日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2006年度(平成18年度) >  爆発事件一覧 >  事件





平成18年広審第17号
件名

モーターボート オスカー爆発事件

事件区分
爆発事件
言渡年月日
平成18年8月21日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(内山欽郎,島 友二郎,藤岡善計)

理事官
河本和夫

受審人
A 職名:オスカー船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船体の損傷ほとんどない
同乗中の子供3人が両足に熱傷

原因
機器取扱い方法の習得不十分

主文

 本件爆発は,機器の取扱い方法の習得が不十分で,機関室の換気ブロワを運転せずに主機を始動操作中,機関室内に滞留していた未燃焼ガスが引火したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年10月10日12時30分
 岡山県西大寺港
 (北緯34度38.17分 東経134度1.95分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 モーターボート オスカー
全長 5.04メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 89キロワット
(2)設備等
 オスカーは,平成12年4月に第1回定期検査を受検した,最大搭載人員5人のジェット噴射式FRP製モーターボートで,中央右舷側に操縦装置が,その後方に操縦席を含む3人掛けの座席が,及び前方両舷に各1個の座席がそれぞれ設けられ,3人掛けの座席の後方が背もたれを兼ねたハッチになっていて,同ハッチの下側が,左舷側から順に救命胴衣用格納庫,物入れを兼ねた蓋が取付けられた幅1.0メートル奥行き0.75メートル高さ0.75メートルの機関室及びエンジンオイル・バッテリー用格納庫になっていた。
 主機は,B社製の66H型と呼称する定格出力89キロワット同回転数毎分6,750の電気点火機関で,排気管が海水で冷却されるようになっており,同管に厚さが最大7.1ミリメートル最小4.3ミリメートルの補強布入りゴム製ホース(以下「排気ホース」という。)が接続されていた。
 ところで,メーカーは,燃料が引火・爆発の危険性のあるガソリンであることから,主機を始動する前には90秒以上機関室の換気ブロワ(以下「換気ブロワ」という。)を運転するよう,取扱説明書に記載するとともに注意書きを操縦席横の壁に貼って,操縦者に注意を喚起していた。

3 事実の経過
 オスカーは,A受審人が1人で乗り組み,大人2人及び子供3人を同乗させ,釣りなどの目的で,平成17年10月10日10時30分岡山県吉井川河口の保管地を発し,近くの釣り場に向かった。
 ところで,A受審人は,オスカーの購入時に取扱説明書がなかったが,前船舶所有者に取扱説明書を求めなかったばかりか,船内に貼ってある各種の注意書きも読んでおらず,主機を始動する前には換気ブロワを運転する必要があることを知らなかったので,同ブロワを運転せずに主機を始動していた。
 その後,オスカーは,釣り場に至れば主機を停止して釣りを行い,暫くすれば主機を始動して釣り場を移動するなどしていたところ,いつしか,排気ホースに亀裂が生じて排気ガスが機関室内に漏れ始め,主機が,機関室内に滞留した排気ガスを吸入して,空気不足で出力が低下する状況となっていた。
 11時30分,A受審人は,釣り場を移動中に速力が低下して突然主機が停止し,再始動できても回転数を毎分約1,000のアイドリング回転数以上に上げると直ぐに主機が停止する状態だったので,10回ないし20回ほど主機の始動操作を繰り返したのち,携帯電話で前船舶所有者に相談したところ,吉井川の川岸に着岸するよう指示を受けたものの,その場を動かない方がよいと判断し,上流に流されると主機をアイドリング回転数で運転して元の場所に戻るということを繰り返しながら,同人が来るのを待った。
 12時10分,A受審人は,機関のことは詳しくなかったものの取り敢えず機関室内を点検してみようと考え,主機の停止中にハッチを開けて機関室内を点検したところ,排気ホースに亀裂が生じているのを発見したので主機は運転しない方がよいだろうと判断し,上流に流されるままの状態で前船舶所有者を待っていたが,川岸に同人の姿を認めたことから,主機をアイドリング回転数で運転して川岸に着岸することにした。
 こうして,オスカーは,主機をアイドリング回転数で運転して川岸に向かう途中,主機が停止したことから主機の始動操作を繰り返し,未燃焼ガスが排気管内及び機関室内に滞留していたところ,主機が始動した瞬間,高温の排気ガスによって排気管内に滞留していた未燃焼ガスが着火し,12時30分比沙古岩灯標から真方位348度1.75海里の地点において,排気ホースの亀裂部から噴き出した炎によって,機関室内に滞留していた未燃焼ガスが引火・爆発した。
当時,天候は曇で風力3の南風が吹き,潮候は上げ潮の中央期であった。
 その結果,船体と機関にはほとんど損傷がなかったものの,ハッチと座席の隙間から吹き出した熱風によって,ハッチの背もたれに腰を掛けていた子供3人が,両足にそれぞれ2週間から3週間の加療を要する熱傷を負った。
 A受審人は,携帯電話で直ちに消防署に連絡するとともに,近くにいたモーターボートに係留予定地点まで曳航してもらい,救急車の到着を待って,熱傷を負った子供3人を病院に搬送した。

(本件発生に至る事由)
1 扱説明書も注意書きも読んでいなかったこと
2 主機の始動前に換気ブロワを運転する必要があることを知らず,換気ブロワを運転せずに主機を始動したこと
3 排気ホースに亀裂が生じて排気ガスが機関室内に漏洩したこと
4 主機が始動不調となって排気管内及び機関室内に未燃焼ガスが滞留したこと

(原因の考察)
 本件は,事実認定の根拠中で認定した諸事実から明らかなように,出航後に排気ホースに亀裂が生じて排気ガスが機関室内に漏洩したことから,主機が排気ガスを吸入して停止するとともに始動不調となり,換気ブロワを運転せずに主機の始動操作を繰り返して排気管内及び機関室内に未燃焼ガスが滞留していたところ,主機が始動した瞬間に,排気管内の未燃焼ガスが着火して排気ホースの亀裂部から炎が噴き出し,機関室内に滞留していた未燃焼ガスが引火・爆発したものである。
 すなわち,排気ホースに亀裂が生じなければ,主機が停止することも始動不調になることも,更には,排気管内及び機関室内に未燃焼ガスが滞留することもないので,本件は発生しなかったと認められる。
 しかしながら,出航前には排気ホースの表面に異常がなかったと推認されることから,同ホースの亀裂に気付かなかったことに関して,A受審人に過失があったとは認められない。
 一方,A受審人が,取扱説明書又は注意書きを読んで,主機の始動前に換気ブロワを運転していれば,例え,排気ホースに亀裂が生じて未燃焼ガスが機関室内に漏洩していたとしても,未燃焼ガスは外部に排出されて機関室内には滞留しないから,機関室内で爆発が発生することはなかったと考えられる。
 以上のことから,A受審人が,取扱説明書又は注意書きを読んで,主機の始動前に換気ブロワを運転していれば,本件は防止できたと認められる。
 したがって,A受審人が,取扱説明書も注意書きも読まず,主機の始動前に換気ブロワを運転しないなど,機器の取扱い方法を十分に習得していなかったことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件爆発は,モーターボートを運転する際,機器の取扱い方法の習得が不十分で,換気ブロワを運転せずに主機を始動操作中,排気ホース内の未燃焼ガスが着火し,同ホースの亀裂部から噴き出した炎によって機関室内に滞留していた未燃焼ガスが引火したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,モーターボートを運転する場合,機器の取扱い方法を十分に習得すべき注意義務があった。ところが,同人は,取扱説明書も船内に貼ってある注意書きも読まないなど,機器の取扱い方法を十分に習得しなかった職務上の過失により,換気ブロワを運転せずに主機を始動操作中,排気ホース内の未燃焼ガスが着火し,同ホースの亀裂部から噴き出した炎によって機関室内に滞留していた未燃焼ガスが引火・爆発する事態を招き,同乗者に熱傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION