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平成17年仙審第76号
件名

貨物船八協和乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成18年7月28日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(供田仁男,弓田邦雄,小寺俊秋)

理事官
宮川尚一

受審人
A 職名:八協和一等航海士 海技免許:四級海技士(航海)(履歴限定)

損害
右舷船首部外板に亀裂を伴う凹損,バウスラスター室に浸水

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は,居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの四級海技士(航海)の業務を1箇月15日停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年6月26日04時20分
 高知県沖ノ島北方の黒碆
 (北緯32度46.5分 東経132度33.3分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船八協和
総トン数 499トン
全長 76.14メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,176キロワット
(2)設備及び性能等
 八協和は,平成2年1月に進水した全通二層甲板の船尾船橋型鋼製貨物船で,バウスラスターを装備し,操舵室には,前部中央に操舵装置,主機及び同スラスターの各遠隔制御装置などを組み込んだコンソール,その左舷側にレーダー2台,左舷後部に海図台などをそれぞれ配したほか,GPSを備え,舵輪後方に背もたれ及び肘掛け付きのいすを設置し,同海図台上には針路線を記入した海図が常に置かれていた。
 レーダーは,2台のうち1台が電子海図情報表示機能を備え,海図台上の海図に相当する情報を,レーダーレンジの切換えによって縮小あるいは拡大して表示することができ,次の転針地点を入力すると,同地点までの針路線が画面に表示されるようになっていた。
(3)運航及び就労等
 八協和は,石灰石,石炭,石炭灰などを主な積荷とし,北海道から瀬戸内海に至る港間の不定期航路に就航しており,航海時間は航路によって異なるものの,積荷役及び揚荷役ともに要する時間が平均7時間ないし8時間であった。
 船橋当直は,船長,一等航海士及び甲板員の順による単独4時間交替の3直制で,甲板員の同当直には五級海技士(航海)の海技免許を有する一等機関士が機関室当直の合間に昇橋し,狭水道や狭視界時などには船長が操船の指揮を執り,甲板部では航海中に船橋当直以外の船務はほとんどなかった。
 停泊中には,船主である船長が主に1人で積荷役及び揚荷役に立ち会い,他の乗組員は,荷役終了後の甲板洗いに加わるほかは,休息をとることができ,出港時に睡眠不足や疲労が蓄積した状態となっていることはなかった。

3 事実の経過
 八協和は,船長B及びA受審人ほか3人が乗り組み,便乗者2人を乗せ,平成17年6月25日04時10分山口県小野田港に入港し,石灰石1,530トンの積荷役を行い,船首3.72メートル船尾4.83メートルの喫水をもって,16時55分同港を出港し,愛知県名古屋港に向かった。
 A受審人は,出港作業を終え,自室で休息をとったのち,四国西岸沖合を南下中,翌26日01時00分日振島灯台から276度(真方位,以下同じ。)7.4海里の地点に至ったとき,昇橋して船橋当直に就き,自動操舵により,針路をB船長から引き継いだ138度に定め,機関を全速力前進にかけて9.9ノットの対地速力で,レーダーの電子海図情報画面に表示された針路線に従って進行し,いすに腰掛けて同画面を見るとともに,見張りにあたった。
 02時00分A受審人は,水ノ子島灯台から076度4.0海里の地点に差し掛かったころ,近くに航行の妨げとなる他船が見当たらないことから,気が緩み,眠気を感じるようになったが,これまで当直中に眠ったことがないから大丈夫と思い,いすから降り身体を動かして眠気を払うなど,居眠り運航の防止措置を十分にとることなく,同じ姿勢で続航するうち,いつしか居眠りに陥った。
 03時58分少し過ぎA受審人は,宿毛湾湾口部の鵜来島に並航し,同湾南部の柏島とその西方の黒碆と呼ばれる険礁との間に向けて左転する転針予定地点に達したものの,このことに気付かず,同地点を通過して同碆に向首したまま進行し,04時20分土佐烏帽子埼灯台から018度1.3海里の地点において,八協和は,原針路,原速力で,黒碆に乗り揚げた。
 当時,天候は晴で風力2の東北東風が吹き,潮候は上げ潮の初期であった。
 乗揚の結果,八協和は,右舷船首部の水面下外板に亀裂を伴う凹損を生じて黒碆を乗り切り,衝撃でA受審人が目覚めたものの,衝撃の原因を調べずに続航し,05時00分少し前次直の一等機関士と甲板員が昇橋して,船体が右舷側に傾斜していることに気付き,バウスラスター室への浸水を発見し,報告を受けたB船長が直ちに排水を始めたが,浸水が激しいことから,海上保安部に通報すると同時に引き返し,黒碆の近くで投錨してサルベージ業者を手配した。
 八協和は,06時00分巡視船が来援して排水作業に加わったものの,船体が右舷側に20度傾斜し,17時00分到着した作業船のダイバーによる防水作業が開始され,23時00分同作業の終了後,タグボートに曳航されて,翌27日06時10分愛媛県宇和島港に入港し,待機したのち,7月6日広島県福山港に回航して揚荷役を行い,同日同県大崎上島の造船所に赴き,本修理が施工された。

(本件発生に至る事由)
1 近くに航行の妨げとなる他船が見当たらないことから,気が緩み,眠気を感じるようになったこと
2 これまで当直中に眠ったことがないから大丈夫と思い,いすから降り身体を動かして眠気を払うなど,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかったこと
3 居眠りに陥ったこと

(原因の考察)
 本件は,夜間,単独の船橋当直者が,居眠りに陥り,転針予定地点で転針しなかったことから,険礁に向首進行したことによって発生したもので,居眠り運航の防止措置が十分にとられていたなら,乗揚は回避されたと認められる。
 A受審人は,船橋当直に就く前に十分な休息をとっており,睡眠不足や疲労が蓄積した状態にはなく,近くに航行の妨げとなる他船が見当たらないことから,気が緩み,眠気を感じるようになった際,いすから降りて身体を動かすなどすることで容易に眠気を払うことができたはずである。
 従って,A受審人が,これまで当直中に眠ったことがないから大丈夫と思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかったことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,四国西岸沖合を南下中,居眠り運航の防止措置が不十分で,転針予定地点を通過し,黒碆に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,単独の船橋当直に就き,いすに腰掛けて四国西岸沖合を南下中,近くに航行の妨げとなる他船が見当たらないことから,気が緩み,眠気を感じるようになった場合,いすから降り身体を動かして眠気を払うなど,居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかし,同人は,これまで当直中に眠ったことがないから大丈夫と思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,居眠りに陥り,転針予定地点に達したことに気付かず,黒碆に向首進行して乗揚を招き,右舷船首部の水面下外板に亀裂を伴う凹損を生じさせてバウスラスター室に浸水させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月15日停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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