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平成18年広審第50号
件名

漁船第八住宝丸火災事件(簡易)

事件区分
火災事件
言渡年月日
平成18年8月29日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(内山欽郎)

理事官
河本和夫

受審人
A 職名:第八住宝丸機関長 海技免許:五級海技士(機関)(機関限定)(履歴限定)

損害
機関室上部の照明器具,電線等が焼損,電動機等に濡れ損

原因
主機計器板の防振措置不十分,圧力計用導管の点検不十分

裁決主文

 本件火災は,主機計器板の防振措置及び圧力計用導管の点検がいずれも不十分で,燃料油圧力計用導管の緩んだ継手から噴出した燃料油が,主機排気管又は過給機の高温部に降り掛かり着火したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年1月18日14時00分
 愛媛県佐田岬南東方沖合
 (北緯33度19.4分 東経132度1.9分)

2 船舶の要目
船種船名 漁船第八住宝丸
総トン数 199.95トン
全長 43.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット

3 事実の経過
 第八住宝丸(以下「住宝丸」という。)は,昭和54年2月に進水した,船尾に機関室と船橋を有する鋼製の活魚運搬船で,専ら愛媛県宇和島港で積み込んだ活魚を広島県や香川県に運搬していた。
 主機は,燃料油にA重油を使用するディーゼル機関で,各シリンダには船首側を1番として6番までの順番号が付されており,各シリンダの排気管及び排気集合管(以下,排気集合管を含めて「排気管」と総称する。)が右舷側に配置され,6番シリンダの船尾側架構上に排気ガスタービン過給機(以下「過給機」という。)が付設されていた。
 ところで,主機6番シリンダヘッドと過給機の間の左舷側には,主機の回転計及び燃料油や潤滑油等の圧力計がはめ込まれた計器板が左舷方を向いて取り付けられ,同計器板の裏側に各圧力計用の導管が配管されていたので,導管から燃料油や潤滑油が噴出すると,同油が主機排気管や過給機の高温部に降り掛かって火災になるおそれがあった。
 A受審人は,平成13年8月B社に入社して機関員となったが,それ以前は小型漁船の甲板員をしており,同14年12月に現有免許を取得して機関長となり,住宝丸には同16年2月から機関長として乗り組んでいた。
 A受審人は,乗船中,2時間おきに機関室内の点検を行いながら各機器の運転管理に当たっていたところ,主機の計器板がかなり振動しているのを認めていたものの,防振措置を施さなかったうえ,各圧力計に至る計器板裏側の導管を十分に点検していなかったので,いつしか燃料油圧力計用導管の継手が緩んで燃料油が漏れ出す状況となっていたが,このことに気付かなかった。
 このような状況下,住宝丸は,A受審人ほか4人が乗り組み,活魚を積み込む目的で,船首2.0メートル船尾3.0メートルの喫水をもって,平成17年1月18日04時00分広島県福山港を発し,主機を回転数毎分620の全速力前進にかけ,シリンダ出口排気温度が約420度,燃料油圧力が約1.7キログラム毎平方センチメートルとなった状態で宇和島港に向かった。
 出航後,A受審人は,いつもの通り2時間おきに機関室内の点検を行い,13時ごろにも燃料油サービスタンクに燃料油を移送した際に主機周辺の点検を行ったが,計器板の裏側までは点検していなかったので,依然として,前示の継手から燃料油が漏れ出ていることに気付かなかった。
 こうして,住宝丸は,緩みが増した前示の継手から燃料油が噴出して,主機排気管又は過給機の高温部に降り掛かって着火し,上方に延焼中,14時00分佐田岬灯台から真方位144度1.5海里の地点において,操舵室に航海当直中の船長と一緒にいたA受審人が,異臭を感じるとともに機関室から煙が出ているのを発見した。
 当時,天候は晴で風力1の北西風が吹き,海上は穏やかであった。
 A受審人は,直ちに操舵室で主機を停止し,機関室内には煙が充満していて入れなかったことから,過給機の真上に位置する機関室の天窓から雑用海水ポンプの海水を放水するなどして消火活動を行い,14時25分鎮火を確認した。
 住宝丸は,船長が会社及び海上保安部に事態を報告し,海上保安部による実況見分が行われたのち,来援した僚船に曳航されて宇和島港に入港し,調査の結果,主機排気管及び過給機の断熱材,機関室上部の照明器具及び電線等が焼損したほか,機関室内に放水された海水によって電動機等に濡れ損が生じているのが判明したので,後日,損傷部分を修理した。

(海難の原因)
 本件火災は,主機計器板の防振措置及び圧力計用導管の点検がいずれも不十分で,燃料油圧力計用導管の緩んだ継手から噴出した燃料油が,主機排気管又は過給機の高温部に降り掛かり着火したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,機関室内の点検中に主機の計器板が振動しているのを認めた場合,圧力計用導管から燃料油や潤滑油が噴出すると主機排気管や過給機の高温部に降り掛かって火災になるおそれがあったから,同導管を十分に点検すべき注意義務があった。ところが,同人は,圧力計用導管の点検を十分に行わなかった職務上の過失により,燃料油圧力計用導管の緩んだ継手から噴出した燃料油が主機排気管又は過給機の高温部に降り掛かって火災となる事態を招き,機関室上部の照明器具及び電線等を焼損させたほか,機関室内に放水した海水によって電動機等に濡れ損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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