(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第十八興徳丸 |
総トン数 |
1.3トン |
登録長 |
7.65メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
漁船法馬力数 |
30 |
3 事実の経過
第十八興徳丸(以下「興徳丸」という。)は,和船型FRP製漁船で,昭和62年5月四級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人ほか1人が乗り組み,たこつぼ漁の目的で,船首0.2メートル船尾0.5メートルの喫水をもって,平成17年1月28日08時15分新潟市の通船川右岸に定めた係留地を発し,新潟港外港の漁場に向かった。
ところで,A受審人が行うたこつぼ漁は,直径12ミリメートル(以下「ミリ」という。)長さ600メートルの幹縄に,直径8ミリ長さ3メートルの枝縄で50個の木製たこつぼを等間隔に取り付け,幹縄の両端に,それぞれ重さ15キログラムの錨を取り付けて海底に沈め,数日後に揚縄し,少し場所を変えて再び一連の縄を海底に沈める操業を繰り返すものであった。
A受審人は,発航に先立ち,海上保安部の電話サービスやテレビニュースで気象情報を入手し,新潟地域に前日夜間から発表されていた波浪注意報が早朝に解除され,天候が回復したことから,前示のとおり発航したものであった。
発航後,A受審人は,平均8.7ノットの対地速力で通船川を下り,信濃川に合流して新潟港西区の港域内を北上し,08時27分同川河口付近で東防波堤を替わったところ,波高約2メートルのうねりが海岸で白く砕けているのに気付き,前日発達した北方からの波浪が大きなうねりとなって残っているのを認めた際,揚縄中,幹縄が強く張って船体移動の自由が妨げられているときに大きなうねりを受けると,海水の打ち込みや転覆のおそれがある状況であったが,風が弱くなり,天候も回復したので大丈夫と思い,出漁を取り止めて引き返さなかった。
08時40分A受審人は,信濃川河口から約2海里北東方の,水深約25メートルとなる漁場に至り,北東方への弱い潮流がある状況下,乗組員とともに救命胴衣を着用し,船首を同潮流に立てて225度(真方位,以下同じ。)に向け,機関を停止して漂泊するとともに,揚網機用の携帯型発電機を運転して左舷船首の船縁に取り付けた揚網機のローラーで幹縄を巻き取り,乗組員に幹縄とたこつぼの整理を行わせながら,揚縄を開始した。
A受審人は,幹縄の巻き取りにつれて徐々に南西方へ移動し,10時50分わずか前47個目のたこつぼを取り込み,幹縄の海底に残る部分が少なくなって懸垂部がなくなるとともに,潮流と幹縄を巻き取る揚網機の力とによって同縄が強く張ったとき,右舷船尾方から来襲した大きなうねりを認めたがどうすることもできず,興徳丸は,10時50分新潟港西区西突堤灯台から030度1.8海里の地点において,同うねりを受けて一瞬のうちに左舷側へ大傾斜し,復原力を喪失して転覆した。
当時,天候は晴で風力1の南風が吹き,潮候は下げ潮の末期で,北東方への弱い潮流と,北方からの波高約2メートルのうねりがあった。
転覆の結果,船外機を濡損し,携帯型発電機及び同付属品等を流出したが,のち換装及び再装備された。また,A受審人及び乗組員は,転覆した興徳丸の船底に掴(つか)まっていたところ,付近を航行した港湾建設関係会社の作業船に救助された。
(海難の原因)
本件転覆は,新潟県新潟港外港において,たこつぼ漁のため漁場に向けて航行中,前日発達した波浪が大きなうねりとなって残っていた際,出漁を取り止めて引き返さなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,新潟県新潟港外港において,たこつぼ漁のため漁場に向けて航行中,前日発達した波浪が大きなうねりとなって残っているのを認めた場合,揚縄中,幹縄が強く張って船体移動の自由が妨げられているときに大きなうねりを受けると,海水の打ち込みや転覆のおそれがあったから,出漁を取り止めて引き返すべき注意義務があった。しかるに,同人は,風が弱くなり,天候も回復したので大丈夫と思い,出漁を取り止めて引き返さなかった職務上の過失により,揚縄中,幹縄が強く張ったとき右舷船尾方から大きなうねりを受けて左舷側に大傾斜し,復原力を喪失して転覆を招き,船外機を濡損し,携帯型発電機等を流出させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。