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平成18年神審第69号
件名

貨物船東洋丸機関損傷事件(簡易)

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成18年8月9日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(濱本 宏)

理事官
中井 勤

受審人
A 職名:東洋丸機関長 海技免許:三級海技士(機関)(機関限定)

損害
主軸受及びクランクピン軸受のメタル全数にオーバーレイの剥離や摩耗等

原因
主機潤滑油の性状管理不十分

裁決主文

 本件機関損傷は,主機潤滑油の性状管理が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年9月24日18時00分
 淡路島門埼東南東方沖合
 (北緯34度14.3分 東経134度40.1分)

2 船舶の要目
船種船名 貨物船東洋丸
総トン数 499トン
全長 75.81メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,471キロワット
回転数 毎分290

3 事実の経過
 東洋丸は,平成11年7月に進水した,B社が船舶管理人として運航し,限定沿海区域を航行区域とする船尾船橋型鋼製貨物船で,広島県福山港を積地に,名古屋及び京浜の各港を揚地とし,大口径鋼管などの輸送に従事しており,主機として,C社が製造した6M34BGT型と呼称する,シリンダ径340ミリメートル(mm)行程620mmの6シリンダの船首側から順番号が付されたディーゼル機関が,船尾上甲板下の機関室に据え付けられ,船橋には主機遠隔操縦装置が設置されていた。
 主機の潤滑油系統は,油量4キロリットルのサンプタンクから32メッシュの1次こし器を通り,直結潤滑油ポンプで吸引・加圧され,潤滑油冷却器及び250メッシュの逆洗式2次こし器(以下「2次こし器」という。)を経て,主機各部,弁腕注油のほか,主軸受,クランクピン軸受等を強制潤滑したのち,主機油だめから直下のサンプタンクに戻って循環するようになっており,潤滑油清浄機(以下「清浄機」という。)が常時運転されて同タンクの潤滑油が側流清浄されており,2次こし器においては,出入口の差圧が0.7キログラム毎平方センチメートル以上となった時点で自動逆洗が行われ,同こし器の目詰まりを解消するようになっていた。また,主機潤滑油管理基準には,全酸価が3ミリグラム水酸化カリウム毎グラム(mgKOH/g)以上となった場合には全量更油すべき旨などが記載されていた。
 ところで,A受審人は,昭和43年10月遠洋トロール漁船に機関員として乗り組み,同50年10月乙種一等機関士(機関限定)免許を取得し,平成4年4月B社に入社し,同5年2月より各船において機関長職を執っており,主機が年間2,500時間運転されていた東洋丸において,平素,清浄機を常時運転し,300時間ごとに同機の回転体を開放掃除するほか,燃料噴射弁の取替え,各種こし器の開放掃除などを行っていた。しかし,主機潤滑油は就航後一度も更油されないまま19,200時間が経過していた。
 A受審人は,平成16年2月以降業者に主機潤滑油の性状分析を依頼しないまま,同17年7月初旬同油1次こし器を開放した際,同油の粘度が以前より上昇していると感じたものの,同機潤滑油に1週間に50リットル程度新油を補給しているから大丈夫と思い,性状分析を依頼するなどして同油の性状管理を十分に行っていなかったので,その後もカーボン等の燃焼生成物が混入するなどして同油が汚損され,全酸価が更油限度の3mgKOH/gをはるかに超える11mgKOH/gに達するなど性状劣化が著しく進行していたことに気付かないまま運転を続けていた。
 こうして,東洋丸は,A受審人ほか5人が乗り組み,船首2.0メートル船尾4.0メートルの喫水をもって,大口径鋼管272トンを積載し,平成17年9月24日10時15分広島県福山港を発し,愛知県衣浦港経由千葉県市川港に向け瀬戸内海を東行中,主機潤滑油入口圧力が下がり,2次こし器の自動逆洗が頻繁に行われ,同圧力の復帰と低下が繰り返されていたところ,接近していた台風を避けるため,同日16時00分淡路島門埼東南東方沖合で避泊した。
 ここで,A受審人は,2次こし器が頻繁に自動逆洗を行っていることが気になって,同日18時00分門埼灯台から真方位115度800メートルの地点において,同こし器を開放して金属粉を多数認めたことから,すぐにクランク室点検を実施し,油だめに多数の金属粉を発見するに至った。
 当時,天候は晴で風力3の北北西風が吹き,海上には白波があった。
 その結果,東洋丸は,徳島県徳島小松島港に緊急入港し,業者により主機が精査され,主軸受及びクランクピン軸受のメタル全数にオーバーレイの剥離や摩耗が判明し,その後,主機の汚損潤滑油が更油され,損傷部品が交換された。

(海難の原因)
 本件機関損傷は,機関の運転保守にあたる際,主機潤滑油の性状管理が不十分で,同油の性状が劣化したまま運転が続けられたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,機関の運転保守にあたる場合,主機の各部軸受が強制潤滑されているから,同機潤滑油が汚損され,性状が劣化したまま運転を続けることがないよう,適宜,業者に性状分析を依頼するなどして同機潤滑油の性状管理を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,同機潤滑油に1週間に50リットル程度新油を補給しているから大丈夫と思い,長期間業者に性状分析を依頼せず,同機潤滑油の性状管理を十分に行っていなかった職務上の過失により,同油の性状が劣化したまま運転を続け,航行中,同機各軸受部の潤滑が阻害される事態を招き,主軸受及びクランクピン軸受のメタル全数にオーバーレイの剥離や摩耗を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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