(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年9月21日03時12分
岡山県下津井瀬戸
(北緯34度25.54分 東経133度48.85分)
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第十八盛栄丸 |
総トン数 |
499トン |
全長 |
67.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,323キロワット |
3 事実の経過
第十八盛栄丸(以下「盛栄丸」という。)は,昭和63年10月に進水した,航行区域を限定沿海区域とする全通二層甲板船尾船橋型鋼製砂利採取運搬船で,A受審人及びB指定海難関係人ほか3人が乗り組み,砂1,750トンを積載し,船首3.20メートル船尾5.40メートルの喫水をもって,平成17年9月21日01時00分広島県福山港を発し,神戸港に向かった。
ところで,A受審人は,船橋当直(以下「当直」という。)を乗組員全員で1人2時間の単独当直とし,本件時は,家島の坊勢出港時から一等航海士,次席一等航海士,機関員,機関長及び船長の順に当直に就くことにしていたところ,福山入港前に機関員が約1時間入直していたので,福山出港後,同機関員が1時間入直し,そのあと機関長が当直に就くことになっていた。
A受審人は,福山港での出港操船を終えたのち,瀬戸内海の下津井瀬戸を経由して神戸港に向かう予定であったことから,その可航幅が約450メートルと狭い下津井瀬戸の操船指揮を自らがとれるよう,同瀬戸の手前に達したとき,その時点で当直中となるB指定海難関係人にその旨を報告するよう,機関員に申し送り事項として指示することなく,乗組員の全員が経験豊富なので任せておいても大丈夫と思い,機関員に当直を任せて降橋した。
02時38分B指定海難関係人は,トクダキノ石灯浮標の北方200メートルばかりの,六口島灯標から281度(真方位,以下同じ。)3.0海里の地点で,機関員から当直を引き継ぎ,針路を098度に定め,機関を全速力前進より少し落とした回転数毎分230にかけ,10.0ノットの対地速力とし,自動操舵により進行した。
03時05分少し前,B指定海難関係人は,久須見鼻灯標から272.5度1.5海里の下津井瀬戸西口付近に達したが,機関員から申し継ぎがなかったこともあって,A受審人にこのことを報告しないまま続航した。
03時09分B指定海難関係人は,下津井瀬戸大橋橋梁灯の右舷端灯と中央灯の間を航過したとき,左舷前方1,000メートルばかりのところに,自船が追い抜く態勢で次第に接近する引船列を認めた際,速やかにその旨をA受審人に報告せず,同列の右舷側を追い越すつもりで少しずつ右舵をとりながら進行した。
こうして,盛栄丸は,B指定海難関係人が左舷方の引船列に気をとられ,1.5海里レンジとしたレーダーを使用するなどして船位の確認が十分に行われていなかったので,松島に著しく接近していることに気付かないまま続航中,ふと右舷船首方に目を転じたとき,間近に迫った松島の島影を初めて認め,急いで左舵一杯としたが,及ばず,03時12分久須見鼻灯標から238度750メートルの松島西岸に,その船首が久須見鼻灯標に向いたとき,原速力のまま乗り揚げた。
当時,天候は晴で風力2の北東風が吹き,潮候は下げ潮の中央期で,付近水域には約2ノットの東流があった。
乗揚の結果,左舷前部船底外板に亀裂を伴う凹損を生じた。
(海難の原因)
本件乗揚は,夜間,瀬戸内海の下津井瀬戸を東行中,船位の確認が不十分で,松島に向けて転舵進行したことによって発生したものである。
運航が適切でなかったのは,船長が,自ら操船の指揮が執れるよう,船橋当直者に対し,下津井瀬戸の手前に達したときには,その旨を報告するように指示しなかったことと,船橋当直者が,その旨を船長に報告しなかったこととによるものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,瀬戸内海の下津井瀬戸を東行する場合,同瀬戸では自らが操船の指揮がとれるよう,船橋当直者に対して同瀬戸の手前に達したときには,その旨を報告するように指示すべき注意義務があった。しかるに,同人は,乗組員の全員が経験豊富なので,任せておいても大丈夫と思い,報告するように指示しなかった職務上の過失により,自ら操船の指揮がとれないまま,船橋当直者が松島西岸に向けて転舵進行し,同岸への乗揚を招き,左舷前部船底外板に亀裂を伴う凹損及び擦過傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が,夜間,瀬戸内海の下津井瀬戸に向けて東行中,同瀬戸に接近した際,速やかにその旨をA受審人に報告しなかったことは,本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては,勧告しない。