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平成17年函審第47号
件名

漁船第十五 八幡丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成18年7月19日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(井上 卓,西山烝一,堀川康基)

理事官
平井 透

受審人
A 職名:第十五 八幡丸機関長 海技免許:四級海技士(機関)(機関限定)

損害
ピストン,シリンダライナ等に損傷

原因
トルクリッチ領域での運転防止措置不十分

主文

 本件機関損傷は,主機の運転管理にあたり,トルクリッチ領域での運転防止措置が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年7月23日15時00分
 北海道釧路市造船所構内
 (北緯42度58.4分 東経144度22.2分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第十五 八幡丸
総トン数 160トン
全長 38.126メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 860キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第十五 八幡丸
 第十五 八幡丸(以下「八幡丸」という。)は,昭和58年3月に進水した,かけ回し式沖合底引き網漁業に従事する鋼製漁船で,平成10年7月B社が購入し,北海道釧路港を基地として,一航海が20時間ないし50時間となる,主としてスケトウダラ漁を9月1日から翌年5月31日までの9箇月間行い,主機の年間の運転時間が約3,000時間であった。
イ 船速調整
 船速調整は,船橋で遠隔操作することにより,主機の増減速用燃料ハンドル操作と可変ピッチプロペラの翼角の加減によって行うようになっていた。
ウ 主機
 主機は,C社が昭和58年3月に製造した6M28型と呼称する,可変ピッチプロペラを駆動する連続最大出力1,471キロワット(kw)同回転数毎分750(以下,回転数は毎分のものとする。)の過給機空気冷却器付き2次冷却式4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関で,燃料噴射ポンプのラックを制御する燃料調整軸に燃料制御レバーを付加して計画出力860kw同回転数590として登録されていたが,いつしか,同レバーの設定が解除され,中古船として購入された時点では,既に燃料噴射ポンプラックに負荷制限装置としてストッパーが取り付けられ,同ラック目盛(以下「ラック目盛」という。)33で負荷を制限するようになっていた。
 ところで,主機は,メーカーの陸上試運転及び海上試運転時の記録から,連続最大出力及び同回転数を出したときのラック目盛が29であり,ラック目盛29を超えた領域がトルクリッチ運転領域で,連続運転を避けるべき領域であり,船体が汚れたり,風浪や積荷で船体負荷が増加して回転数が低下しても,ラック目盛29を超えて連続運転することは避けなければならないものであった。
 主機の潤滑油は,セミドライサンプ方式で,クランク室下部の油だめ及び補助タンクに合計2,100リットルが入れられており,平成15年8月に更油され,その後,出航前に消費分が補油されていた。

3 事実の経過
 八幡丸は,毎年6月から8月にかけての休漁期間に船体,機関等の整備を行い,主機については毎年ピストンを抜出してピストンリングの新替等を行っていたところ,平成14年には3シリンダ分のシリンダライナ(以下「ライナ」という。)にスカフィング及びスコーリングによる異常摩耗が認められて新替し,翌15年にも1シリンダ分のピストン,ライナ等に焼損が発見されて,ピストンのスカート部及びライナの新替を行っていた。
 A受審人は,同15年10月の休漁明けから操業を開始するにあたり,船内で保存されていた主機の陸上試運転成績表及び海上試運転成績表により,許容されるラック目盛の最大値が29であることを知り,燃料噴射ポンプラックに設けられた負荷制限装置がトルクリッチ領域に設定されていることを認めたが,中古船で購入する以前から設定されていたのだから大丈夫と思い,燃料噴射ポンプラックに設けられた負荷制限装置の設定を変更するなどして,トルクリッチ領域での運転防止措置を十分にとることなく,以前と同様の運転をすることにした。
 八幡丸は,基地と漁場との往復及び引き網時には,恒常的にラック目盛29を超える運転を,ときには同目盛33のトルクリッチ領域で運転を続けていたところ,排気温度が上昇して,ピストンリングとライナ間の摺動部の潤滑油膜が切れ気味となった。
 A受審人は,同16年4月27日16時00分潤滑油補給時に,約15日に一回行っていた潤滑油こし器の開放点検を行って,エレメントに鉄粉が少量付着していることに気付いた。
 そこで,A受審人は,翌28日業者に整備を行わせたところ,3番シリンダのライナ摺動部に荒れが生じていることが判明し,ピストンを抜き出し,ライナ内面の手入れを行って補修し,29日より操業を再開することにしたが,依然として,トルクリッチ領域での運転防止措置を十分にとらなかった。
 こうして,八幡丸は,トルクリッチ領域での運転を回避しないまま運転を続けていたところ,4月28日の補修後の操業再開から200時間を超えて運転したところで,ピストンとライナ間の摺動部の潤滑油膜が切れて金属接触し,3及び5番シリンダのライナに深いかじり傷が,2及び6番シリンダピストンのスカート部に亀裂がそれぞれ生じ,5月17日潤滑油こし器前後の差圧が急激に大きくなり,同こし器が鉄粉で目詰まりした。
 その後,八幡丸は,普段より負荷を軽減して4日間ほど操業を行い,同年5月31日操業を終了して休漁期に入り,7月21日定期検査の目的で入渠して主機を開放したところ,7月23日15時00分釧路港東区北防波堤南灯台から真方位114度1,000メートルの地点において,前示損傷が発見された。
 当時,天候は曇で風力4の南南東風が吹いていた。
 八幡丸は,前示損傷部品等を新替して,修理された。

(本件発生に至る事由)
1 トルクリッチ領域での運転防止措置を十分にとらなかったこと
2 トルクリッチ領域での運転を恒常的に行ったこと

(原因の考察)
 本件は,主機をトルクリッチ領域で恒常的に運転していたことが明らかであり,同領域での運転防止措置を十分にとっていれば,同領域での運転が行われず,本件は防止できたと認められる。
 したがって,A受審人が,トルクリッチ領域での運転防止措置が不十分であったことは本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件機関損傷は,主機の運転管理にあたり,トルクリッチ領域での運転防止措置が不十分で,運転中,ライナ摺動部の油膜切れが生じたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,主機の運転管理にあたり,燃料噴射ポンプラックに設けられた負荷制限装置がトルクリッチ領域に設定されていることを認めた場合,設定を変更するなどして,トルクリッチ領域での運転防止措置を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,中古船で購入する以前から設定されていたのだから大丈夫と思い,トルクリッチ領域での運転防止措置を十分に行わなかった職務上の過失により,ピストンリングとライナ間の摺動部の潤滑油膜が切れて金属接触し,スカフィング,スコーリングが発生するなどの事態を招き,ピストン,ライナ等が損傷するに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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