(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年5月21日13時30分
香川県丸亀港
(北緯34度17.5分 東経133度47.5分)
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船亀松丸 |
総トン数 |
499トン |
登録長 |
48.23メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
亀松丸は,昭和62年6月に進水して平成5年3月に現船舶所有者が購入した,船尾に船橋を有する低船尾楼付き一層甲板型の鋼製砂利採取運搬船で,隆起甲板下が機関室になっており,同甲板上の船橋前方には砂利選別機等の砂利採取設備が設置されていた。
ところで,機関室内右舷前方は,消防兼雑用ポンプ及びホールドビルジポンプを据え付けた幅約2メートル奥行き約4メートル高さ約1.8メートルのポンプ区画になっていて,その天井と隆起甲板間の約1メートルの隙間には,ウエス用の布団や毛布及び段ボール等の可燃物が積み上げられており,その上方の隆起甲板上には,厚さ10ミリメートル(以下「ミリ」という。)外径620ミリ高さ700ミリの円筒形で,天板中央に砂利吸引ホース吊上げ滑車用シャックルのアイが取り付けられ,内側に厚さ10ミリ外径410ミリ高さ700ミリの円筒を補強材として入れて二重構造となった,構造物(以下「円筒形構造物」という。)が溶接付けされていた。
C社の代表取締役でもあるA受審人は,平成17年3月末で香川県沖合における砂利採取が全面的に禁止されたので,亀松丸を丸亀港内の丸亀港蓬莱町防波堤灯台から真方位161度1,900メートルの地点に係留していたが,船長として乗船していた息子が陸上の会社に転職したことから,同船を貨物船に改装して,自らが船長として乗り組むことにしていた。
B受審人は,改装後の亀松丸に機関長として乗り組む予定で,同年5月2日に雇い入れられ,A受審人の指示を受けて砂利採取設備の撤去作業を行い,同月10日からは臨時に作業員として雇われた亀松丸の元乗組員と2人で同作業に従事し,同月20日にサンドポンプやホース等の大きな物は撤去し終え,前示の円筒形構造物も甲板上約50ミリを残して切断していた。
A受審人は,翌21日も10時から作業を開始し,50ミリほど残っていた円筒形構造物の切断跡が歩行の邪魔になることからB受審人にガス切断するよう指示したが,今まで火気作業が必要なときには造船所に依頼していたので防火対策が必要なことに思いが至らず,防火対策を十分に取るようB受審人に指示しなかった。
一方,B受審人は,円筒形構造物下方の甲板下はポンプ区画の天井なので可燃物はないものと思い,甲板下を点検しなかったので,ポンプ区画の天井にウエス用の布団や毛布及び段ボール等の可燃物が積み上げられていることに気付かず,それらを移動させるとか耐火シートを被せて作業員を監視に当たらせるなどの防火対策を取ることなく,ガス切断作業を開始した。
こうして,亀松丸は,13時過ぎにA受審人が近くの商店に買物に出かけた後,B受審人が,作業員と2人で円筒形構造物のガス切断作業を続行中,甲板下で異音がするのに気付き,不審に思って機関室に赴いたところ,13時30分前示の係留地点において,船橋船尾側の機関室入口から真っ黒な煙が多量に発生しているのを発見した。
当時,天候は晴で風はなく,海上は穏やかであった。
B受審人は,食堂に置いてあった消火器を持ち,口にタオルを当てて機関室内に入ろうと試みたものの,息苦しくて入れなかったことから,13時35分携帯電話で消防署に事態を通報した。
亀松丸は,来援した消防隊員が消火活動を行った結果,14時47分鎮火が確認されたが,火災によって,ポンプ区画の天井に積み上げられていた布団や毛布のほか,機関室天井壁の一部が焼損した。
(海難の原因)
本件火災は,火気作業を行う際の防火対策が不十分で,甲板上の円筒形構造物をガス切断作業中,甲板裏面の塗膜が焼け落ちて直下の可燃物が着火したことによって発生したものである。
防火対策が十分でなかったのは,船長が作業を行う機関長に対して防火対策を十分に取るよう指示しなかったことと,機関長が防火対策を十分に取らずに作業を行ったこととによるものである。
(受審人の所為)
A受審人は,機関長に甲板上でガス切断作業を行わせる場合,防火対策を十分に取るよう指示すべき注意義務があった。ところが,同人は,今まで火気作業が必要なときには造船所に依頼していたので防火対策が必要なことに思いが至らず,防火対策を十分に取るよう指示しなかった職務上の過失により,機関長が防火対策を取らずにガス切断作業を行って火災になる事態を招き,機関室天井壁の一部を焼損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,甲板上でガス切断作業を行う場合,甲板下に可燃物があると焼け落ちた塗膜によって火災になるおそれがあったから,甲板下を点検して,可燃物があれば移動させるとか可燃物に耐火シートを被せて作業員を監視に当たらせるなど,防火対策を十分に取るべき注意義務があった。ところが,同人は,甲板下はポンプ区画の天井なので可燃物はないものと思い,防火対策を取らないままガス切断作業を行った職務上の過失により,火災を生じさせて機関室天井壁の一部を焼損させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。