(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年11月19日12時47分
大分県臼杵港
(北緯33度07.75分 東経131度48.87分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
旅客船あかつき2 |
総トン数 |
2,052トン |
全長 |
99.01メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
6,619キロワット |
(2)設備及び性能等
あかつき2(以下「あかつき」という。)は,平成5年3月に進水した,最大搭載人員540人の旅客船兼自動車渡船で,2機2軸を有し,推力7トンのバウスラスターを装備しており,上層から順に船橋甲板,遊歩甲板2層及び車両甲板を設け,船首端から船橋前面までが20メートル(m)であった。
船橋には,中央部に操舵スタンド,同スタンド右舷側と左右両舷壁際に主機遠隔操縦装置,同スタンド左舷側にバウスラスター操縦装置及びレーダー2台をそれぞれ備えていた。
また,バウスラスター操縦装置のダイヤルは,翼角を制御するもので,目盛り(以下「ノッチ」という。)が中立位置を0として左右方向にそれぞれ10まで付されていた。
3 臼杵港
臼杵港は,大分県臼杵湾に注ぐ臼杵川河口南側に位置し,東防波堤が陸岸から北方に約500m延びていて,同堤北端に臼杵港防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)が設置され,同灯台から西南西方320mにあたるフェリーふ頭東端から西方に同ふ頭が115m,その西端から北方に岸壁が100m,同岸壁北端から東方に下り松導流提(以下「導流堤」という。)が220m延び,導流提先端と東防波堤先端との間が北方に開く幅140mの港口で,港口からフェリーふ頭までの海域はL字形の水域となっていた。
また,港口から033度(真方位,以下同じ。)を法線とする5m等深線で挟まれた水路が300mにわたって延び,防波堤灯台付近の水路最狭部横幅は90mで,水路西側には臼杵川河口の浅所が拡延していた。
4 事実の経過
あかつきは,愛媛県八幡浜港,大分県別府港及び臼杵港間の定期航路に就航しており,A受審人ほか11人が乗り組み,平成17年11月19日11時56分臼杵港に入港し,船尾端からフェリーふ頭西端の岸壁コーナーまで3mの位置に出船右舷付けで係留後,旅客85人を乗せ,車両25台を積載し,船首3.7m船尾4.2mの喫水をもって,同日12時41分同港を発し,八幡浜港に向かった。
ところで,A受審人は,臼杵港での入出港操船の経験が豊富で前示の水路状況をよく知っており,平素,出港操船にあたっては,フェリーふ頭を離岸したあと,すぐに左回頭を行い,水路西側の浅所に近づかないように針路を035ないし040度として水路を通過していた。また,同人は,あかつきの両舷機を同じ回転数で前進と後進にそれぞれかけると前進方向の推力が勝るため,その場回頭するには極微速力前進と微速力後進を組み合わせ前後進推力のバランスをとらなければならないことを知っていた。
出港時,A受審人は,船首に一等航海士,船尾に二等航海士をそれぞれ配置し,甲板員1人を舵及びバウスラスターの操作に就け,自ら船橋右舷壁際の主機遠隔操縦装置のところで機関操縦を兼ねて操船指揮にあたり,係留索を解纜(かいらん)後,右舵一杯及びバウスラスター左8ノッチとし,左舷機のみを極微速力前進にかけて,船体を岸壁と平行に離しながら徐々に前進した。
A受審人は,船体が岸壁と平行に15m離れて船橋がフェリーふ頭東端に並んだとき,左舷機を停止し,いつものように前進惰力で港口に向けて左回頭するつもりで左舵一杯をとったところ,船尾が折からの北西風に圧流され同ふ頭に接近し始めたのを見て,12時42分舵中央及びバウスラスター中立とし,前進惰力2ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で東進して同ふ頭東端を替わし,風下に圧流されながら進行した。
12時43分A受審人は,防波堤灯台から236度210mの地点に達したとき,船首が東防波堤に近づいていたことから,少しでも早く港口に向けようと思い,適切に前進行きあしを止めその場回頭を行う操船をすることなく,左舵一杯及びバウスラスター左10ノッチとし,左舷機を極微速力後進,右舷機を極微速力前進にかけ,徐々に増速しながら左回頭を始めた。
A受審人は,いつもよりも左に大回りして,12時45分半わずか過ぎ防波堤灯台から226度85mの地点に達し,東防波堤の沖合50mに近づき速力が5.5ノットまで増速したとき,バウスラスターを中立とし両舷機を極微速力前進にかけ,船首を港口中央に向けるよう甲板員に指示し,357度の針路で港口を通過したのち,水路西側の浅所に向けて進行することとなり,12時46分少し過ぎ防波堤灯台から309度70mの地点に達したとき,右舵一杯を令したものの,舵効が現われないまま,12時47分防波堤灯台から351度220mの地点において,あかつきは,6.5ノットの速力で,船首が010度を向いたとき,浅所に乗り揚げた。
当時,天候は晴で風力4の北西風が吹き,潮候は下げ潮の中央期にあたり,視界は良好であった。
乗揚の結果,あかつきは,船首船底部外板に長さ5mの擦過傷を生じたものの,乗客及び乗組員に負傷等がなく,自力で離礁し,のち八幡浜港に至った。
(本件発生に至る事由)
1 少しでも早く港口に向けようと思い,適切に前進行きあしを止めその場回頭を行う操船をしなかったこと
2 大回りして水路西側の浅所に向け進行したこと
(原因の考察)
本件は,船長が,風下に圧流されながら港口に向かう際,適切に前進行きあしを止めその場回頭を行う操船をしていたなら,水路西側の浅所に向け進行することを回避でき,発生しなかったものと認められる。
したがって,A受審人が,少しでも早く港口に向けようと思い,適切に前進行きあしを止めその場回頭を行う操船をせず,大回りして水路西側の浅所に向け進行したことは,本件発生の原因となる。
(海難の原因)
本件乗揚は,大分県臼杵港において,風下に圧流されながら港口に向かう際,回頭操船が不適切で,大回りして水路西側の浅所に向け進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,大分県臼杵港において,風下に圧流されながら港口に向かう場合,大回りして水路西側の浅所に向け進行することがないよう,適切に前進行きあしを止めその場回頭を行う操船をすべき注意義務があった。しかしながら,同人は,船首が東防波堤に近づいていたことから,少しでも早く港口に向けようと思い,適切に前進行きあしを止めその場回頭を行う操船をしなかった職務上の過失により,大回りして水路西側の浅所に向け進行して乗揚を招き,船首船底部外板に擦過傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
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