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 海難審判庁採決録 >  2006年度(平成18年度) >  乗揚事件一覧 >  事件





平成18年長審第4号
件名

漁船漁生丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成18年8月8日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(尾崎安則)

理事官
道前洋志

受審人
A 職名:漁生丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船首材下部に亀裂を伴う凹損,推進器翼,同軸,舵柱等に曲損

原因
船位確認不十分

裁決主文

 本件乗揚は,船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年1月7日20時10分
 八代海西部目吹瀬戸
 (北緯32度14.5分 東経130度12.8分)

2 船舶の要目
船種船名 漁船漁生丸
総トン数 2.1トン
登録長 7.48メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 45

3 事実の経過
 漁生丸は,平成5年11月に進水し,船体後部に操舵室を配置し,航海計器として磁気コンパスを装備していたものの,レーダー及びGPSプロッタを装備していないFRP製漁船で,一級,特殊及び特定の各資格を担保する小型船舶操縦免許証を受有するA受審人が1人で乗り組み,知人1人を同乗させ,養殖漁業の勉強会に出席する目的で,船首0.15メートル船尾1.00メートルの喫水をもって,同17年1月7日20時05分鹿児島県幣串漁港を発し,同県伊唐北漁港に向かった。
 発航に先立ち,A受審人は,夜間に伊唐北漁港に向かうのが初めてだったものの,当日が暗夜で島影等の周囲の地物を操舵目標とすることが困難であること,伊唐島北東岸には小伊唐島北西部の浅所を示す小型標識灯(以下「小型標識灯」という。)以外の灯火がないこと及び下げ潮の中央期に当たり,折から目吹瀬戸に約2ノットの北西流があることを承知していたので,幣串漁港沖合の前島北端を航過したのちは,平素,伊唐島西方の長島薄井漁港に通っていたときと同様に,瓢箪島灯標を船首目標として進行し,前島と獅子島南西端の鼻との中間に達したとき,伊唐北漁港の方向に針路を向け,その後,同灯標を右舷側に見ながら目吹瀬戸を南下し,次いで小型標識灯を左舷側に見て同漁港に向かう針路法をとることとした。
 20時07分A受審人は,瓢箪島灯標から030度(真方位,以下同じ。)0.8海里の地点で,前島北端に並航したとき,同灯標を右舷船首2度に見る208度に針路を定め,機関を全速力前進にかけ,17.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,操舵室右舷側のいすに腰掛けて手動操舵によって進行した。
 A受審人は,予定の転針地点を通過したことに気付かないまま大島に近づき,20時08分半少し過ぎ瓢箪島灯標から034度580メートルの地点に達し,大島東岸まで100メートルばかりに接近したとき,右舷前方にその島影を認めた同乗者から左転して同島から離れることを促され,急ぎ針路を左に転じたところ,196度の針路となり,その辺りから影響を受け始めた潮流で圧流されると瓢箪島に著しく接近する状況となったが,同灯標を右舷船首17度に見る方向まで回頭し,同島を十分に離す針路に転じており,圧流されても同島に乗り揚げることはないだろうと思い,同灯標との接近状況を見るなどして船位の確認を十分に行うことなく,北西流の影響を受け,右に7度圧流されていることに気付かないまま,16.3ノットの速力で目吹瀬戸を南下した。
 A受審人は,潮流により圧流され,次第に瓢箪島に接近する状況となったが,左舷前方に小型標識灯を見つけることに気を取られ,依然として船位を十分に確認せず,この状況に気付かないまま同じ針路,速力で続航中,20時10分わずか前同乗者が目前に瓢箪島の影を認めて声を上げたものの何をする間もなく,20時10分瓢箪島灯標から155度130メートルの地点において,漁生丸は,原針路,原速力のまま,瓢箪島東岸の浅所に乗り揚げた。
 当時,天候は曇で風力3の北寄りの風が吹き,潮候は下げ潮の中央期で,付近には約2ノットの北西流があった。
 乗揚の結果,船首材下部に亀裂を伴う凹損を,推進器翼,同軸,舵柱等に曲損をそれぞれ生じたが,翌日の高潮時に自然離礁し,のち修理された。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,鹿児島県目吹瀬戸を南下中,船位確認が不十分で,潮流により圧流されて瓢箪島に著しく接近したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,鹿児島県目吹瀬戸を南下する場合,同瀬戸に北西流があることを承知していたのであるから,圧流されて瓢箪島に著しく接近しないよう,右舷側にある瓢箪島灯標との接近状況を見るなどして,船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,瓢箪島を十分に離す針路に転じており,圧流されても同島に乗り揚げることはないだろうと思い,左舷前方に小型標識灯を見つけることに気を取られ,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,圧流されて同島に著しく接近していることに気付かないまま進行して乗揚を招き,漁生丸の船首材下部に亀裂を伴う凹損を,推進器翼,同軸,舵柱等に曲損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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