(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年6月8日08時00分
石川県禄剛埼北西岸
(北緯37度31.7分 東経137度19.5分)
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第8昌喜丸 |
総トン数 |
19.5トン |
登録長 |
17.80メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
160 |
3 事実の経過
第8昌喜丸(以下「昌喜丸」という。)は,昭和52年5月に進水した専らいか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で,昭和52年6月に一級小型船舶操縦士免許を取得したA受審人ほか1人が乗り組み,操業の目的で,船首0.7メートル船尾1.4メートルの喫水をもって,平成17年6月7日14時00分石川県狼煙漁港(狼煙地区)を発し,同港北西方約35海里の漁場に至り,いか500キログラムばかりを獲て操業を終え,翌8日04時15分A受審人が単独で当直に就き同漁場を発進して帰航の途についた。
ところで,昌喜丸は,上甲板中央部に船室及び操舵室を配し,両舷に各5台のいか釣り機を装備し,操舵室内には,前面及び後面に接して棚を設けて中央部の船横方向を通路とし,前部棚上に,魚群探知用ソナー,GPSプロッター,魚群探知機,レーダー及び主機遠隔操縦装置を,同棚通路側に面して自動操舵装置を装備した舵輪を,後部棚上に,漁業無線装置,ファックス及びテレビを備え,通路に箱形の水温計を配置しており,A受審人が同水温計に腰を下ろして当直にあたった。
また,A受審人は,毎日,単独で当直に就いて14時ごろ出港し,17時30分ごろ漁場に到着して翌日明け方まで操業を行ったのち,水揚げのために単独で当直に就いて帰港し,09時ごろ水揚げを終えたのち,出港までの間に4時間ほどの睡眠をとることを繰り返していた。
06時56分A受審人は,禄剛埼灯台から330度(真方位,以下同じ。)10.1海里の地点で,針路を150度に定め,機関を全速力前進より少し下げて9.5ノットの対地速力で進行した。
07時28分A受審人は,禄剛埼灯台から329度5.0海里の地点に達したとき,日ごろの操業による疲れと周囲に他船を認めない安心感から眠気を催したが,あと30分ばかりで入港なので何とか我慢できるものと思い,休息中の甲板員を起こして2人当直とするなど,居眠り運航の防止措置を十分にとることなく,水温計に腰を下ろした姿勢で当直を続けるうちに,いつしか居眠りに陥った。
こうして,昌喜丸は,禄剛埼北西岸に向首したまま続航したが,A受審人が居眠りをしていてこのことに気付かず同一針路,速力で進行中,08時00分禄剛埼灯台から285度300メートルの地点において,原針路,原速力のまま浅礁に乗り揚げた。
当時,天候は晴で風力2の北西風が吹き,潮候は上げ潮の中央期であった。
乗揚の結果,船底外板に破口を伴う凹損並びに主機,魚群探知用ソナー及びいか釣り機等に濡損を生じたが,救助業者によって離礁し,のち,いずれも修理された。
(海難の原因)
本件乗揚は,石川県禄剛埼北西方沖合において,狼煙漁港に向けて帰航中,居眠り運航の防止措置が不十分で,同埼北西岸の浅礁に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,石川県禄剛埼北西方沖合において,単独で当直に就いて狼煙漁港に向け帰航中,眠気を催した場合,居眠り運航とならないよう,休息中の甲板員を起こして2人当直とするなどの居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかしながら,同人は,あと30分ばかりで狼煙漁港に入港するので,何とか我慢できるものと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,腰を下ろした姿勢のままでいるうちに居眠りに陥り,禄剛埼北西岸の浅礁に向首進行して乗揚を招き,船底外板に破口を伴う凹損並びに主機,魚群探知用ソナー及びいか釣り機等に濡損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。