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平成18年長審第26号
件名

漁船源福丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成18年9月20日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(尾崎安則)

理事官
道前洋志

受審人
A 職名:源福丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船底外板に破口,全損 船長が左下肢擦過創,左耳介切創,嚥下性肺炎

原因
船位確認不十分

主文

 本件乗揚は,船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年10月9日21時00分
 長崎県中通島奈摩湾口
 (北緯33度03.4分 東経129度04.3分)

2 船舶の要目
船種船名 漁船源福丸
総トン数 3.50トン
登録長 9.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 50

3 事実の経過
 源福丸は,昭和50年2月に進水し,同63年1月A受審人が購入した木造漁船で,船体中央やや後方に機関室を配置し,同室後部に風防ガラス付きの操舵スタンドを備え,航海計器として磁気コンパスのみを装備し,周年,奈摩湾付近の漁場で磯建網漁に従事しており,A受審人(昭和49年10月一級小型船舶操縦士免許取得,平成16年6月更新)ほか1人が乗り組み,昼間に仕掛けた網を揚げる目的で,平成17年10月9日19時00分長崎県奈摩漁港(青砂ケ浦地区)を発し,同湾北方の漁場に至って揚網を行ったのち,漁獲物と長さ約500メートルの漁網を前部甲板に積み込み,船首尾とも約0.8メートルの等喫水をもって,20時45分半矢堅目埼灯台から022度(真方位,以下同じ。)3.1海里の地点を発進し,帰途に就いた。
 ところで,奈摩漁港(青砂ケ浦地区)は,南北に伸びる中通島の西岸中央部で北西方に開口した奈摩湾の湾奥東部に位置し,湾口の西側には灯高40メートルの矢堅目埼灯台が設置されていたが,その東側はトミ埼鼻から西方に約300メートルのところまで浅所が拡延しているものの,浅所を示す標識灯が設置されておらず,また,付近に陸上灯火もなかった。(以下,トミ埼鼻から拡延する浅所を単に「浅所」という。)
 そこで,A受審人は,夜間,奈摩湾口の北北東方沖合から帰港する場合には,矢堅目埼灯台を左舷側に見ながら湾口に接近したのち,同灯台の南方0.7海里の山腹にある冷水教会の常夜灯を,1.8海里ばかり離れた新上五島町曽根郷の沖合から十分に見ることができたことから,同灯台と同常夜灯との重視線(以下「重視線」という。)を避険線として利用し,曽根郷の沖合からは重視線の沖側に位置するようにして浅所を避け,湾内に入航する針路法を採っていた。
 漁場発進後,A受審人は,碇瀬の近くでタチウオ釣り漁を行っていた漁船の集魚灯を左舷側に見ながら,操舵スタンドの船尾側に立って手動操舵により進行し,20時51分同瀬に並航したとき,矢堅目埼灯台から018度2.2海里の地点で,同灯台を左舷船首5度に見る203度に針路を定め,機関を半速力前進にかけ,北方からの風とうねりを受け,左に5度圧流され,10.6ノットの対地速力で,奈摩湾口に向かって南下した。
 20時58分A受審人は,矢堅目埼灯台から018度1.0海里の地点に至り,曽根郷の人家の明かりを左舷正横方に見ることができたとき,浅所に著しく接近する状況となっていたが,碇瀬付近で同灯台より沖側に向首したので浅所から離れているだろうと思い,重視線を活用するなどして,船位の確認を十分に行わなかったので,この状況に気付かず,重視線の沖側に向かう針路としないまま,同じ針路,速力で続航中,21時00分矢堅目埼灯台から018度0.7海里の地点において,源福丸は,原針路,原速力のまま,浅所の西端部に乗り揚げた。
 当時,天候は晴で風力5の北風が吹き,付近海域には高さ約1メートルのうねりがあり,潮候は上げ潮の中央期であった。
 乗揚の結果,船底外板に破口を生じて浸水し,機関が自停して離礁できなくなり,数日後の時化により波で叩きつけられて全損となり,A受審人が自力で陸岸に上がる際,左下肢擦過創及び左耳介切創を負い,嚥下性肺炎で1週間の入院を要した。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,長崎県奈摩湾の北北東方漁場から同湾口に向かって帰航中,船位の確認が不十分で,同湾口東側の浅所に著しく接近したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,長崎県奈摩湾の北北東方漁場から同湾口に向かって帰航中,同県新上五島町曽根郷の沖合に至った場合,同湾口東側の浅所に標識灯等がなく,曽根郷の沖合からは矢堅目埼灯台と冷水教会の常夜灯とを結ぶ重視線の沖側に位置するようにして浅所を避けていたのであるから,重視線を活用するなどして,船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,碇瀬付近で矢堅目埼灯台より沖側に向首したので浅所から離れているだろうと思い,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,折からの風とうねりで圧流され,浅所に著しく接近していることに気付かず,重視線の沖側に向かう針路としないまま進行して乗揚を招き,源福丸を数日後の時化により全損とさせ,自らに左下肢擦過創,嚥下性肺炎等を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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