(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年8月12日02時30分
広島県倉橋島鳶ヶ埼
(北緯34度05.1分 東経132度28.8分)
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船宮島丸 |
総トン数 |
4.9トン |
全長 |
14.20メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
46キロワット |
3 事実の経過
宮島丸は,平成3年4月に進水した底引き網漁業に従事する木製漁船で,昭和62年3月に一級小型船舶操縦士免許を取得したA受審人が1人で乗り組み,操業の目的で,船首0.2メートル船尾2.0メートルの喫水をもって,平成17年8月11日15時00分広島県倉橋島の須川を発し,同島城岸鼻南西方沖合から南方沖合にかけての漁場に向かった。
15時20分ごろA受審人は,漁場に至って操業を始め,漁獲物約90キログラムを獲て翌12日01時57分少し前西五番之砠灯標(以下「灯標」という。)から191度(真方位,以下同じ。)1,680メートルの地点で操業を終え,揚げ終えた網を再び海中に入れて約4ノットの対地速力(以下「速力」という。)で,これを洗浄しながら帰途についた。
ところで,A受審人は,日中には黒島水道でみずいかや雑魚などを,日没後には柱島水道をこれに沿い,潮流に乗って2.0ノットないし2.5ノットの曳網速力でえびやはもなどを対象とした底引き網漁を行っていた。
02時17分A受審人は,灯標から087度1,460メートルの地点で,網の洗浄を終えたので,折から視認していた大砠灯浮標の灯光を船首目標として須川に向けることにしたが,同灯光を左舷方に見る態勢で,航行すれば大丈夫と思い,倉橋島の鳶ヶ埼を十分に離す,安全な針路を選定することなく,同灯光をやや左舷方に見て鳶ヶ埼沖合の浅所に向首する046度に針路を定め,機関を全速力前進にかけて8.0ノットの速力とし,自動操舵により進行した。
定針後,A受審人は,操舵室後方の船尾甲板右舷側で,漁獲物の仕分けや操業後の後片付けを行っていたところ,02時29分灯標から060度2.13海里の地点に達したとき,大砠灯浮標を左舷正横に見る状況となり,正船首245メートルのところに,鳶ヶ埼沖合の浅所が存在していたものの,同灯浮標を十分に離していると思い続航した。
こうして,宮島丸は,A受審人が鳶ヶ埼沖合の浅所に向首していることに気付かないまま進行中,02時30分西五番之砠灯標から059度2.35海里の浅所に,原針路,原速力のまま,乗り揚げた。
当時,天候は晴で風力1の東北東風が吹き,潮候は下げ潮の初期で,視界は靄がかかってやや不良であった。
乗揚の結果,船首船底を圧壊したが,のち修理された。
(海難の原因)
本件乗揚は,夜間,広島県倉橋島鳶ヶ埼沖合を同島須川に向けて帰港中,針路の選定が不適切で,鳶ヶ埼沖合の浅所に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,広島県倉橋島鳶ヶ埼沖合を同島須川に向けて帰港する場合,鳶ヶ埼沖合の浅所に向首することのないよう,同埼を十分に離す,安全な針路を選定すべき注意義務があった。しかるに,同人は,大砠灯浮標の灯光を左舷方に見て航行すれば大丈夫と思い,同埼を十分に離す,安全な針路を選定しなかった職務上の過失により,鳶ヶ埼沖合の浅所に向首進行して同所への乗揚を招き,船首部船底を圧壊させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。