発した。
 当時,天候は晴で風力2の西北西風が吹き,海上は穏やかであった。
 機関室にいたA受審人は,異音に気付いて直ちに主機を停止し,クランク室を開放して点検したところ,2番シリンダのシリンダライナに亀裂を生じ,多量の冷却水が漏洩していることを認めた。
 この結果,2番シリンダのピストンピン軸受及びクランクピン軸受も焼損し,連接棒等が損傷して主機の運転が不能となり,救助を求めて来援した付近の僚船に曳航され,のち主機は修理された。

(本件発生に至る事由)
(第1)
1 あとで残りの作業を行えばよいものと思い,作業を中断して機関室を離れ,潤滑油こし器の復旧作業を十分に行わなかったこと
2 今まで主機始動時に点検せずに特に問題がなかったので大丈夫と思い,主機始動後,主機回りの点検を行わなかったこと
3 主機始動後,主機警報電源スイッチを入れなかったこと
4 油だめの潤滑油を喪失したこと
(第2)
1 発航時,まだ補給する潤滑油は残っているものと思い,貯蔵油タンクの同油量を確認しなかったこと
2 補助タンクから油だめに潤滑油を移したうえ,同タンクを主機から分離する措置をとらず,油だめの油量不足が解消されなかったこと
3 潤滑油圧力が低下したまま,主機の運転を続けたこと

(原因の考察)
(第1)
 本件は,潤滑油こし器の復旧作業を十分に行っていれば,こし筒の上ぶたとケーシング間から潤滑油が噴出することがなく,発生を回避できたと認められる。
 したがって,A受審人が,あとで残りの作業を行えばよいものと思い,作業を中断して機関室を離れ,潤滑油こし器の復旧作業を十分に行わず,油だめの潤滑油を喪失したことは,本件発生の原因となる。
 また,主機始動後,主機回りの点検を十分に行っていれば,潤滑油が潤滑油こし器から噴出していることに気付き,発生を回避できたと認められる。
 したがって,A受審人が,今まで主機始動時に点検せずに特に問題がなかったので大丈夫と思い,主機始動後,主機回りの点検を行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 主機始動後,主機警報電源スイッチを入れなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,出港前の主機始動後,間もなくの事故であり,原因とするまでもない。
(第2)
 本件は,発航時,貯蔵油タンクの潤滑油量を確認し,ほとんど残っていないことを認めて潤滑油を補給していれば,漁場で同油を油だめに補給することができ,本件を回避できたと認められる。
 したがって,A受審人が,発航時,まだ補給する潤滑油は残っているものと思い,貯蔵油タンクの同油量を確認しなかったことは,本件発生の原因となる。
 また,補助タンクから潤滑油を油だめに移す際,同タンクから同油を油だめに移したうえ,同タンクを主機から分離する措置をとっていれば,油だめの油量不足が解消され,発生を回避できたと認められる。
 したがって,A受審人が,補助タンクから油だめに潤滑油を移す際の措置が不適切で,油だめの油量不足を解消できず,同油圧力が低下したまま,主機の運転を続けたことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
(第1)
 本件機関損傷は,潤滑油こし器を開放掃除した際,復旧作業が不十分であったことと,主機始動後の主機回りの点検が不十分であったこととにより,同こし器から潤滑油の噴出が続いて油だめの同油を喪失し,各軸受の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。
(第2)
 本件機関損傷は,発航時の貯蔵油タンクの潤滑油量の確認が不十分で,漁場で油だめに潤滑油を補給できなかったことと,補助タンクから油だめに同油を移す際の措置が不適切で,油だめの油量不足が解消されなかったこととにより,油だめの同油が不足し,同油圧力が低下したまま主機の運転が続けられ,ピストンの冷却及び潤滑が阻害されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
(第1)
 A受審人は,潤滑油こし器を開放掃除した場合,潤滑油が漏洩する事態が生じないよう,復旧作業を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,あとで残りの作業を行えばよいものと思い,作業を中断して機関室を離れ,復旧作業を十分に行わなかった職務上の過失により,その後一方のこし筒の上ぶたがケーシングに締め付けられていないことを失念し,主機始動後潤滑油こし器から潤滑油の噴出が続いて油だめの同油を喪失し,各軸受の潤滑が阻害されて焼損する事態を招き,クランク軸,台板,1及び3番シリンダの連接棒等を損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して,同人の四級海技士(機関)の業務を1箇月停止する。
(第2)
 A受審人は,漁場に向けて発航する場合,油だめの油量が検油棒の下限線近くになっていたのであるから,漁場で潤滑油を補給することができるよう,貯蔵油タンクの同油量を十分に確認すべき注意義務があった。しかるに,同人は,まだ補給する潤滑油は残っているものと思い,貯蔵油タンクの同油量を確認しなかった職務上の過失により,ほとんど残っていないことに気付かずに発航し,漁場で油だめに同油を補給することができず,油だめの同油が不足し,同油圧力が低下したまま主機の運転を続け,2番シリンダのピストンの冷却及び潤滑が阻害されてシリンダライナに焼き付く事態を招き,ピストン,シリンダライナ及び連接棒等を損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して,同人の四級海技士(機関)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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