(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年6月11日23時20分
山形県鼠ケ関港北方の海岸
(北緯38度34.1分 東経139度33.0分)
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船羽前丸 |
総トン数 |
14トン |
全長 |
21.40メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
479キロワット |
3 事実の経過
羽前丸は,かご網漁業と小型機船底びき網漁業に従事する船体中央部に操舵室を設けたFRP製漁船で,A受審人(平成4年11月一級小型船舶操縦士免許取得)及びB受審人(同14年4月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか1人が乗り組み,ばい貝かご網漁の目的で,船首1.2メートル船尾3.3メートルの喫水をもって,同17年6月11日00時00分鼠ケ関港を発し,同港北西方40海里沖合の漁場に向かった。
A受審人は,漁場までの所要時間をほぼ3等分して2人の甲板員と交替でそれぞれ単独の船橋当直を担い,04時00分漁場に着き,前回の操業で海中に4本投入しておいた,1本にかごが125個付いた長さ5キロメートルの延縄の揚縄を全員で始め,1本を揚げ終えるごとに,かごに新しい餌を入れて再び海中に投入し,3時間かけて1本の延縄を処理して1時間から1時間半かけて次の延縄に移動し,移動中には1人が船橋当直にあたり,他の2人が漁獲物の整理をしてその後に食事と短い休息をとりながら,終日操業を続け,4本の揚縄と投縄を行った。
20時30分A受審人は,粟島灯台から331.5度(真方位,以下同じ。)19.6海里の地点で,ばい貝700キログラムを漁獲して操業を終え,水揚げに間に合うよう直ちに帰途に就き,針路を113度に定め,全速力前進が15.0ノットのところ,燃料費節約のため9.2ノットの対地速力とし,往航と同様に3人で分担して最初の船橋当直にあたり,操舵を手動から自動に切り換えて進行した。
21時10分A受審人は,粟島灯台から346.5度15.2海里の地点に達し,船橋当直を第2直の甲板員に引き継ぐこととなったとき,長時間の操業とわずかな休息で誰もが睡眠不足となっており,同当直中に眠気を催しやすい状況であったが,平素から居眠りをするなと言っているので,改めて指示しなくとも大丈夫と思い,いすに腰掛けないこと及び眠くなったなら身体を動かしたりし,それでも眠気を払拭できなければ自分を起こすことと,これらのことを次の当直者に申し送るよう注意を与えるなど,居眠り運航の防止措置について十分に指示することなく,同甲板員と交替して,操舵室内の寝台で就寝した。
一方,B受審人は,帰途に就いたのち甲板を洗って漁具の整理などを済ませ,21時00分炊事室で就寝し,22時10分粟島灯台から024度12.1海里の地点に至ったとき,前直の甲板員に起こされ,何も引継ぎを受けないまま船橋当直に就き,前方を見渡して普段は多数出漁している漁船の明かりが見えなかったことから,操舵室右舷側のいすに腰掛け,鼠ケ関港の3海里手前に達したならば,いつものようにA受審人に報告し操船を交替してもらうつもりで,レーダーを見ながら東行した。
22時15分B受審人は,睡眠不足に加えて近くに漁船がいないことに気が緩み,眠気を感じたが,居眠りすることはないと思い,いすから降りて身体を動かしたりして眠気を払拭するなど,居眠り運航の防止措置を十分にとることなく,同じ姿勢で続航するうち,いつしか居眠りに陥り,23時00分半鼠ケ関港の3海里手前に達したものの,このことに気付かず,A受審人に報告できないまま,同港わずか北方の海岸に向首進行し,23時20分鼠ケ関灯台から037.5度1,440メートルの地点において,羽前丸は,原針路,原速力で,同海岸の干出岩に乗り揚げた。
当時,天候は雨で風力3の西南西風が吹き,潮候は下げ潮の末期であった。
乗揚の結果,球状船首部外板に凹損と推進器軸及び同翼に曲損を,船底外板にFRPの剥離とビルジキールの脱落をそれぞれ生じたが,のち修理された。
(海難の原因)
本件乗揚は,夜間,鼠ケ関港西北西方沖合の漁場から同港に向けて帰航中,居眠り運航の防止措置が不十分で,同港北方の海岸に向首進行したことによって発生したものである。
運航が適切でなかったのは,船長が,船橋当直者に対し,居眠り運航の防止措置について十分に指示しなかったことと,同当直者が,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかったこととによるものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,鼠ケ関港西北西方沖合の漁場から同港に向けて帰航中,船橋当直を甲板員に引き継ぐ場合,長時間の操業とわずかな休息で誰もが睡眠不足となっており,同当直中に眠気を催しやすい状況であったから,いすに腰掛けないこと及び眠くなったなら身体を動かしたりし,それでも眠気を払拭できなければ自分を起こすことと,これらのことを次の当直者に申し送るよう注意を与えるなど,居眠り運航の防止措置について十分に指示すべき注意義務があった。しかし,A受審人は,平素から居眠りをするなと言っているので,改めて指示しなくとも大丈夫と思い,居眠り運航の防止措置について十分に指示しなかった職務上の過失により,船橋当直者がいすに腰掛けたまま居眠りに陥り,鼠ケ関港北方の海岸に向首進行して干出岩への乗揚を招き,球状船首部外板に凹損と推進器軸及び同翼に曲損を,船底外板にFRPの剥離とビルジキールの脱落をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,夜間,鼠ケ関港西北西方沖合の漁場から同港に向けて帰航中,単独の船橋当直に就き,いすに腰掛けて眠気を催した場合,居眠り運航とならないよう,いすから降りて身体を動かしたりして眠気を払拭するなど,居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかし,同人は,居眠りすることはないと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,居眠りに陥り,同港手前の船長が操船にあたる地点に達したことに気付かず,このことを報告できないまま進行して,乗揚を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。