(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年10月3日04時50分
和歌山県友ケ島地ノ島南岸
(北緯34度17.6分 東経135度03.2分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
貨物船天神丸 |
総トン数 |
197トン |
登録長 |
48.15メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
(2)設備及び性能等
天神丸は,平成6年5月に進水した沿海区域を航行区域とする船首部にデリックポスト及びブームを備えた船尾船橋型の鋼製木材運搬船で,主に,南洋材や北米材を広島,高松,坂出で積み込み,松山,姫路で荷揚する輸送に従事していた。
船橋内前面には,1人が通行できる空間があり,その後方に左からGPSプロッタ,レーダー,ジャイロコンパス,操舵装置,主機遠隔操縦装置を組み込んだコンソールがあった。コンソール中央後面には,舵輪が取り付けられており,その後方に1.5メートルの空間をおいて,後壁に接して左舷には一段高くなった畳敷きがあり,中央には居住区に降りる階段室,右舷に海図台が設置されていた。
3 事実の経過
天神丸は,A受審人ほか2人が乗り組み,空倉のまま,積荷の目的で,船首2.0メートル船尾3.0メートルの喫水をもって,平成17年10月3日02時00分和歌山県御坊港を発し,友ケ島水道加太瀬戸経由で大阪府阪南港へ向かった。
ところで,A受審人は,天神丸が,休息の目的で同月1日の夕刻御坊港へ入港したとき,次港での積荷の関係で3日真夜中の出港になることを知ったが,2日の午前中に塗装など船内の整備作業を行い,午後は十分な休息時間があったが,揚貨機及び揚錨機用の燃料を船尾から船首部へ移動する必要があったので,甲板員の身体が弱かったこともあって,1人で20リットル入りポリタンクでA重油を6回運んだあと,十分な休息をとることなく,その後も雑用を行い,夕食をとって21時00分就寝し,出港時刻に合わせて3日01時00分起床したため,4時間足らずの睡眠と前日の作業の疲れが残ったまま,睡眠不足の状態となっていた。
船橋当直は,短い航海では,船主の息子である甲板員とA受審人の2人による単独の3時間交替の輪番制で行うことにしていた。
A受審人は,船尾部での出港作業に引き続いて,機関長から操船を引き継ぎ,出港時起動したジャイロコンパスがまだ整定していなかったので,レーダー及びGPSプロッタの画面を見ながら,単独で立った姿勢で見張りに当たり,紀伊水道を加太瀬戸に向け北上した。
03時50分A受審人は,下津沖ノ島灯台から266度(真方位,以下同じ。)1.3海里の地点に達したとき,ジャイロコンパスが整定したので自動操舵に切り換えて針路を001度に定め,機関を全速力前進にかけ,11.0ノット(対地速力,以下同じ。)の速力で,疲れもあったので操舵室内左舷後部の畳の上に座って進行した。
04時09分A受審人は,下津沖ノ島灯台から340度3.6海里の地点に達したとき,前路に認めていた漁船を航過して支障となる他船もいなくなった安堵感と睡眠不足とが重なって眠気を催し,そのまま単独で船橋当直を続けていると居眠りに陥るおそれがあったが,当直交替時間まで約1時間であったことから,それぐらいならば,なんとか眠気を我慢できるだろうと思い,次直の甲板員を早めに昇橋させて2人当直とするなど居眠り運航の防止措置をとらなかった。
その後,A受審人は,畳の上に座って積み上げた新聞紙に右肘を付いてもたれ掛かるうち,いつしか居眠りに陥ったまま浅礁に向首して続航中,天神丸は,04時50分地ノ島灯台から232度750メートルの地点において,原針路,原速力で,地ノ島南岸の浅礁に乗り揚げた。
当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は上げ潮の末期であった。
乗揚の結果,天神丸は左舷船底外板等に破口を生じたが,のち修理された。
(本件発生に至る事由)
1 出港時起動したジャイロコンパスが整定していなかったこと
2 出港前に十分な休息時間があったが,十分な睡眠をとらず,疲れを残したまま睡眠不足の状態であったこと
3 畳の上に座った姿勢で見張りを行ったこと
4 支障となる他船もいなくなった安堵感と睡眠不足とが重なって眠気を催したこと
5 次直の甲板員を早めに昇橋させて2人当直とするなどして居眠り運航の防止措置を十分にとらなかったこと
6 A受審人が,単独船橋当直中,居眠りに陥ったこと
(原因の考察)
本件は,単独の船橋当直者が,眠気を催した場合,速やかに次直の当直者を呼んで2人当直とするなどして,居眠り運航の防止措置を十分にとっていたならば,居眠りに陥る事態には至らず,浅礁に向首して進行するような状況を招くことはなく,乗揚を避けることができたものと認められる。
したがって,A受審人が,眠気を催したとき,次直の甲板員を早めに昇橋させて2人当直とするなどして,居眠り運航の防止措置を十分にとることなく,居眠りに陥ったことは,本件発生の原因となる。
A受審人が,出港時起動したジャイロコンパスが整定していなかったこと,出港前に十分な休息時間があったが,十分な睡眠をとらず,疲れを残したまま睡眠不足の状態であったこと,及び畳の上に座った姿勢で見張りに当たっていたことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
支障となる他船もいなくなった安堵感と睡眠不足とが重なって眠気を催したことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。
(海難の原因)
本件乗揚は,夜間,友ケ島水道加太瀬戸に向けて紀伊水道を北上中,居眠り運航の防止措置が不十分で,地ノ島南岸の浅礁に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,単独で船橋当直に当たり紀伊水道を北上中,眠気を催した場合,そのまま当直を続けていると睡眠不足により居眠りに陥るおそれがあったから,居眠り運航とならないよう,次直の甲板員を早めに昇橋させて2人当直とするなど,居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,当直交替時間まで約1時間であったことから,なんとか眠気を我慢できるだろうと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,居眠りに陥り,地ノ島南岸の浅礁に向首進行して乗揚を招き,左舷船底外板等に破口を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。
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