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平成18年門審第47号
件名

作業船第五幸洋丸転覆事件(簡易)

事件区分
転覆事件
言渡年月日
平成18年8月25日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(向山裕則)

副理事官
園田 薫

受審人
A 職名:第一光洋号船団長 操縦免許:小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:作業指揮者

損害
機関室に濡損

原因
錨索の根掛かり解消措置不適切

裁決主文

 本件転覆は,起重機船第一光洋号の錨索の根掛かり解消措置が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年7月4日08時40分
 関門港六連島区
 (北緯33度59.6分 東経130度53.7分)

2 船舶の要目
船種船名 作業船第五幸洋丸
全長 10.04メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 143キロワット

3 事実の経過
(1)第五幸洋丸
 第五幸洋丸(以下「幸洋丸」という。)は,平成6年4月に進水した平甲板型鋼製作業船で,主に係留索取り及び交通艇として使用され,船体中央部やや後方を機関室とし,甲板上が長さ2.3メートル(m)幅1.6m高さ1.0mの機関室囲壁となっていた。機関室囲壁は,左右に円窓,屋根にマッシュルーム型換気口,後端中央部に外付けで舵輪,その左側に機関室に通じる50センチメートル(cm)四方の鋼製蓋付開口部,その右側に機関遠隔操縦装置をそれぞれ備え,内側前部に長さ50cm幅80cm高さ50cmの燃料油タンク2個を据えてあった。
 甲板は,船首中央に幅50cm高さ80cmの門型ビットを備え,その後方1.2mのところで甲板中心線から左右1.5mのブルワーク及び船尾左右のブルワークにそれぞれ高さ50cmのクロスビットを立てていた。喫水は船首0.4m船尾1.5mで,中央部上甲板上端から水面までの垂直距離は10cmであった。
(2)第一光洋号
 第一光洋号(以下「起重機船」という。)は,長さ52m幅18m深さ3m総トン数992トンの台船型起重機船で,推進装置がなく,工事における事業場となり,移動のとき船尾中央凹部に総トン数19トンの押船第一光洋丸(以下「光洋丸」という。)を嵌入させて押船列(以下「押船列」という。)を構成していた。起重機船は,船尾部に2層の居住区を設け,甲板下を倉庫,空所,燃料油タンク,清水タンク,発電機室等に区分し,甲板上には,船首部に120トン型の旋回式ジブクレーン,船首両舷に係留索とウインチ,船首中央に1.5トン錨及び錨鎖とウインチ,船尾両舷に2トン錨及び鎖10mに連結した直径30ミリメートル(mm)の鋼索とウインチをそれぞれ備えていた。また,喫水は船首1.2m船尾1.4mであった。
(3)下関人工島工事
 下関人工島工事(以下「人工島工事」という。)は,平成7年11月着工され,多目的国際ターミナル及び港湾関連施設用地確保のための埋立て等であった。
 C社は,平成12年地盤基礎工事を請け負い,同17年6月から下関人工島に接続する道路建設のため,既に使用されていた消波ブロックを起重機船にいったん積み込み,据付け予定場所に移動して再び据え付けるなどの消波ブロック移設作業に起重機船,光洋丸及び幸洋丸を使用して従事し,作業主体を第一光洋号船団と呼んでいた。
(4)A受審人及びB指定海難関係人
 A受審人は,光洋丸船長として押船列の航海操船を行うほか,第一光洋号船団長としてB指定海難関係人の指示の下,起重機船の船固め,投錨位置決定及び転錨などを行うときの操船を主な業務としており,平成14年海上起重作業管理技師資格を取得していた。B指定海難関係人は,C社の工事部課長で,第一光洋号船団の作業指揮者としてA受審人等7人を統括していた。
(5)発生に至る経緯
 幸洋丸は,船長Dが1人で乗り組み,消波ブロック移設作業の目的で,平成17年7月4日06時00分関門港西山区西山ふ頭を発し,A受審人ほか作業員6人が乗り組んだ押船列に随行して同港六連島区の人工島工事海域に向かった。
 07時00分幸洋丸等は,人工島工事海域の北西端に置かれたケーソン沖合の作業現場に至り,別の交通艇で到着していたB指定海難関係人ほか1人が起重機船に移乗した。
 ところで,起重機船の錨索が根掛かりしたとき,B指定海難関係人は,平素,錨鎖,錨索及び係留索を繰り出したりする根掛かり解消措置をとっていた。
 B指定海難関係人は,作業打合せを始め,各作業担当者に工程上の危険予知を発表させ,総括して作業上の注意事項を助言したが,起重機船の錨索の根掛かりとなった際には報告するよう明確に指示しなかった。
 作業打合せ後,A受審人は,船固めの操船を行うために光洋丸の船橋に上り,起重機船の船尾両舷に投錨用員を配置し,07時50分六連島灯台から060度(真方位,以下同じ。)1.70海里,水深11mの地点において,ケーソンを左舷約50mに見てそれに沿う北西に向首して両舷船尾錨を同時に投下したのち,両錨索を伸ばしながら約350m北西方に進行したところで,船首錨を投下し,その後船尾両舷錨索を巻き取り,船首錨鎖を繰り出しながら南東へ約100m後退して停船した。
 この間,B指定海難関係人は,起重機船の居住区上層において投錨状況を見守っていた。
 停船したところで,D船長ほか1人が乗り組んだ幸洋丸は,起重機船の左舷船首から直径55mmの係留索を,その左舷前方約70mまで運んでケーソン付アイに繋止(けいし)した。
 A受審人は,降橋して左舷船首に移動し,ジブクレーンと消波ブロックの距離を調節するため,船首錨鎖を繰り出しながら左舷船首ウインチで前示係留索の巻取りを始め,08時20分ケーソンと左舷船首の距離が約20mとなったとき,船首錨鎖が錨鎖庫の中で詰まり,繰り出し不能となったことを知り,同索の巻取りを中止した。
 このことを知ったB指定海難関係人は,右舷船首で他の作業員とともに錨鎖の修復を始めた。
 その間,A受審人は,船尾両舷錨索の張り具合を点検したところ,右舷錨索が根掛かりしていることが判明したが,幸洋丸で錨索を曳(ひ)けば短時間に解消できるものと思い,このことをB指定海難関係人に報告せず,平素の適切な解消措置をとることなく,D船長と幸洋丸に移乗し,右舷船尾ウインチ担当者に錨索を約10m繰り出すよう指示し,自ら操船して錨索に近づいた。
 A受審人は,錨索を幸洋丸の船首門型ビット及び右舷船首クロスビットにかけ,ケーソンを左舷に見て後進を始め,徐々に後進回転数を上げて起重機船から距離約20mとなったとき,後進行きあしが止まり,短時間後進運転を続けたが,根掛かりを解消できなかったので,さらに錨索を10m繰り出させ,再度全速力で後進して同船から距離約50mとなったとき,再び後進行きあしが止まったが,全速力後進運転を続けているうち,錨索の緊張により右舷船首クロスビットを下方に強く押す分力による右傾斜モーメントが生じ,右傾斜が増大し,右舷側のブルワーク放水口から海水が甲板に浸入し始め,08時40分六連島灯台から057度1.67海里の地点において,右舷側に大きく傾斜するとともに船首部が沈む状態となり,機関を停止する暇もなく,幸洋丸は,復原力を喪失し,一瞬のうちに右舷側に転覆した。
 当時,天候は曇で風力3の西風が吹き,潮候は下げ潮の初期だった。
 転覆の結果,機関室に浸水して機関が濡損し,人工島工事海域の警戒船により起重機船まで曳かれ,同船に吊(つ)り上げられ,のち,機関が換装された。A受審人及びD船長は,海中転落したが警戒船によって救助された。また,燃料油200リットルが流出したものの除去された。

(海難の原因)
 本件転覆は,関門港六連島区の人工島工事海域において,起重機船の錨索の根掛かり解消措置が不適切で,幸洋丸の右傾斜が増大し,復原力が喪失したことによって発生したものである。
 根掛かり解消措置が適切でなかったのは,作業指揮者が,起重機船の錨索が根掛かりとなった際には報告するよう明確に指示しなかったことと,第一光洋号船団長が,根掛かりとなった際に作業指揮者に報告しなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,関門港六連島区の人工島工事海域において,起重機船の錨索が根掛かりしていることを認めた場合,適切な根掛かり解消措置がとれるよう,作業指揮者に報告すべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,幸洋丸で錨索を曳けば短時間に解消できるものと思い,作業指揮者に報告しなかった職務上の過失により,幸洋丸の船首門型ビット及び右舷船首クロスビットに錨索をかけ,全速力で後進したのち,行きあしが止まったが,全速力後進運転を続けているうち,錨索の緊張により右舷船首クロスビットを下方に強く押す分力による右傾斜モーメントが生じ,右傾斜が増大し,復原力を喪失して転覆を招き,機関を濡損させ,燃料油200リットルを流出させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が,起重機船の錨索が根掛かりとなった際には報告するよう明確に指示しなかったことは,本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては,本件後,作業全般の手順を見直して再発防止に努めていることに徴し,勧告しない。





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