(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年7月17日14時30分
福島県松川浦漁港
(北緯37度49.8分 東経140度58.4分)
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船観音丸 |
総トン数 |
48トン |
登録長 |
23.70メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
514キロワット |
3 事実の経過
観音丸は,平成2年7月に進水した,沖合底びき網漁業に従事し,船体中央に機関室を有する軽合金製漁船で,主機として,B社が製造したS6EFGHS型と呼称する,計画回転数毎分380(以下,回転数は毎分のものとする。)の過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関と可変ピッチプロペラを備えていた。
主機の冷却清水系統は,冷却水出口集合管の清水が清水冷却器を経て電動式の冷却清水ポンプに吸引加圧され,冷却水入口主管からシリンダジャケットとシリンダヘッド及び過給機に至って冷却するもので,機関室上部に冷却水膨張タンクを有し,シリンダ出口の冷却水温度が摂氏約65度(以下,温度は摂氏で示す。),同温度上昇警報の作動値が80度であった。
また,冷却海水系統は,海水箱に付設した海水吸入弁から海水が電動式の冷却海水ポンプに吸引加圧され,潤滑油冷却器,空気冷却器,清水冷却器を順に冷却し,また,空気冷却器前で分岐してクラッチ冷却器を冷却して,それぞれ船外に排出されるようになっていた。
ところで,海水箱は,機関室中央部の右舷側に位置し,主機,冷凍機及び予備の3区画に分かれ,各区画は隔壁穴により共通し,外板側には直径6ミリメートル(以下「ミリ」という。)の穴が多数開いた同径250ミリのアルミニウム合金製目皿が取り付けられていた。
A受審人は,高校卒業後観音丸に機関員として乗船し,同12年6月五級海技士(機関)免許を取得したのち機関長として乗り組み,機関の運転保守に当たり,実父である船長,実弟である機関員及び2人の甲板員とともに操業に従事し,7及び8月の休漁期には,検査工事以外は乗組員によって主機の整備を行っていた。
同17年7月観音丸は,休漁期に入り,船首1.15メートル船尾2.50メートルの喫水をもって,鵜ノ尾埼灯台から真方位301度1,300メートルの松川浦漁港の岸壁に右舷付け係留し,同月5日からA受審人が主体となり,船長及び機関員が手伝って主機の整備を開始した。
A受審人は,全シリンダのシリンダヘッドを開放したうえ,吸・排気弁,燃料噴射弁等を整備し,各冷却器の海水側掃除及び潤滑油の取替えなどを行い,同月17日10時00分主機を復旧し終え,5時間くらいの予定で,380回転の停止回転で係留運転を始めた。
11時00分A受審人は,漁港近くの自宅に帰って昼食をとることとしたが,主機が異常なく運転しているので大丈夫と思い,主機を停止することなく,380回転で運転したまま,船長,機関員とともに離船し,船内を無人とした。
観音丸は,いつしか港内に浮遊していたビニール片が海水箱の各目皿に吸着し,冷却海水量が減少したまま運転が続けられ,やがて冷却水及び潤滑油各温度が上昇して冷却水温度上昇警報が作動したが,これに気付かれず,冷却及び潤滑が阻害され,14時30分船長,機関員とともに帰船したA受審人が,同警報が作動するとともに,冷却水膨張タンク内の清水が蒸発し,主機が著しく過熱しているのを認め,直ちに主機を停止した。
当時,天候は晴で風力2の南南東風が吹き,海上は穏やかであった。
この結果,全シリンダのピストン及びシリンダライナ並びにクランクピン軸受等のメタルを焼損したが,それらはのち修理された。
(海難の原因)
本件機関損傷は,主機整備後の係留運転中,船内を無人とする際,主機を停止せず,海水箱目皿に浮遊ビニール片が吸着して,冷却海水量が減少したまま運転が続けられ,冷却及び潤滑が阻害されたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,主機整備後の係留運転中,自宅に帰って食事をとるため,船内を無人とする場合,不測の事態に対処できないから,主機を停止すべき注意義務があった。しかるに,同人は,主機が異常なく運転しているので大丈夫と思い,主機を停止しなかった職務上の過失により,船内を無人とし,海水箱目皿に浮遊ビニール片が吸着して,冷却海水量が減少したまま運転を続け,冷却水温度上昇警報が作動したことに気付かず,冷却及び潤滑が阻害される事態を招き,全シリンダのピストン及びシリンダライナ並びにクランクピン軸受等のメタルを焼損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。