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平成18年仙審第2号
件名

モーターボート シー マン セブン乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成18年8月18日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(小寺俊秋,弓田邦雄,供田仁男)

理事官
宮川尚一

受審人
A 職名:シー マン セブン船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船底外板全体に亀裂を伴う擦過傷,両推進装置に損傷,のち廃船

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は,居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年6月25日15時20分
 新潟県柏崎港南西方海岸
 (北緯37度21.0分 東経138度29.9分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 モーターボート シー マン セブン
総トン数 4.9トン
全長 8.85メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 323キロワット
(2)設備及び性能等
 シー マン セブン(以下「シ号」という。)は,平成14年5月に建造され,推進装置として2機の船内外機を装備し,船体中央部にキャビンを有するFRP製モーターボートで,キャビンの前部右舷側に操縦者用椅子(以下,単に「椅子」という。),操舵装置及びクラッチ,前面中央にGPS,左舷側に魚群探知機及びレーダーが,それぞれ備えられており,全速力前進で約33ノットの速力となり,最大搭載人員が12人と定められ,釣りなどのレジャーに供されていた。
 キャビンの前面及び両舷はガラス窓で,両舷の窓は船首尾方向にスライドして開放できるようになっており,また,キャビンの屋根はフライングブリッジになっていて,そこで操縦することができるようになっていた。

3 事実の経過
 シ号は,A受審人が1人で乗り組み,釣りの目的で,船首0.4メートル船尾0.6メートルの喫水をもって,平成17年6月25日06時30分新潟県のBマリーナ(以下「マリーナ」という。)を発し,同港北北西方約13海里沖合の釣り場に向かった。
 A受審人は,07時10分釣り場に至り,機関を中立運転として漂泊し,潮上りを繰り返しながら釣りを行い,遅めの昼食をとった後,14時40分柏崎港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から324度(真方位,以下同じ。)12.5海里の地点を発進し,マリーナへの帰途に就いた。
 発進したときA受審人は,GPSに入力してあったマリーナの位置により,自船から同位置へ向かう方位線を表示させ,同方位線に沿って針路を152度に定め,マリーナで艇を陸揚げできる時間に十分余裕があり,急ぐ必要がなかったことから,機関を半速力前進にかけ20.0ノットの対地速力とし,手動操舵によって進行した。
 ところで,A受審人は,食品製造会社の代表取締役の職に就いており,釣りに出掛けるときは,ほとんど仕事上の客を招待して同乗させていたが,本件当時,シ号を購入して初めて1人で出掛けたので,気楽な気分になっていた。
 また,A受審人は,職業柄,就寝時刻が不規則で,22時ごろ就寝し07時ごろ起床するように心掛けていたものの,前日24時ごろ就寝し,当日05時30分に起床したもので,平素と比べると睡眠不足の状態であった上,発進の直前に昼食をとったことから,キャビン内の椅子に腰掛けたまま操縦すると気が緩み,居眠りに陥るおそれがある状況であった。
 しかし,A受審人は,発進時に眠気を覚えていなかったので居眠りすることはないと思い,フライングブリッジに移動して風に当たり,気を引き締めて操縦するなど,居眠り運航の防止措置をとらず,キャビン内の椅子に腰掛け,両舷の窓を開けないまま釣り場を発進したものであった。
 A受審人は,14時59分半西防波堤灯台から316度6.1海里の地点に達したとき,GPSで,航程の約半分を航行したことを確認し,あと20分ばかりでマリーナに入港できるものと判断したころ,前示の状況に加え,海面が静穏で揺れがなかったことから気が緩み,眠気を覚える間もなく舵輪を握ったままの姿勢で居眠りに陥り,シ号は,針路が右方に9度振れて161度となり海岸線に向かって続航中,15時20分西防波堤灯台から225.5度2.8海里の地点において,原速力のまま,柏崎港南西方の海岸に乗り揚げた。
 当時,天候は晴で風力2の北北西風が吹き,潮候は上げ潮の末期であった。
 A受審人は,衝撃で目覚めて乗り揚げたことを知り,事後の措置に当たった。
 乗揚の結果,船底外板全体に亀裂を伴う擦過傷及び両推進装置に損傷をそれぞれ生じ,のち廃船処理された。

(本件発生に至る事由)
1 1人で出掛けたので気楽な気分になっていたこと
2 平素と比べると睡眠不足の状態であったこと
3 発進直前に昼食をとったこと
4 発進時に眠気を覚えていなかったので居眠りすることはないと思ったこと
5 フライングブリッジに移動して風に当たり,気を引き締めて操縦するなど,居眠り運航の防止措置をとらなかったこと
6 居眠りに陥ったこと

(原因の考察)
 本件は,居眠り運航の防止措置を十分にとっていれば,発生を回避できたものと認められる。しかしながら,A受審人は,平素と比べると睡眠不足の状態であったことに加え発進直前に昼食をとった上,1人で出掛けたので気楽な気分になっていたことから,居眠りに陥るおそれがある状況であったが,発進時に眠気を覚えていなかったので居眠りすることはないと思い,フライングブリッジに移動して風に当たり,気を引き締めて操縦するなど,居眠り運航の防止措置をとらずに操縦し,居眠りに陥ったものである。
 したがって,A受審人が,居眠り運航の防止措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件乗揚は,新潟県柏崎港北北西方沖合の釣り場を発進し,マリーナへの帰途に就く際,居眠り運航の防止措置が不十分で,同港南西方の海岸に向かって進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,新潟県柏崎港北北西方沖合の釣り場を発進し,マリーナへの帰途に就く場合,平素に比べて睡眠不足の状態であったことに加え発進直前に昼食をとった上,1人で出掛けて気楽な気分になっていたので,キャビン内の椅子に腰掛けて操縦すると気が緩み,居眠りに陥るおそれがあったから,フライングブリッジに移動して風に当たり,気を引き締めて操縦するなど,居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,眠気を覚えていなかったので居眠りすることはないと思い,居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により,居眠りに陥り,同港南西方の海岸に向首進行して乗揚を招き,船底外板全体に亀裂を伴う擦過傷及び推進器に損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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