(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年4月17日08時43分
新潟県寺泊港西方沖合
(北緯37度37.0分 東経138度33.6分)
2 船舶の要目
船種船名 |
モーターボート第一分水 |
全長 |
7.14メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
84キロワット |
3 事実の経過
第一分水は,船体中央部の甲板上に長さ1.7メートル,幅1.5メートル,高さ1.1メートルのキャビンを設け,キャビン後壁外面の右舷側に舵輪と船外機の遠隔操縦装置を,同屋上に風防をそれぞれ取り付け,後部甲板下にいけすを配し,船尾端に船外機を装備したFRP製モーターボートで,A受審人(昭和63年8月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み,友人1人を乗せ,魚釣りの目的で,船首0.1メートル船尾0.4メートルの喫水をもって,平成17年4月17日05時00分寺泊港南方の海岸を発し,同海岸西方沖合の釣り場に向かった。
A受審人は,発航して間もなく,それまでの弱い東風が時計回りに風向を変え始め,事前に入手していた気象情報とは異なり,海面の白波が次第に増えてくるなかを西航し,06時00分寺泊港第一防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から264.5度(真方位,以下同じ。)18.5海里の地点に至り,釣り場に着いたとき,風力4の西風になって波浪が高まりだしてきたことを認めた。
そのため,A受審人は,携帯電話で天気予報を聞いたところ,新潟県沿岸部の波高が2メートルになる旨が報じられており,波浪が発達する予想であることを知ったが,危険な波になるまでにはまだ間があるものと思い,速やかに帰航することなく,魚群を探索したのち,06時25分パラシュート型のシーアンカーを投入して漂泊し,魚釣りを開始した。
07時20分A受審人は,船首で受ける西からの波浪によって船体動揺が大きくなり,不安を覚えてようやく帰航することとし,魚釣りを止めてシーアンカーを引き揚げ,07時30分防波堤灯台から264度18.4海里の地点を発進し,友人ともども救命胴衣を着用して,舵輪の後方に並んで立って手動操舵にあたり,直ちに針路を090度に定め,船首が波浪の上り斜面に衝突しないよう,機関回転数を全速力前進が毎分4,800のところ,同2,000に抑え,7.2ノットの対地速力で進行した。
やがて,A受審人は,西風が風力5に達して,波浪がますます高くなり,これを横から受けることのないように努めているうち,第一分水は,追い波に船尾を持ち上げられ,その下り斜面で舵効を失い,急激に左回頭を強いられて右舷側に大傾斜し,08時43分防波堤灯台から259度9.6海里の地点において,000度に向首し,原速力のまま,復原力を喪失して転覆した。
当時,天候は曇で風力5の西風が吹き,波高2メートルの西からの波浪があった。
転覆の結果,第一分水は,船底を上にして漂流し,帰航が遅いことを心配した知人から通報を受けた海上保安部が捜索して,11時40分船底に乗っていたA受審人及び友人をヘリコプターが救助したのち,12時40分沈没した。
(海難の原因)
本件転覆は,寺泊港西方沖合の日本海において,釣り場に到着して高まりだした波浪が発達することが予想された際,速やかに帰航せず,波浪が更に高まってから帰途に就き,追い波に船尾を持ち上げられ,その下り斜面で舵効を失い,急激に左回頭を強いられて右舷側に大傾斜し,復原力を喪失したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,寺泊港西方沖合の日本海において,釣り場に到着して波浪が高まり,天気予報を聞いて波浪が発達する予想であることを知った場合,速やかに帰航すべき注意義務があった。
しかし,同人は,危険な波になるまでにはまだ間があるものと思い,速やかに帰航しなかった職務上の過失により,魚釣りを開始し,波浪が更に高まってから帰途に就き,追い波に船尾を持ち上げられ,その下り斜面で舵効を失い,急激に左回頭を強いられて右舷側に大傾斜し,復原力を喪失して転覆を招き,のち沈没させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。