(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年11月26日23時00分
岡山県頭島東岸コメイシ
(北緯34度41.95分 東経134度17.61分)
2 船舶の要目
船種船名 |
モーターボート第2朝日丸 |
全長 |
7.78メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
66キロワット |
3 事実の経過
第2朝日丸(以下「朝日丸」という。)は,平成10年9月に進水した航行区域を限定沿海区域とする,レーダーを装備していないFRP製プレジャーモーターボートで,昭和63年5月に四級小型船舶操縦士免許を取得したA受審人が1人で乗り組み,知人2人を同乗させ,船首0.3メートル船尾0.7メートルの喫水をもって,魚釣りの目的で,平成17年11月26日14時00分岡山県鶴海港の備前マリーナを発し,香川県小豆島周辺の釣り場に向かった。
A受審人は,小豆島沖合に至って釣りを始め,その後,同島東岸沖合などを移動しながら釣りを行ったのち,20時30分ごろ頭島港東防波堤灯台(以下「東防波堤灯台」という。)から073.5度(真方位,以下同じ。)1,010メートルの岡山県頭島北東岸沖合の釣り場に移動し,投錨して再び釣りを始めた。
ところで,A受審人は,頭島東岸沖合にはコメイシと称する浅所(以下「コメイシ」という。)が存在することを知っており,同浅所付近の航行経験が昼間に50回以上,夜間に20回以上あった。また,同人は,コメイシの南方で頭島寄りにはかき殻の仮置き場が設けられていることも,コメイシの周辺海域にはかきの養殖施設が設置され,その施設の設置状況などについても十分把握していた。
そのため,A受審人は,平素,頭島北東岸の釣り場から帰港するにあたっては,安全航行をするための障害物となるものが少ない,頭島北岸沖合を航行するようにしており,特に夜間,頭島東岸から同島南岸沖合を経て西岸に向かうには危険を伴う海域であることも知っていた。
A受審人は,釣果が思わしくないので帰港することにしたとき,たまたま頭島西岸の頭島漁港で釣りをしていた職場の同僚から便乗させて欲しい旨の依頼があり,同港に向かうことにしたが,かき筏,島影及び陸の灯火などを頼りにすれば,コメイシの東側を航行出来るものと思い,頭島北岸沖合を航行するなどの安全な進路を選定することなく,22時59分半揚錨し,周囲の状況から判断して目見当で針路を154度に定め,機関を毎分回転数3,600にかけて19.2ノットの対地速力とし,手動操舵により進行した。
こうして,A受審人は,定めた針路がコメイシに向首していることに気付かないまま,原針路,原速力で続航中,23時00分東防波堤灯台から089度1,100メートルのコメイシに乗り揚げた。
当時,天候は晴で風はほとんどなく,視界は良好で,潮候は下げ潮の中央期であった。
乗揚の結果,船尾部船底外板に擦過傷を生じた。
(海難の原因)
本件乗揚は,夜間,岡山県頭島北東岸沖合の釣り場から同島西岸の頭島漁港に向けて航行する際,進路の選定が不適切で,コメイシに向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,岡山県頭島北東岸沖合の釣り場から同島西岸の頭島漁港に向けて航行する場合,同釣り場の東方から南方海域にかけて養殖施設,かき殻捨て場及びコメイシなどが存在し,レーダー不装備船が夜間航行するには危険を伴う海域であったから,頭島北岸沖合を航行するなどの安全な進路を選定すべき注意義務があった。しかるに,同人は,かき筏,島影及び陸の灯火などを頼りにすれば,コメイシの東側を航行出来るものと思い,安全な進路を選定しなかった職務上の過失により,コメイシに向首進行して乗揚を招き,船尾部船底外板に擦過傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。