(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年4月28日08時38分
関門港
(北緯33度53.9分 東経130度53.8分)
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船ひろしま |
総トン数 |
499トン |
全長 |
75.93メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,471キロワット |
3 事実の経過
ひろしまは,平成16年4月に進水した全通二層甲板船尾船橋型の鋼製貨物船で,A受審人ほか4人が乗り組み,鋼材1,599トンを載せ,船首3.50メートル(m)船尾4.65mの喫水をもって,平成17年4月23日18時40分室蘭港を発し,日本海を航行して関門航路西口から砂津航路を通過したのち,揚荷待機となり,26日19時00分関門港小倉区末広岸壁に船尾係留で着岸した。
ところで,砂津航路は,関門航路のほぼ中央部において,南方に湾曲する箇所と接続し,その南西方向の砂津泊地や浅野岸壁等に通じる幅150ないし250m長さ約1,200mの航路で,水深が8m以上あり,両側境界線上に右舷又は左舷の各灯浮標が設置されていたものの,同航路を外れると水深5m以下の浅所海域となっていた。
越えて28日朝A受審人は,揚荷の目的で,約2海里の航程となる関門港小倉区日明北岸壁に移動することとしたが,入航のとき水深が表示されていない電子海図E3002を使用しながら初めて砂津航路に入り,無難に同航路を通過したから,改めて水路調査をするまでもないと思い,海図台に広げてあった海図W135に当たるなど同航路付近の水路調査を十分に行わなかったので,同航路を外れると水深5m以下の浅所海域となっていることに気付かなかった。
A受審人は,08時26分末広岸壁を離岸したのち,砂津泊地を北上し,08時32分砂津防波堤灯台から199度(真方位,以下同じ。)250mの地点において,針路を028度に定め,機関を回転数毎分160の極微速力前進にかけ,手動操舵によって5.0ノットの対地速力で進行した。
08時33分A受審人は,砂津防波堤灯台から191度120mとなる針路を砂津航路の中央に向けるべき地点に至ったが,同じ針路のまま続航し,08時34分少し前同灯台を左舷正横30mに見て航過したのち,砂津航路西方の浅所海域に向首進行中,同海域の水深のことが気になり,海図に当たるため,舵中央とし,海図台のところで老眼鏡を探していたところ,ひろしまは,同じ針路及び速力で進行し,08時36分水深5m以下の浅所海域に入り,08時38分砂津防波堤灯台から031度650mの,水深約4mとなる底質泥の地点において乗り揚げた。
当時,天候は晴で風力2の東北東風が吹き,潮候は上げ潮の中央期で,付近海域には微弱な西流があった。
乗揚の結果,後部船底に擦過傷を生じたのみで,曳船の来援を得て満潮時に離礁後,目的地に向けて続航し,のち損傷箇所が修理された。
(海難の原因)
本件乗揚は,関門港小倉区において,末広岸壁から日明北岸壁に移動する際,砂津航路付近の水路調査が不十分で,同航路西方の浅所海域に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,関門港小倉区において,末広岸壁から日明北岸壁に移動しようとする場合,砂津航路を外れると浅所海域となっていたから,同航路付近の水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,入航のとき無難に砂津航路を通過したから,改めて水路調査をするまでもないと思い,同航路付近の水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により,同航路西方の浅所海域に向首進行して乗揚を招き,後部船底に擦過傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。