(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年5月24日14時15分
沖縄県黒島北方沖合
(北緯24度16.7分 東経124度01.0分)
2 船舶の要目
船種船名 |
旅客船第五十八あんえい号 |
総トン数 |
19トン |
全長 |
19.79メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,182キロワット |
3 事実の経過
第五十八あんえい号(以下「あんえい号」という。)は,平成3年3月に進水し,最大搭載人員69人の軽合金製旅客船で,A受審人ほか1人が乗り組み,旅客48人を乗せ,船首0.8メートル船尾1.6メートルの喫水をもって,平成17年5月24日14時00分臨時便として沖縄県西表島仲間港を発し,同県竹富島竹富東港に向かった。
あんえい号は,主機3機及び2舵を有し,左右各舷の主機にハイスキュードプロペラを,中央の主機にウォータージェット推進装置をそれぞれ装備しており,船体中央部に設けられた操舵室中央部の舵輪右舷側前方に,就航海域の航路標識及び浅礁の位置並びに基準航路等を入力したGPSプロッターが設置されていた。
ところで,仲間港から竹富東港に至るには,大原航路と称する全長約11海里の狭い水路(以下「大原航路」という。)を航行し,竹富南航路を経て竹富東港に向かうもので,大原航路の周囲には多数のさんご礁が散在しており,基準航路から離れるとさんご礁に乗り揚げるおそれがあった。
A受審人は,平成10年1月に甲板員としてB社に採用され,同年6月に一級小型船舶操縦士の免許(平成15年6月一級及び特殊小型船舶操縦士免許に更新)を取得し,同12年4月から同社の旅客船の船長を務め,大原航路を含む就航海域の浅礁等の状況について十分承知していた。
A受審人は,出航後,GPSプロッターを目的地付近までの基準航路が表示できる範囲とし,大原航路を示す立標に沿って航行し,14時08分少し前大原航路第15号立標(以下,立標については「大原航路」を省略する。)から155度(真方位,以下同じ。)20メートルの地点で,針路を第11号立標から南側へ船丈分の約20メートル離した地点に向く066.5度に定め,機関を全速力前進にかけ,29.5ノットの対地速力で,手動操舵により続航した。
14時09分A受審人は,第11号立標から252度800メートルの地点に達したとき,出港時からの降雨が急に激しくなり,船首目標としていた第11号立標が見えなくなったことから,機関を停止回転としてクラッチを中立としたのち,折からの風潮流の影響を受けて右方に圧流され,067度の進路となって惰力で進行しながら同立標の発見に努めたが,基準航路から離れることのないよう,GPSプロッターを拡大表示して船位の確認を十分に行わず,基準航路から離れていることに気付かなかった。
こうして,あんえい号は,機関を停止回転としたまま進行して前進行き足がなくなったところ,14時14分A受審人が右舷側至近に浅礁を認め,一旦クラッチを前進にとって同礁から離れたものの,同時15分少し前再度右舷船首至近の他の浅礁に接近し,クラッチを前進にとって右舵をとったが及ばず,14時15分第11号立標から150度30メートルの地点において,同礁に乗り揚げ,これを擦過した。
当時,天候は雨で風力3の南南西風が吹き,潮候は上げ潮の初期で,視程は約30メートルであった。
乗揚の結果,両舷プロペラ翼先端部及び右舷プロペラ軸に曲損並びに右舷側船底外板に擦過傷を生じたが,そのまま航行を続け,竹富東港に到着して旅客を降ろし,のち修理された。
(海難の原因)
本件乗揚は,沖縄県黒島北方沖合のさんご礁が散在する大原航路において,激しい降雨によって目視による船首目標が見えなくなった際,船位の確認が不十分で,浅礁に向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,沖縄県黒島北方沖合のさんご礁が散在する大原航路において,激しい降雨によって目視による船首目標が見えなくなった場合,基準航路から離れてさんご礁に乗り揚げるおそれがあったから,同航路から離れることのないよう,GPSプロッターを拡大表示して船位を十分に確認すべき注意義務があった。ところが,同人は,船首目標の立標の発見に気を奪われ,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,風潮流による圧流によって基準航路から離れていることに気付かないまま,浅礁に向かって進行したことによって乗揚を招き,両舷プロペラ翼先端部及び右舷プロペラ軸に曲損並びに右舷側船底外板に擦過傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。