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平成17年那審第28号
件名

押船第五十室生丸被押台船第2東芳乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成18年8月28日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(西林 眞)

理事官
上原 直

受審人
A 職名:第五十室生丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第五十室生丸・・・舵シューピースに曲損
第2東芳・・・スラスター区画を含む右舷船底外板に亀裂及び凹損

原因
燃料油サービスタンクの油量点検不十分

裁決主文

 本件乗揚は,発航準備にあたり,燃料油サービスタンクの油量点検が不十分で,航行中,燃料切れとなった主機が自停し,航行不能のまま風潮流に圧流されたことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年1月28日19時15分
 沖縄県久米島東方さんご礁
 (北緯26度21.8分 東経126度54.2分)

2 船舶の要目
船種船名 押船第五十室生丸 台船第2東芳
総トン数 19トン  
全長 17.25メートル 50.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 735キロワット  

3 事実の経過
 第五十室生丸(以下「室生丸」という。)は,平成14年10月に建造された鋼製押船兼引船で,専ら第2東芳(以下「東芳」という。)の船尾凹部に船首部をピン連結式で嵌合して全長約62メートル(m)の押船列(以下「室生丸押船列」という。)を構成したうえ,B社が用船し,沖縄県内において土砂の運搬に従事していた。
 室生丸の燃料油系統は,機関室の船尾側両舷に配置した容量約3キロリットルの各燃料油タンクのA重油を,電動の燃料油移送ポンプ(以下「電動移送ポンプ」という。)又はハンドポンプにより,同室囲壁上部左舷側に設置した容量約330リットルの燃料油サービスタンク(以下「サービスタンク」という。)に移送したのち,同タンク底部の取出し口から主機及び始動空気圧縮機用原動機,並びに同囲壁上部右舷側に設置したパッケージ型発電機にそれぞれ供給されるようになっており,通常航行中の燃料油消費量は1時間当たり約80リットルであった。
 また,サービスタンクは,高さが0.7mの立方体で,船首側壁面にタンク底面からの高さがそれぞれ0.24mと0.48mの位置に低位及び高位レベルスイッチを組み込み,同スイッチの横に油面計を備えており,機関室に設置した,直流24ボルト蓄電池を電源とする自動給油制御器の自動・手動切替スイッチを自動としておくと,油量が低位レベルスイッチの位置まで低下したとき,同電源の電動移送ポンプが自動始動して送油を開始し,高位レベルスイッチの位置に達すると同ポンプが自動停止するようになっていたが,油面低下警報装置を備えておらず,発航前には,自動移送の作動を確認するためにも,油量点検を行う必要があった。
 一方,東芳は,船首部中央の貨物倉先端にランプウェイ,船首部水線下にスラスター,船尾中央部に長さ約10mの室生丸との嵌合用凹部,同凹部の船首側に居住区をそれぞれ装備した,積載容量1,000立方メートルの非自航式の鋼製バージで,居住区の上部に操船室を設け,室生丸の操舵室から操舵及び主機遠隔操縦装置を延長し,操船が行えるようになっており,居住区の両舷側に0.8m四方で長さ23mのスパット各1本を備えていたが,右舷側は先端が折損して使用不能となっていた。
 A受審人は,昭和50年3月に取得した一級小型船舶操縦士免許のほか,それ以前に取得した五級海技士(航海)免許を併有し,漁船及び旅客船の船長等を歴任したのち,平成11年ごろから押船や作業船に乗り組むようになり,同16年12月から室生丸に船長として乗船していた。
 室生丸は,A受審人ほか臨時雇いの機関補助員1人が乗り組み,船首2.0m船尾2.6mの喫水をもって,作業員2人を乗せ,空倉で船首尾とも1.0mの等喫水とした東芳の船尾凹部に船首体を嵌合して室生丸押船列とし,沖縄県本部港から輸送した捨て石の陸揚げを終えたのち,平成17年1月28日17時30分同県久米島の仲里漁港真泊地区を発し,同県糸満港に向かった。
 これより先,A受審人は,捨て石の陸揚げを終えて発航準備にかかったが,これまで燃料油系統に問題が生じたことがないので大丈夫と思い,サービスタンクの油量点検を行わなかったので,自動給油制御器内で接点不良を生じたものか,真泊地区入港前から電動移送ポンプによる自動移送が作動せずに,同タンクの油量が低位レベルスイッチの位置より低い,底面から約0.17mのところまで減少していることに気付かないまま,機関補助員とともに主機を始動し,東芳の操船室に向かった。
 こうして,室生丸押船列は,真泊地区を離岸したのち,17時45分防波堤東端を航過した,御神岬灯台から265度(真方位,以下同じ。)5.6海里の地点において針路を068度に定め,主機を全速力前進にかけ5.2ノットの対地速力で,サービスタンクの油量が減少するまま,久米島東方に延びるさんご礁に沿って進行していたところ,18時40分同灯台から318度1.6海里の地点で燃料切れとなった主機が自停し,航行不能となったまま折からの風潮流によって流され始めた。そして,A受審人が機関補助員に主機及び燃料油系統の点検を指示したが,直ちに主機が再始動できず,東芳の右舷船尾から投錨し,さらにさんご礁の棚部に至ったところで左舷スパットを降下したものの及ばず,19時15分御神岬灯台から277度,1.3海里の地点において,船首を南東に向けた状態でさんご礁に乗り揚げた。
 当時,天候は曇で風力2の北北東風が吹き,潮候は上げ潮の中央期であった。
 室生丸は,機関補助員が自動給油制御器の切替スイッチの操作を繰り返すうち電動移送ポンプが始動でき,乗揚げ後間もなく東芳との連結を切り離して自力離礁し,東芳は来援した引船により引き下ろされた。
 乗揚の結果,室生丸は舵シューピースが曲損し,東芳はスラスター区画を含む右舷船底外板に亀裂及び凹損をそれぞれ生じたが,のちいずれも修理された。

(海難の原因)
 本件乗揚は,発航準備にあたり,サービスタンクの油量点検が不十分で,同タンクへの自動移送が不能となったまま沖縄県久米島東方のさんご礁に沿って航行中,燃料切れとなった主機が自停し,航行不能のまま風潮流により同さんご礁に圧流されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,発航準備にあたる場合,サービスタンクには油面低下警報装置が備えられておらず,航行中に燃料切れを起こすことのないよう,自動移送の作動状況を確認するためにも,同タンクの油量点検を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,これまで燃料油系統に問題が生じたことがないので大丈夫と思い,サービスタンクの油量点検を十分に行わなかった職務上の過失により,自動移送が不能となって同タンク油量が低位レベルスイッチ以下に減少していることに気付かず,沖縄県久米島東方のさんご礁に沿って航行中,燃料切れとなった主機が自停し,航行不能のまま風潮流により同さんご礁に圧流されて乗揚を招き,室生丸の舵シューピースに曲損を,東芳のスラスター区画を含む右舷船底外板に亀裂及び凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。





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