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平成18年門審第28号
件名

貨物船菱日丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成18年7月5日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(小金沢重充,安藤周二,阿部直之)

理事官
川本 豊

受審人
A 職名:菱日丸二等航海士 海技免許:四級海技士(航海)

損害
船首船底外板に破口,船首部から中央部にかけての船底外板に亀裂を伴う凹損等

原因
船位確認不十分

主文

 本件乗揚は,船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年10月6日01時28分
 壱岐水道
 (北緯33度43.1分 東経129度54.9分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船菱日丸
総トン数 696トン
全長 72.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット
(2)設備及び性能等
 菱日丸は,平成17年9月に竣工した,限定沿海区域を航行区域とする船尾船橋型の液体化学薬品ばら積船で,主として茨城県鹿島港で過酸化水素を積み,三重県四日市港,大阪港,愛媛県新居浜港,同県三島川之江港,北海道釧路港及び熊本県八代港で荷揚げする運航に従事することになっていた。
 船橋内には,前部中央に操舵スタンドが,同スタンドの左舷側に電子海図内蔵のGPSプロッターとレーダーが,及び同右舷側に機関制御装置がそれぞれ設けられ,後部左舷側に海図台が置かれていた。
 海上試運転成績書によれば,ほぼ満載状態で対地速力12.71ノットの全速力前進中に,舵角35度で右旋回したとき,15度,60度,120度及び180度旋回に要する時間が,14秒,33秒,1分及び1分30秒,同左旋回したとき,15秒,32秒,59秒及び1分29秒で,12.71ノットの前進中に,後進発令から船体停止までの所要時間が2分10秒であった。

3 事実の経過
 菱日丸は,船長B及びA受審人のほか5人が乗り組み,過酸化水素1,400トンを積載し,船首3.75メートル船尾4.95メートルの喫水をもって,平成17年10月3日16時00分鹿島港を発し,八代港に向かった。
 B船長は,菱日丸が処女航海ということもあり,ケミカル船としての諸々の訓練を受けた後,乗組員に運航管理規程を遵守するように指導し,また,船橋当直を,自らが08時から12時及び20時から24時の時間帯を受け持ち,A受審人には00時から04時及び12時から16時,一等航海士には04時から08時及び16時から20時の各時間帯をそれぞれ単独で担当させる4時間交替の3直制とし,予定針路線付近の浅所等については,GPSプロッター及び海図に目印を付けるなどして注意を促していた。
 越えて5日23時30分ごろA受審人は,暗闇に目を慣らすために昇橋し,23時45分福岡県大島の西方7海里ばかりの地点で,前直のB船長から針路,速力及び付近の状況等の引継ぎ事項を受けて単独の船橋当直に就いた。
 翌6日00時00分A受審人は,栗ノ上礁灯標から327.5度(真方位,以下同じ。)4.7海里の地点で,針路を壱岐水道のほぼ中央に向かう235度に定め,機関を全速力前進にかけ,12.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
 ところで,壱岐水道は,長崎県壱岐島と佐賀県加唐島及び同県馬渡島との間に東西に開けた幅約8海里の水道で,同水道の中央付近には,名島灯台から110度3.0海里ばかりのところに直径約200メートルのほぼ円形の10メートル等深線で,浅い孤立岩上の水深1.2メートルと海図に記載されたガブ瀬が存在しており,A受審人は,壱岐水道を数回航行して同瀬の存在も,また,B船長が同瀬の位置にGPSプロッターには赤の点線で,海図には赤色鉛筆でそれぞれ目印を付けていたことも承知していた。
 01時00分A受審人は,烏帽子島灯台から024度4.3海里の地点で,前方約4海里と約5海里のところに漁船群のレーダー映像を認め,左舷前方には反航船のレーダー映像もあったことから,右舵をとり,針路をガブ瀬に寄せる247度に転じ,漁船群の動きを注視しながら続航した。
 01時18分A受審人は,烏帽子島灯台から328度3.0海里の地点に達したとき,GPSプロッターにプロットしてあった前示のガブ瀬までの方位距離が正船首2.0海里と分かり,その後,同瀬に向首接近する状況であったが,左舷方の漁船群の動向に気を取られ,海図に当たるなり,GPSプロッターを見るなりして相対位置を把握するなどの船位の確認を十分に行わなかったので,このことに気付かなかった。
 こうして,A受審人は,ガブ瀬に向首接近したまま進行中,01時28分名島灯台から109度3.0海里の地点において,菱日丸は,ガブ瀬に原針路原速力のまま乗り揚げ,そのまま擦過した。
 当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は下げ潮の中央期にあたり,視界は良好であった。
 B船長は,衝撃に驚いて直ちに昇橋し,ガブ瀬に乗り揚げて擦過したことを知り,事後の措置にあたった。
 乗揚の結果,船首船底外板に破口,船首部から中央部にかけての船底外板に亀裂を伴う凹損をそれぞれ生じ,船首倉及びバラストタンクに浸水したが,佐賀県唐津港へ自力で緊急入港し,のち修理された。

(本件発生に至る事由)
1 漁船群及び反航船がいたこと
2 ガブ瀬に寄せる針路に転じたこと
3 左舷方の漁船群の動向に気を取られ,海図に当たるなり,GPSプロッターを見るなりして相対位置を把握するなどの船位の確認を十分行わなかったこと

(原因の考察)
 本件は,船橋当直者が,海図に記載された浅い孤立岩上の水深1.2メートルのガブ瀬が存在する壱岐水道に向け航行中,船位の確認を十分に行っていれば,同瀬に向首接近していることに気付き,同瀬を避けることができたものと認められる。
 したがって,A受審人が,左舷方の漁船群に気を取られ,海図に当たるなり,GPSプロッターを見るなりして相対位置関係を把握するなどの船位の確認を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 漁船群及び反航船がいたこと,A受審人がガブ瀬に寄せる針路に転じたことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,壱岐水道を西行する際,船位の確認が不十分で,ガブ瀬に向首接近したまま進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,壱岐水道を西行する場合,ガブ瀬に寄せる針路としていたのであるから,海図に当たるなり,GPSプロッターを見るなりして相対位置を把握するなど,船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,左舷方の漁船群の動向に気を取られ,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,ガブ瀬に向首接近していることに気付かないまま進行して乗揚を招き,船首船底外板に破口を,船首部から中央部にかけての船底外板に亀裂を伴う凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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