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平成18年神審第10号
件名

漁船ツェ ツォ ユー レン108乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成18年7月5日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(清重隆彦,濱本 宏,加藤昌平)

理事官
稲木秀邦

指定海難関係人
A 職名:ツェ ツォ ユー レン108船長

損害
中央部船底左舷側に亀裂

原因
船位確認不十分

主文

 本件乗揚は,船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年9月5日18時02分
 七尾湾
 (北緯37度10.3分東経137度03.3分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船ツェ ツォ ユー レン108
総トン数 832トン
全長 65.23メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 662キロワット
(2)設備及び性能等
 ツェ ツォ ユー レン108(以下「ツェ号」という。)は,西暦1986年12月に中華人民共和国で竣工した船尾船橋型の鋼製漁獲物冷凍運搬船で,船橋中央部に舵輪を,右舷側にGPS及び1号レーダーを,その後方に機関操縦ハンドルを,左舷側に2号レーダーをそれぞれ備えていた。

3 事実の経過
 ツェ号は,A指定海難関係人ほか中華人民共和国人20人が乗り組み,僚船から冷凍いか約1,000トンを転載し,船首3.6メートル船尾4.4メートルの喫水で,平成17年9月1日05時00分北緯43度10分 東経156度08分付近の漁場を発し,津軽海峡経由で中華人民共和国舟山港に向かう途上,台風第14号の進路情報を入手し,同月4日08時ごろ津軽海峡を西に向かって航行中,同台風を避けるため七尾北湾(以下「北湾」という。)に避泊することとして同湾に向かった。
 ところで,北湾入口にあたる大口付近には,祖母ケ浦港東防波堤灯台(以下「東防波堤灯台」という。)から063度(真方位,以下同じ。)2.1海里,同灯台から080度1.3海里及び同灯台から051度0.6海里の各地点を中心に,定置漁業漁場第53号,同64号及び同63号の各漁場が設定され,周囲には定置網の存在を示す赤色球形浮標が多数設置されていたほか,周辺には多数の同漁場が設定され同じような浮標が多数設置されていた。
 そして,A指定海難関係人は,1年ほど前台風避難のため,日本版海図第1163号を使用して北湾に入湾したことがあり,北湾入口付近には多数の定置網が設置されていること及び祖母ケ浦埼北東方には浅礁域があることを知っていた。
 A指定海難関係人は,同月5日16時45分能登小木港南方4海里ばかりの地点で,一等航海士から船橋当直を引き継ぎ,機関を全速力前進にかけて9.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で,甲板手を舵輪に就けて手動操舵で南下し,17時20分東防波堤灯台から078度5.4海里の地点で,針路を268度に定めて同じ速力で続航した。
 17時41分A指定海難関係人は,東防波堤灯台から065度2.3海里の地点に達したとき,前路に定置漁業漁場第53号の区域に設置された多数の赤色球形浮標を認め,速力を4.0ノットに減速し,同浮標を右舷側に見て航過することとして左舵20度をとり,針路を250度に転じて同じ速力で進行した。
 A指定海難関係人は,17時49分半東防波堤灯台から064度1.7海里の地点に至ったとき,左舷及び右舷それぞれの前方に定置漁業漁場第63号及び同第64号の両区域に設置された赤色球形浮標を多数認め,再度,針路を232度に転じ,機関を停止して惰力で続航し,そのまま進行すると祖母ケ浦埼北東方の浅礁域に進入する状況であったが,北湾に向かう可航水路を探ることに気をとられ,周辺の定置網の存在を示す多数の赤色球形浮標を注視していて,休息中の航海士を昇橋させて船位を求めるよう指示するなどして船位の確認を十分に行っていなかったので,この状況に気付かなかった。
 ツェ号は,機関を適宜調整しながら惰力で続航中,18時02分少し前A指定海難関係人が,周囲の陸岸を目視して祖母ケ浦埼北東方の浅礁域に進入していることに気付き,機関を全速力前進にかけ,右舵をとって右転中,18時02分東防波堤灯台から073度1.05海里の地点において,310度に向首したとき2.5ノットの速力で浅礁に乗り揚げた。
 当時,天候は曇で風力4の北東風が吹き,潮候は下げ潮の初期であった。
 乗揚の結果,中央部船底左舷側に長さ2メートル幅5センチメートルの亀裂を生じた。

(本件発生に至る事由)
1 北湾に向かう可航水路を探ることに気をとられ定置網の存在を示す赤色球形浮標を注視していたこと
2 休息中の航海士を昇橋させて船位を求めるよう指示しなかったこと
3 船位の確認を十分に行わなかったこと

(原因の考察)
 本件は,船位の確認を十分に行っていたならば,祖母ケ浦埼北東方の浅礁域に向かって進行していることが分かり,乗揚を回避できたものと認められる。
 したがって,A指定海難関係人が,北湾に向かう可航水路を探ることに気をとられ,定置網の存在を示す赤色球形浮標を注視していて,休息中の航海士を昇橋させて船位を求めるよう指示するなどして船位の確認を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件乗揚は,定置網が多数設置された北湾入口付近において,台風避難のため,同湾に入航する際,船位の確認が不十分で,浅礁域に向かって進行したことによって発生したものである。

(指定海難関係人の所為)
 A指定海難関係人が,定置網が多数設置された北湾入口付近において,台風避難のため,同湾に入航する際,船位の確認を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 A指定海難関係人に対しては,勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





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