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平成18年那審第8号
件名

遊漁船ひろし丸転覆事件

事件区分
転覆事件
言渡年月日
平成18年7月28日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(半間俊士,西林 眞,平野研一)

理事官
上原 直

指定海難関係人
A 職名:ダイビングガイド

損害
修理不能,廃船
船長が死亡

原因
走錨を認めた際の措置不適切

主文

 本件転覆は,さんご礁の棚に錨泊して間もなく,走錨を認めた際の措置が不適切で,高起した磯波を受けたことによって発生したものである。
 なお,船長が死亡したことは,救命胴衣を着用しなかったことによるものである。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年10月8日15時33分
 沖縄県久米島東方沖合
 (北緯26度21.0分 東経126度51.4分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 遊漁船ひろし丸
総トン数 2.2トン
登録長 8.91メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 128キロワット
(2)設備及び性能等
 ひろし丸は,平成元年9月に進水し,船体中央部からやや後方までの間に操舵室を有するFRP製小型兼用船で,漁労以外のことをする間の定員が旅客6人船員1人と定められ,漁業に従事するほか,ダイビングガイドの要請を受け,ダイビングのツアー客を乗せてダイビングポイントへの往復に使用されていた。

3 ダイビングポイント
 沖縄県久米島の仲里漁港の東側には,陸岸から御神岬灯台付近まで続くさんご礁脈があり,その北側にダイビングポイントが点在し,これらの1つに,ウーマガイと称される同港の東方1.8海里ばかりとなるポイントがあった。
 ウーマガイ付近は,干出したさんご礁から北側に50ないし60メートルの幅で,水深8メートルばかりのさんご礁の棚があり,棚の北側は急深となっており,平素,ダイビングのツアー客を乗せた船はこの棚に投錨し,同客をエントリーさせて帰りを待つようにしていた。
 また,干出したさんご礁の北側外縁では磯波が発生する状況であった。

4 事実の経過
 ひろし丸は,船長Bが1人で乗り組み,A指定海難関係人及びダイビングのツアー客4人を乗せ,船首0.45メートル船尾1.10メートルの喫水をもって,平成17年10月8日15時00分仲里漁港を発し,前示さんご礁脈北側のダイビングポイントに向かった。
 B船長は,救命胴衣を着用しないで操船に当たり,15時20分ウーマガイの近くに至り,先に投錨していた同業船であるC丸の東方150メートルばかりで,さんご礁外縁まで約50メートルの,御神岬灯台から263度(真方位,以下同じ。)4海里付近の水深約7メートル,底質さんごの地点で,機関を停止回転としてクラッチを切り,直径7ミリメートル(以下「ミリ」という。)の合成繊維製錨索をつけたステンレス製の四爪錨を,船首部で待機していたA指定海難関係人に指示して投入し,錨索を約15メートル伸出して錨泊を開始した。
 A指定海難関係人は,折からの北風を受けながら投錨作業を終了してダイビングの準備にかかったところ,15時25分C丸との位置関係から南方に走錨していることを認め,そのことをB船長に伝えたところ,承知している旨の返事を得た。
 このとき,B船長は,このまま走錨を続けるとさんご礁外縁に接近し,高起した磯波を受けるおそれがある状況になったが,さんご礁外縁に接近する前に,自身1人で抜錨して沖に出ることができると思ったものか,速やかに,A指定海難関係人の手助けを得て,磯波から十分に離れている地点に錨を打ち直すなど,走錨を認めた際の措置をとらなかった。
 15時30分A指定海難関係人は,ダイビングのツアー客とともにエントリーしてウーマガイに向かった。
 こうして,ひろし丸は,南方への走錨を続けるなか,ダイバーがエントリーを終え,B船長が船首に行って錨を揚げ始め,15時32分半錨を揚げ終えて船尾に戻り,クラッチをつないで走り始めて右転する間もなく,同時33分わずか前高起した磯波を受けて一瞬のうちに右舷側に傾き,15時33分御神岬灯台から263度4.0海里の地点において,船首を東に向けて同舷側に転覆した。
 当時,天候は晴で風力3の北風が吹き,潮候はほぼ低潮時で,干出さんご礁の北側外縁では波高約2メートルの磯波が発生していた。
 転覆の結果,操舵室,機関室囲壁など船体上部構造物が大破し,のち廃船処理され,A指定海難関係人らダイバーはC丸に救助されたが,B船長(一級小型船舶操縦士免許受有)は行方不明となり,翌9日朝発見されて病院に搬送され,溺死と診断された。

(本件発生に至る事由)
1 ひろし丸
(1)B船長が救命胴衣を着用していなかったこと
(2)さんご礁の棚に錨泊したこと
(3)南方に走錨したこと
(4)南方への走錨を認めた際の措置が適切でなかったこと
(5)船長を残して全員がエントリーしたこと
(6)高起した磯波を受けたこと

2 その他
 風力3の北風が吹き,波高約2メートルの磯波が立っていたこと

(原因の考察)
 本件は,さんご礁の棚に錨泊して間もなく,磯波が高起している南方への走錨を認めた際,速やかに,エントリー前のA指定海難関係人の手助けを得て,磯波から十分に離れている地点に錨を打ち直すなどの適切な措置をとることにより,発生を回避できたと認められる。
 したがって,B船長が,速やかに,走錨を認めた際の適切な措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 風力3の北風が吹き,波高約2メートルの磯波が立っていたことは,本件発生に関与した事実であるが,原因とならない。
 次に,救命胴衣を着用していれば,転覆後波にさらわれても,漂いながら海岸に無事流れ着くか,洋上で救助されたと推認できるので,船長が死亡したことは,救命胴衣を着用しなかったことが原因となる。

(海難の原因)
 本件転覆は,沖縄県久米島東方沖合において,さんご礁の棚に錨泊して間もなく,走錨を認めた際の措置が不適切で,さんご礁の外縁に接近して高起した磯波を受けたことによって発生したものである。
 なお,船長が死亡したことは,救命胴衣を着用しなかったことによるものである。

(指定海難関係人の所為)
 A指定海難関係人の所為は,本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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