(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年3月18日13時00分
瀬戸内海燧灘バンダイ磯
(北緯34度05.70分 東経133度12.36分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
引船第3神好丸 |
起重機船海翔 |
総トン数 |
199トン |
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全長 |
38.77メートル |
120.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
2,942キロワット |
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(2)設備及び性能等
ア 第3神好丸
第3神好丸(以下「神好丸」という。)は,航行区域を限定沿海区域とし,船体ほぼ中央部に操舵室を設け,主機を両舷に設けて2機2軸とした鋼製引船兼作業船で,航海用具としてジャイロコンパス,レーダー2台,磁気コンパス及び音響測深機などを装備していた。
イ 海翔
海翔は,台船の甲板上に公称吊り上げ能力4,100トンのジブクレーンなどを設備した非自航式起重機船で,神好丸と同様,C社によって運用されていた。
3 神好丸の海翔曳航模様
神好丸は,同船の船尾に設置された曳航フックに直径120ミリメートル(以下「ミリ」という。)長さ約30メートルのナイロン製のロープの一端をとり,他端は,直径が56ミリで,全長が約400メートルのドラムに巻いたワイヤーロープをその時の状況に合わせて海翔前端両舷のローラービットから延出し,それをシャックルを介して曳航フックにとったロープと結合していた。
本件時はワイヤーロープを約65メートル延出し,神好丸の船首端から海翔の船尾端までの長さを約240メートルとしていた。
4 事実の経過
神好丸は,A,B両受審人ほか4人が乗り組み,門型クレーンの陸揚げの目的で,船首3.2メートル船尾4.0メートルの喫水をもって,作業員14人が乗り組み,両舷に操船の補助として使用するため,各1隻のタグボートを接舷させ,船首3.5メートル船尾6.5メートルの喫水となった海翔を船尾に引いて引船列(以下「神好丸引船列」という。)を構成し,平成17年3月18日10時00分広島県土生港を発し,愛媛県西条港至近の造船所に向かった。
11時05分A受審人は,高井神島灯台から340度(真方位,以下同じ。)3.55海里の地点に至り,午後から船橋当直の予定であったB受審人が昼食を終えて昇橋してきたので当直を交替することにしたが,その際,GPSプロッター画面にバンダイ磯を表示させていなかったので,後刻,昇橋して愛媛県美濃島東方沖合に存在するバンダイ磯を十分に離す針路とするよう指示するつもりで,この旨を指示することなく,自ら造船所到着時刻の計算のために引いた,バンダイ磯の暗岩上を通る方位線をGPSプロッター画面上に残したまま,この方位線は針路線ではないことを説明しないで,同人に船橋当直を委ねて降橋した。
ところで,バンダイ磯は,2つの暗岩からなり,東方の暗岩は美濃島112メートル三角点(以下「三角点」という。)から約111度1.21海里のところに,西方の暗岩は三角点から約117.5度1.05海里のところにあり,2つの暗岩は東西に約380メートル離れて存在していた。
また,バンダイ磯南東灯浮標が,三角点から約117度1.24海里のところに設置されており,同灯浮標の北西方約350メートルのところに同磯の西方の暗岩があり,両受審人はともに暗岩の存在を知っていた。
当直を引き継いだB受審人は,しばらくの間南西進したのち,11時21分少し過ぎ高井神島灯台から318度3.05海里の地点に達したので,GPSプロッター画面上に残っていた方位線を予定の針路線と思い,針路を西条港の港口付近に向く188度に定め,機関を全速力前進にかけて5.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし,自動操舵により進行した。
12時ごろA受審人は,造船所到着時刻の再確認とバンダイ磯の航過状況の確認のため再び昇橋したが,バンダイ磯南東灯浮標が前方に見えており,B受審人が少しずつ針路を右に曲げ,同磯を左に離すよう,操船しているように見えたので,もう同人に任せておいても大丈夫と思い,そのまま何も言わずに12時30分ごろ降橋した。
B受審人は,正午の船位をGPSプロッターで求めて航海日誌に記入した際,その船位がバンダイ磯南東灯浮標を左舷船首2度に見る状況となっており,バンダイ磯の西方の暗岩に向首する態勢となっていたが,GPSプロッター画面上に表示された方位線が左舷側に来るように航行すれば大丈夫と思い,その船位を海図に記入して船位の確認を行わなかったので,このことに気付かず,速やかに同磯を十分に離す針路とすることなく,方位線を左舷側に来るように約3度の当て舵を繰り返しながら続航した。
こうして,神好丸引船列は,B受審人がバンダイ磯の西方の暗岩に向首していることに気付かないまま進行中,13時00分神好丸が同暗岩を航過した直後,曳航中の海翔が同暗岩に,原針路,原速力のまま,乗り揚げた。
当時,天候は晴で風力5の北西風が吹き,潮候は上げ潮の中央期で,視界は良好であった。
乗揚の結果,海翔の船底外板に破口を生じたが,のち修理された。
(本件発生に至る事由)
1 神好丸
(1)A受審人が,GPSプロッターに造船所の到着時刻を確認した方位線を残し,その方位線は針路線ではないことをB受審人に説明しなかったこと
(2)A受審人が,B受審人が小刻みに右舵をとっていたので,バンダイ磯を十分に離して航行するものと思い,同磯を十分に離すように指示しなかったこと
(3)B受審人が,GPSプロッター画面上の方位線を針路線と思っていたこと
(4)B受審人が,バンダイ磯南東灯浮標を300メートルないし400メートル離して航過すると思っていたので,方位線を左舷方に来るように航行すれば大丈夫と思い,バンダイ磯を十分に離す針路にしなかったこと
(5)B受審人が,GPSプロッターで求めた船位を海図に記入するなどして船位を確認せず,専らGPSプロッターに頼って操船していたこと
2 その他
10メートルぐらいの北西の風が吹いていたこと
(原因の考察)
本件は,単独の船橋当直にあたって瀬戸内海燧灘を南下中に発生したもので,船橋当直者が,バンダイ磯を十分に離す針路をとっていれば本件は防止できたところである。
従って,A受審人が,造船所到着時刻の算定に使用した方位線をGPSプロッター画面上に残し,同線が針路線ではないことを説明せず,当直者に対してバンダイ磯を十分に離す針路をとるように指示しなかったことは本件発生の原因となる。
B受審人が,専らGPSプロッターに頼って操船にあたり,同画面上に残されていた方位線を針路線と思い込み,同線を左舷方に来るように航行すれば大丈夫と判断し,求めた正午の船位を海図に記入するなどして船位の確認を行わず,バンダイ磯南東灯浮標を約350メートル離して航過できると思い,バンダイ磯を十分に離す針路を選定しなかったことは本件発生の原因となる。
また,A受審人が,B受審人が小刻みに右舵をとっていたので,バンダイ磯を十分に離して航行するものと思っていたこと及び北西の風が毎秒10メートル以上吹いていたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。
(海難の原因)
本件乗揚は,強い北西風が吹く状況下,瀬戸内海燧灘を愛媛県西条港に向けて南下する際,針路の選定が不適切で,風下に圧流され,バンダイ磯に向首進行したことによって発生したものである。
運航が適切でなかったのは,船長が,船橋当直者に同当直を行わせる際,バンダイ磯を十分に離す適切な針路を選定するよう指示しなかったことと,船橋当直者が,同磯を十分に離す適切な針路を選定しなかったこととによるものである。
(受審人の所為)
B受審人は,強い北西風が吹く状況下,瀬戸内海燧灘を愛媛県西条港に向けて南下する場合,航路の途中に存在するバンダイ磯に著しく接近することのないよう,針路の選定を適切に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,GPSプロッター画面上にたまたま表示されていた
方位線が針路線で,同線を左舷方に来るように航行すれば大丈夫と思い,針路の選定を適切に行わなかった職務上の過失により,バンダイ磯を十分に離す針路としないまま進行して海翔の同磯への乗揚を招き,船底外板に破口を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
A受審人は,強い北西風が吹く状況下,瀬戸内海燧灘を愛媛県西条港に向けて南下中,船橋当直を交替する場合,船橋当直者に対し,航路の途中に存在するバンダイ磯に著しく接近することのないよう,同磯を十分に離す針路とするよう指示すべき注意義務があった。しかるに,同人は,その後船橋当直者の操船模様の確認のため昇橋したとき,船橋当直者が小刻みに右舵をとっているので,同磯を十分に離すように操船しているものと思い,同磯を十分に離す針路とするよう指示しなかった職務上の過失により,船橋当直者がバンダイ磯を十分に離す針路としないまま進行して海翔が同磯へ乗り揚げる事態を招き,前示損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
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