(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年12月14日11時25分
熊本県八幡瀬戸
(北緯32度16.6分 東経130度10.8分)
2 船舶の要目
船種船名 |
交通船瑞鳳 |
総トン数 |
8.5トン |
登録長 |
11.98メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
301キロワット |
回転数 |
毎分2,520 |
3 事実の経過
瑞鳳は,昭和63年に建造されたFRP製交通船で,作業員の輸送,魚礁投入時の測量等に従事しており,船体中央に客室及び操舵室,操舵室の下部に機関室が配置されていた。
機関室は,中央に主機,右舷側に船底弁と海水こし器をそれぞれ配置していた。
主機は,B社が製造したTAMD74P-5型と称するディーゼル機関で,清水を冷却水とする間接冷却方式で,直列シリンダ配置の船首側に冷却水タンクを配置し,冷却水ポンプと冷却海水ポンプとを直結駆動していた。
冷却水は,冷却水タンクから吸引され,冷却水ポンプで加圧されたのち潤滑油冷却器及びシリンダジャケットに分けて送られ,同ジャケットからはシリンダヘッド,過給機及び排気マニフォルドを順次冷却し,再び同タンクに戻って清水冷却器で冷却海水(以下「海水」という。)により冷却される循環をしており,総容量が約35リットルであった。また,通常運転中には水温が摂氏75度から95度の範囲で加圧状態に保たれ,温度の上限を超えると操舵室に冷却水温度警報を発し,海水の流量不足などで高温が続いたときには冷却水タンクの給水キャップ付の圧力弁が開いて,タンク外に逃がされるようになっていた。
主機の海水は,船底に取り付けられた目皿を通って吸引され,船底弁と,アクリル製の本体の中にこし網が納められた海水こし器とを経てゴムロータ式の海水ポンプで加圧されたのち,清水冷却器と給気冷却器に送られ,冷却を終えたものが排気に合流し,左舷船尾の排気口から排出されるようになっていた。
瑞鳳は,A受審人(昭和58年6月二級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み,作業員を乗せて船首0.3メートル船尾0.8メートルの喫水をもって,平成16年12月14日08時30分熊本県佐敷港を発し,途中,数箇所の作業現場を経由したのち10時ごろ同県深海漁港に入港し,作業員を全員降ろしたが,いつしか船底から吸い込んだビニールが船底弁に徐々に詰まって主機の海水流量が減少していた。
A受審人は,平素から船尾の排気口からの海水の排出状況を確認していなかったので,海水の排出量の減少に気付かなかった。
瑞鳳は,11時00分深海漁港を発し,主機を回転数毎分2,200の前進全速にかけて,八幡瀬戸に向かって北東進していたところ,船底からの海水吸引が不足して海水ポンプのリップが破損し,海水流量が減少して冷却水温度が急激に上昇し,11時05分ごろ冷却水温度警報が鳴り,冷却水タンクの給水キャップから冷却水があふれ出た。
A受審人は,主機を停止回転とし,床板を外して機関室を点検したところ,水蒸気が充満するとともに冷却水タンクから冷却水があふれていたので,いったん主機を停止したが,清水を補給さえすれば問題ないと思い,主機各部の温度が下がるまで徐冷したうえ,主機を再始動したのち船尾の海水排出量を点検するなど過熱後の措置を十分にとることなく,主機が過熱したまま冷却水タンクに清水を補給し,操縦席で冷却水温度が低下しているのを見て2,200回転まで増速し,2分ないし3分後に再び警報が鳴ったのちもしばらく運転を続け,更に2度目の冷却水補給を行って続航した。
こうして,瑞鳳は,過熱していた主機の排気マニフォルドが冷却水の補給で過冷却されたうえ,わずかな海水流量のまま運転が継続され,11時25分待島灯台から真方位275度870メートルの地点において,運転不能となった。
当時,天候は晴で風力2の北西風が吹き,潮候は下げ潮の中央期で,付近海域には南西への弱い潮流があった。
瑞鳳は,投錨してA受審人が知り合いの漁船に連絡して救援を依頼し,佐敷港に引きつけられ,主機が精査された結果,全てのシリンダライナにたて傷を,排気マニフォルドに亀裂を生じており,のち損傷部品が取り替えられた。
(海難の原因)
本件機関損傷は,主機の海水ポンプが破損し,海水流量が減少して冷却水温度警報が鳴った際,主機過熱後の措置が不十分で,主機が過熱したまま冷却水が補給され,高速回転まで増速して運転が続けられたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,冷却水温度警報が鳴って主機を停止した場合,冷却水タンクから冷却水があふれ出る状態であったから,主機に急激な熱歪みを生じないよう,主機各部の温度が下がるまで徐冷したうえ,再始動後に海水排出量の点検を行うなど過熱後の措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,冷却水を補給さえすればよいと思い,主機過熱後の措置を十分にとらなかった職務上の過失により,主機が過熱したまま冷却水を補給して過熱部を急冷したうえ,わずかな海水量のまま,主機を高速回転まで増速し,過熱膨張したピストンをシリンダライナに金属接触させる事態を招き,排気マニフォルドに亀裂を,また,シリンダライナにたて傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。