日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2006年度(平成18年度) >  転覆事件一覧 >  事件





平成18年横審第14号
件名

漁船種福丸転覆事件

事件区分
転覆事件
言渡年月日
平成18年7月28日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(金城隆支,大山繁樹,今泉豊光)

理事官
西田克史

受審人
A 職名:種福丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
補佐人
a

損害
主機関に濡損
甲板員が行方不明

原因
荒天避航の措置不十分

主文

 本件転覆は,荒天避航の措置が不十分で,大波を受けて大量の海水が船内に浸入し,船体が大傾斜して復原力を喪失したことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年3月21日03時30分
 和歌山県潮岬の南南東方30海里沖
 (北緯33度01.0分 東経136度05.0分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船種福丸
総トン数 9.68トン
全長 15.60メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 316キロワット
(2)設備及び性能等
 種福丸は,昭和54年11月に進水した,最大搭載人員2人の一本つり(ひき縄)漁業に従事するFRP製漁船であった。
 操舵室は,船体後部にあり,レーダー及びGPSプロッターが設置され,同室出入口は船尾側で,上半分がガラス窓の木製の戸になっていた。
 機関室は,船体ほぼ中央部にあり,同室囲壁左舷側に出入口があるほか,操舵室前方の甲板室床の蓋を上げて同室からも出入りできるようになっていた。
 船尾倉庫は,操舵室の下にあり,同倉庫内を機関室から船尾甲板に通じる直径10センチメートルのビニールパイプが貫通しており,同パイプ内には船尾魚倉を冷やすため,機関室の冷凍機からの冷媒が通る直径12ミリメートルの銅管2本が導かれていた。
 ビニールパイプの船尾甲板開口部は,操舵室後壁の甲板上高さ0.4メートル,左舷ブルワークから1.3メートルのところにあったが,同パイプ及び隙間にパテを詰めるなどの防水措置がされていなかった。そのため,同開口部から入った海水は,同パイプを通して機関室に直接浸入するようになっていた。
 シーアンカーは,パラシュート形で,船首甲板前部右舷側の箱に格納され,約10メートルのロープはタツに常に固縛されており,投下作業は容易であった。
 救命胴衣は,船首甲板前部中央の物入れに格納されていた。

3 事実の経過
 種福丸は,A受審人が,B甲板員と2人で乗り組み,操業の目的で,船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,平成17年3月19日12時00分和歌山県串本港を発し,19時00分同港南方約93海里沖の漁場に至り,漂泊して休息した。
 翌20日A受審人は,06時ごろから操業を開始し,かつお及びまぐろ約400キログラムを漁獲して操業を終え,18時30分漁場を発進して,20隻ばかりの僚船とともに帰途に就いた。
 翌21日00時30分A受審人は,北緯32度44.5分 東経136度05.0分の地点で,船橋当直に就き,針路を潮岬に向く338度(真方位,以下同じ。)に定め,機関を回転数毎分1,400,12.0ノット(対地速力,以下同じ。)の全速力前進にかけた。しかし,海流と折から強く吹き始めた西風により,右方へ22度流されながら5.5ノットの速力で、自動操舵により進行した。
 02時00分A受審人は,北緯32度52.8分 東経136度05.0分の地点に達したとき,風速毎秒18メートルを超える西風と波高約3.5メートルの高波を受けるようになり,船体が激しく横揺れを繰り返し,航走を続けることが困難な状況になったことを認めたが,入港時刻を水揚げ時刻に間に合わすことに気をとられ,備え付けのシーアンカーを使用して漂ちゅうする荒天避航の措置をとることなく,また,救命胴衣をてぢかに置くことも着用することもしないまま,同じ針路,速力で続航した。
 そのころ,A受審人は,僚船に無線連絡して援助を求めたところ,1隻が種福丸の左舷側50メートル付近で伴走を始めた。
 種福丸は,左舷側から打ち込んだ海水と右舷側ブルワーク上縁が海中に没してすくい上げた海水が甲板上に滞留するようになり,前示の開口部に防水措置がとられていなかったことから,その海水が同開口部から前示のビニールパイプを通って,機関室に徐々に浸入するようになった。
 03時30分少し前種福丸は,機関が停止し,船首が風下に落とされた直後,船尾から大波を受けて操舵室船尾側部の戸が破損して大量の海水が船内に浸入し,大傾斜して復原力を喪失し,03時30分北緯33度01.0分東経136度05.0分の地点において,船首を東方に向けて右舷側に転覆した。
 当時,天候は雨で風力7の西風が吹き,波高約3.5メートルの高波があった。
 転覆の結果,主機関などに濡れ損を生じたが,転覆したまま串本港に引き付けられ,のち修理された。また,脱出したA受審人は,伴走していた僚船に救助されたが,操舵室に残ったB甲板員は,行方不明となった。

(本件発生に至る事由)
1 救命胴衣をてぢかに置いていなかったこと
2 シーアンカーを使用しなかったこと
3 船尾甲板開口部の防水措置をとらなかったこと
4 機関が停止したこと

(原因の考察)
 本件は,時化がおさまるまで,シーアンカーを使用して漂ちゅうする,荒天避航の措置を十分にとっていたならば,発生しなかったものと認められる。
 したがって,A受審人が,入港時刻を水揚げ時刻に間に合わすことに気をとられ,シーアンカーを使用して漂ちゅうする,荒天避航の措置を十分にとらなかったことは本件発生の原因となる。
 船尾甲板開口部の防水措置をとらなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,転覆直前に機関が停止したことが,機関室に海水が浸入したことによるとは認定できないことから,本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。
 しかしながら,このことは,海難防止の観点から是正されるべき事項であり,船尾甲板開口部の防水措置をとるべきである。
 救命胴衣をてぢかに置いていなかったことは,海難防止の観点から是正されるべき事項であり,非常事態に備えて操舵室などのてぢかに置いておくことが望ましい。

(海難の原因)
 本件転覆は,夜間,和歌山県潮岬の南南東方沖において,漁場から同県串本港へ向け帰航中,左舷方から強い西風と高波を受け,海水が甲板上に打ち込み,船体が激しく横揺れを繰り返して航走を続けることが困難になった際,荒天避航の措置が不十分で,大波を受けて大量の海水が船内に浸入し,船体が大傾斜して復原力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,和歌山県潮岬の南南東方沖において,漁場から同県串本港へ向け帰航中,左舷方から強い西風と高波を受け,海水が甲板上に打ち込み,船体が激しく横揺れを繰り返して航走を続けることが困難になった場合,時化がおさまるまで,備え付けのシーアンカーを使用して漂ちゅうする,荒天避航の措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,入港時刻を水揚げ時刻に間に合わすことに気をとられ,荒天避航の措置を十分にとらなかった職務上の過失により,機関が停止したとき,大波を受け,大量の海水が船内に浸入して船体が大傾斜し,復原力を喪失して転覆を招き,主機関などの濡れ損と乗組員1名が行方不明となる事態を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION