(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年8月18日12時50分
徳島県撫養港
(北緯34度11.5分 東経134度36.8分)
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船いよえーす |
総トン数 |
199トン |
全長 |
58.24メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
536キロワット |
3 事実の経過
いよえーすは,平成2年2月に進水した専ら瀬戸内海各港間の輸送に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で,A受審人ほか3人が乗り組み,NC炭670トンを積載し,船首2.5メートル船尾3.5メートルの喫水をもって,平成17年8月17日15時05分関門港若松区を発し,鳴門海峡経由で徳島県撫養港に向かった。
ところで,いよえーすは,撫養港の港泊図を備え付けず,鳴門海峡の海図第112号を進水時に購入したまま,最新の状態に維持していなかった。
また,撫養港は,小鳴門海峡の南口にあたる撫養ノ瀬戸にあり,可航幅が狭く,水路も屈曲し,潮の流れも速く,わかめ養殖場や浅所が多数存在する航海の難所であった。
出航に先立ち,A受審人は,運航管理会社から撫養港へ入港するよう要請を受けたとき,初めての港で同港の水路事情について知らなかったが,撫養港への入港経験のある機関長が乗船しているので,日中視界の良いときであれば,機関長を頼りに何とか航行できるだろうと思い,わかめ養殖場の位置を確認できるよう,撫養港の港泊図である海図W1216を入手するなどの水路調査を十分に行わなかった。
A受審人は,船橋当直を一等航海士と2人で単独6時間の交替制とし,翌18日12時03分撫養港に至り,船首配置に一等航海士及び甲板長を,船橋配置には機関長を見張りに就けて操舵操船にあたり,機関長の通航経験を頼りに撫養ノ瀬戸を微速力でこれに沿って西行した。
12時43分半A受審人は撫養港1号突堤灯台(以下「1号突堤灯台」という。)から321度(真方位,以下同じ。)1,100メートルの地点に達したとき,針路を308.5度に定め,機関を極微速力前進にかけて2.0ノットの対地速力で進行した。
12時48分A受審人は,1号突堤灯台から319度1,360メートルの地点に達したとき,このままの針路で続航するとわかめ養殖場の浅所に乗り揚げる状況となったが,これに気付かないまま進行中,12時50分少し前,前方に約5メートル間隔で立てられている竹竿を認めたものの,12時50分1号突堤灯台から318度1,480メートルの地点において,船底に衝撃を感じ,いよえーすは,原針路,原速力でわかめ養殖場の浅所に乗り揚げた。
当時,天候は晴で風力4の南東風が吹き,潮候は上げ潮の初期であった。
乗揚の結果,船首部船底外板から中央部船底外板にかけて擦過傷を,プロペラに打痕を生じたが,来援したボートに引き下ろされ,のち修理された。
(海難の原因)
本件乗揚は,徳島県撫養港内の撫養ノ瀬戸を航行するにあたり,水路調査が不十分で,同瀬戸に設置されたわかめ養殖場の浅所に向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,揚荷の目的で徳島県撫養港内の撫養ノ瀬戸を航行する場合,初めて入る港でその水路事情について知らなかったのであるから,港内の同瀬戸に設置されたわかめ養殖場の浅所に乗り揚げないよう,わかめ養殖場の位置を確認できる撫養港の港泊図を入手するなどの水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,撫養ノ瀬戸を通航した経験のある機関長を頼りに航行すれば大丈夫と思い,水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により,撫養ノ瀬戸のわかめ養殖場の浅所に向かって進行してこれに乗り揚げ,船首部船底外板から中央部船底外板にかけて擦過傷を,プロペラに打痕を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。